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「河童のミイラ」より、続編となります。
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これは、俺が大学に入って、初めての夏を迎えた頃に体験した話だ。
前回、俺は心霊サークルのオフ会で出会った、怪しげなゴスロリ少女、√(ルート)と名乗る少女から、何の因果か、河童のミイラを預かる事となった。
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呪いの河童のミイラ……持ち主は火事で焼け死ぬと言う曰くつきのミイラだが、実際に俺がこのミイラを預かる事になった際、謎の子供の泣き声を耳にしてしまった。
果たして、これは本当に河童のミイラの仕業なのか?そして、√が最後に言い残した言葉、
「私、それが河童のミイラだなんて、一言も言ってないから……」
この言葉が意味するものとは……
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「ああ、マジどうしよう、これ……」
俺はアパートの部屋に帰り着き、改めてアタッシュケースをテーブルの上に置いて、中身を確認するかどうか思い悩んでいた。
ケースのロックを外し、蓋を開けようか迷っていると、ふと√の言葉が頭を過ぎった。
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『大丈夫、別にケースから出して部屋に飾っておかなくても、ケースの中に入れたままで十分効果あるから』
出さなくてもいいのか……
正直、霊障云々と言うより、ただ単にミイラの見た目自体気味が悪い。
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「このままでいいか」
俺は再びロックを掛け、アタッシュケースを部屋の隅へとどかした。
音楽をかけ流し、側にあった読みかけの雑誌を手にとる。
別に焦らなくてもいい、時間ならある。
オフ会と喫茶店で耳にした子供の声だって、あれが本当に河童のミイラの仕業なんて確証はない。
そう自分に言い聞かせるようにしながら、俺はその日、極力何も考えないようにして過ごす事にした。
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どれぐらい時間が立っただろう。
気がつくと、俺は座布団を枕にして、いつの間にか眠りについていた。
「寝ちまった……」
腕時計に目をやると、短い針が8を示している。
ぽつんぽつん、ぽたぽた、
不意に聞こえる音、雨だ。
「やべ、洗濯物」
ハッとしてベランダに出る。
干してある衣服を回収していると、
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「おはよう」
お隣さんからベランダ越しに声を掛けられた。
慌てて俺も挨拶を返す。
歳は30代、前に本人から、このアパートの近くの飲み屋で働いていると、聞かされたことがある。
「そういえば、親戚の子でも遊びに来てるの?」
「えっ?」
子供?突然何の話だ?
「何~とぼけちゃって、昨日私がお店から帰ってきたら、あなたの部屋から子供の泣き声がずっとしてたわよ?私はいいけど、下の階の人、けっこう神経質だから気をつけないとだめよ?」
女性はそう言い残して、洗濯物を取り込み部屋の中へ戻っていった。
「まさか……」
俺はずぶ濡れになっていく衣服を取り込むのも忘れ、すぐさま部屋の中へと引き返した。
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テーブルの上、√から預かった黒のアタッシュケース。
特に変わりはない。俺は中を確かめようとケースに手を伸ばした。
「なっ……!?」
ロックが……外れている。
おかしい。
昨日確かにロックは掛けたはずだ。
壊れた?
そう思いチェックするも壊れた様子はない。
『あなたの部屋から子供の泣き声がずっとしてたわよ?』
お隣さんの声が、不意に俺の頭の中で再生された。
何だか急に寒くなってきた。
夏だというのに身震いがする。
これはまずい……
俺はアタッシュケースを手に持つと、タバコと財布、スマホをポケットに突っ込みながら、着の身着のまま慌てて部屋を後にした。
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「えっ?いいの?まじで?」
俺は近くの喫茶店で朝飯を済ませると、スマホで大学の友人と通話をしていた。
友人は大学で教授の助手をしており、何かと調べ物をする時にかなり重宝している。
そう、俺はこの河童のミイラを科学的にも調べてみようと思い、大学の友人に調べてもらえないか頼んでいる最中だった。
《ああ。夏休みで暇だし、今は教授の留守を預かってるだけだしな。エックス線でもMRIでも何でも使って調べてやるよ》
なんと驚いた事に即答。よほど暇なのだろうか?
「すぐ行く!」
俺は直ぐに返事を返し通話を切ると、今度はネットを使って心霊サークルのHPへと飛んだ。
実は朝飯を食う前に、サークルの掲示板を使って√に連絡を取っていた。
どうしても知っておきたい事があったのだ。
「おっ、レスついてる」
確認すると、√だ。レスには、T・Kと書かれていた。
俺の知りたかった事、それは、例の家事で焼け死んだという、河童のミイラの生前の持ち主の名前だ。
√の話をまったく信じていないわけではない。ただ、やはり自分の目で確認してみないことには、この件に関しては謎が多いような気がした。
時間がない。俺は名前を書き留めると、√に、連絡先教えてくれ、掲示板だと何かと不便だ、と、レスを書き込みスマホをポケットにしまった。
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喫茶店を出た俺は真っ直ぐ大学へと向かった。
途中顔見知りの何人かと出くわし、アタッシュケースの事を聞かれたが、まさか中には河童のミイラが、と答えるわけにも行かないので、なるべく人目を避けるようにして、友人の待つ研究室へと向かった。
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「悪いな、急に変なこと頼んじゃって」
「おっ意外と早かったな、コーヒーでも飲むか?」
研究室に入ると、友人のHが丁度コーヒーを作っていた。
「ああ、一杯もらうよ」
俺はそう言うと、空いていた研究室のテーブルの上にアタッシュケースを置いて、手近にあった椅子に腰掛ける。
「それか?例のものは?」
Hがコーヒーを入れながら、アタッシュケースを顎でしゃくって見せた。
「あ、ああ、まあな……」
俺はHから手渡されたコーヒーを手に取り、すぐに口に含んだ。少し苦いが落ち着く。
「元気ないな、オカルト好きなお前には願ってもない代物だろ?」
「願っても……ないか」
確かに願ってもない代物のはずなのだが、何だろう……何か今回の件に関しては嫌な予感がする。
今までも何度か霊体験はしたが、ここまで不安な気持ちになるのは初めてだ。
勘ぐり過ぎかもしれないが……
「さてと、んじゃ、早速そのミイラとやらの分析を始めるか」
「ああ、頼む。時間かかるよな?適当に時間潰してるから、終わったら教えてくれ」
「あいよ」
Hはそう言ってからアタッシュケースを手に取ると、コーヒーを片手に奥の部屋へと入っていった。
相変わらず軽いやつだが、腕は確かだ。
教授に気に入られて助手になれたのも頷ける。
さて、俺はどうしたものか。
あたりをキョロキョロと見回すが、特に興味を引くものはなく、仕方なしに、そこら辺に積まれていた難しそうな本に目を通すことにした。
これならよく眠れそうだ。
本を開き椅子によっかかりながら、しばらく本と睨めっこをしていると、案の定、大きなあくびが出てきた。
そのまま本を置いて腕組しながら目を瞑る。
意識が淀み、体から力が抜ける。
どれくらい立っただろうか、寝ているのか寝ていないのか、自分でも識別できないでいると、不意に腕を引っ張られた事により、俺の意識は戻った。
「おっ、もう分かったのか?」
そう言って後ろを振り向く。
誰もいない。
「H?」
辺りを見回すが誰もいない。
おかしいなと頭を捻っていると、またもや腕を引っ張られた。
「おい、さっきから何な、」
少しムッとしながら後ろを振り向いたその時だ、
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能面のような子供の顔があった。
まるで血の通っていない、生気のない青白い顔の子供が、着物姿で俺の後ろに立っていた。
叫び声を上げそうになった、が、声が出ない。
首が動かない、目が子供から逸らせない、いや、体が動かない!?
心臓が恐ろしいほどの速さで鳴っているのが分かる、早すぎて止まりそうだ。
俺の体は椅子に縛り付けられたかのように、その場で固まってしまった。
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目の前で子供が動く。
両手がスゥッと上がり、青白い両の手が、俺の首にまとわりついた。
まるで氷の塊を首に押し当てられたかのように冷たい。
必死に首を振ろうとするが無駄な抵抗だった。
両の手は俺の首を握り、やがて、
shake
「グっ!?」
その手に、徐々に力が込められていく。子供の力とはとても思えない力で、
息ができない、圧迫され血が逆流していく、意識が……
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ガチャッ、
突然ドアの開く音が鳴った、と同時に首にまとわりついていた手の感触がスッと消えた。
shake
「ぐはぁっッ!?」
堰を切ったかのように、俺の口からは咽るような咳が漏れた。
突然のことにHが俺の側に駆け寄ってきた。
「おいどうした?大丈夫か!?」
「ゴホッ、はぁはぁ……」
視界が鮮明になり、辺りを見回すが子供の姿はもうない。
あれは……なんだ?
「おい、その首!?」
Hが気味の悪そうな顔で俺の首元を指差している。
「えっ?」
思わず首をさすりながら、近くにあった鏡を見ると、
「こ、これ……!?」
俺の首には、薄っすらと赤黒い痕がついていた。よくみればそれは小さな手のような痕にも見える。
あれは、夢じゃない……
ゾクゾクとした悪寒が体中を駆け巡り、今すぐにでも胃の中のものをぶちまけたい衝動に駆られた。
「おい、まじでどうしたんだお前?その首といい……もう今日は病院行って休め。とりあえずデータ採取はできたから、あとは成分表と照らし合わせるだけだ、何か分かったら連絡するからさ」
Hは俺の肩を軽く叩きながら、心配そうに言ってくれた。
「あ、ああ悪い、そうするよ……」
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その後、俺はHに言われるまま、預けたアタッシュケースを返してもらい、大学を後にした。
Hに首の件は病院に見せたほうが良いと言われたが、それはおそらく無駄だろう。
気遣いはありがたいが、今はこいつの情報が少しでも欲しい。
「T・K……」
不意に、俺は呟いた。
√が教えてくれた名前だ。
こいつの……ミイラの生前の持ち主。
俺はすぐにスマホを開くと、名前を打ち込み、火災事件のキーワードと共にその名前を探した。
検索を続けること数十分、おそらくこれではないかという事件にヒットした。
亡くなった人物は生前変わった趣味があり、コレクションの数々を別館に収めていたらしく、火元はそこから上がったとの事。
変わった趣味のコレクション、おそらくこれに間違いはないだろう。
有難い事に場所もそう遠くはない。大学前の駅から二駅行った側だ。
俺はスマホをしまうと、おぼつかない足取りで駅を目指した。
正直今日はHの言うとおり無理せず休みたい、しかしさっきの研究室で見たあれは……
ふと、視線を地面に落とす。
あれが一体何なのか、それが分かるまでは、家にいても落ち着けはしないだろう。
ジリジリと音がしそうな午後の日差し、照り返すアスファルトに眩暈を覚えながらも、俺は顔を上げ、再び駅を目指し歩き始めた。
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やがて駅に着いた俺は、切符を買いホームへと向かった。
夏休みに入ったせいか、電車を待つ人の姿もまばらだ。
椅子に座ろうか迷っていると、案内のアナウンスが流れ始めた。
《間もなく、電車が……》
俺は座るのを諦め線路側に立つと、向かってくる電車に目をやった。
shake
ドンッ
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「えっ?」
一瞬だった。
腰の部分に衝撃があった。体勢を崩しながら瞬間後ろを見た。
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子供だ、着物姿。
だが顔が……顔がグチャグチャだ。顔の中央が陥没したかのように窪み、頭は割れてしまっているのか赤黒いものが飛び出ている。
一瞬で心臓が凍りつく。
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「うわぁぁっ!!?」
思わずアタッシュケースを放り出しながら、俺の口から絶叫が漏れた。
線路に転倒寸前で、俺の脚はなんとか線路際で踏みとどまった。
shake
そのまま足から崩れ落ち、その場にへたり込む。
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「はぁはぁっ……!?」
息を切らしながら辺りを見回す、子供の姿は……ない。
何だ今のは……子供の顔が……
大学で見た子供の顔とは違う。
顔が潰れていた、グチャグチャに……いや、それよりも今俺は……
押されたのか?
あの子供に?いや……得体の知れないあの何かに?
shake
ガタンゴトン、
電車がホームをゆっくりと過ぎていく。
突如襲ってくる身震いに、俺は両手を肩に回し、震える自分の体を押さえつけた。
殺されるのか……俺?
「あの、大丈夫ですか?」
不意に声の方に振り向くと、駅員が心配そうにこちらを見下ろしていた。
手には俺が落としたアタッシュケースが握られている。
俺は駅員から差し出された手を取り立ち上がると、
「す、すみません」
と慌てて礼を言い、アタッシュケースを受け取りながら、丁度開いた電車の中へと急いで飛び乗った。
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ふらついた足取りで空いた席に座り、今起こった事を思い起こす。
「何なんだ一体……くそっ!」
shake
ドガッ、
先ほどまでの恐怖が一気に怒りへと変わり、俺は座っていた椅子を強く殴りつけた。
が、すぐに電車内にいた数人の乗客が一斉にこちらに振り向いたため、俺は視線を避けるようにして、寝たふりを決め込むことにした。
20分程電車に揺られ、やがて目的の駅へと到着。
先ほどのこともあり、俺は警戒心を強めながらホームに降り、急いで改札口を抜けた。
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ネットで調べた限りでは、T・K氏の住所を細部まで特定することはできなかったが、途中、駅前の公衆電話で手に入れた地図を見ると、同じ苗字の住宅が二件連なっているのが確認できた。
地図も一年前と古いもので、おそらく事件前のものだから間違いないだろう。
T・K氏の苗字と一致する家は、火災のあったこの辺りでは、この地図に載っている二件だけ。
おそらく火災現場はこの二件のうちのどれかだ。
俺はスマホで写メった地図を頼りに、火災現場であるT・K氏宅をめざした。
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長い急な坂を登り、やがて閑静な住宅街に辿りつく。
入り組んだ道を、縫うようにしながら歩く事20分程、俺はようやくそれらしい場所を見つけた。
そこは他と比べ、一際広い空き地だった。
地図を何度も確認し、辺りの地形と照らし合わせる、間違いない、ここだ。
この空き地が、もしかしてT・K氏宅の跡地なのだろうか?
しばらく空き地を見回していると、
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「おい、そこのあんた……」
突然男の声に呼び止められた。
声のほうに振り返ると、隣の家の玄関から、40代ぐらいの男性が顔を覗かせていた。
やばい、不審者だと思われただろうか……
俺はいつでも逃げれるように身構えた、が、
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「あんたが持ってる鞄……ひょっとしてそれって」
男の言葉に俺は思わず驚いた。
この鞄の事を知っているのか?
そういえば、男の立っている玄関の表札の文字、T・K氏の苗字と同じだ。
もしかして親戚か何かだろうか?
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「あ、あの、実は俺、この鞄の持ち主を探してまして」
男のいる玄関前に駆け寄り、アタッシュケースを高々と持ち上げて見せた。
「ああ、やっぱりか、それ、中身あのミイラだろ……?」
男が言いながら苦々しい目を向けてくる。
あまり歓迎的ではなさそうだ。
しかしせっかく掴んだミイラの情報を、ここで逃すわけにはいかない。
「あの、このミイラ事で何か知ってることがあったら」
俺がそこまで言いかけると、男は慌てて玄関から出てきて、俺の話を遮ってきた。
「待って待って!家の前でやめてくれよ、ちょっと入って」
男はそう言って俺を家の中へと招き入れてくれた。
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家に入ると、男は中にどうぞと言ってくれたが、俺は悪いからここでいいですとやんわりと答え、その場に腰を下ろした。
「君、葛西さんの使いで来たの?」
「葛西?」
俺が聞き返すと、男は驚いた顔で俺を見た。
「あれ?そのミイラ、気に入らないからやっぱり返しにきたとかいう話じゃないの?」
何の話だ?と一瞬思ったが、俺はもしかしてと思い、男に尋ねた。
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「葛西って、このミイラを買い取った……?」
「うん……あれ、本当に葛西さんとは関係ないの?」
そう言って男は首を捻って見せる。
その反応を見て俺は合点がいった。
おそらくその葛西なる人物は、√の父親の事だろう。
あいつ、苗字葛西って言うのか、今度葛西って呼んでみよう。
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「俺は葛西さんの使いできたわけじゃありません。このミイラの事について聞きに来たんです」
「ミイラの事?本当に葛西さんとは無関係ないのかい?」
男の確認する声に俺は深く頷いて見せた。
「そうか……良かった、そのミイラの事で文句でも言いに来たのかと思ったよ。うちの親父もそのミイラの呪いで死んだかも、何て言っちゃったしね」
親父……このミイラの生前の持ち主の?じゃあこの男性はその息子さんなのか。
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「呪いで死んだかもって、どういう意味ですか?あっ絶対にその葛西さんという方には話しません。あくまでも俺が、このミイラの事について聞きたいだけなんです」
俺の言葉に男はしばらく、
「ううん……」
と唸りながら考えた後、
「まあいいか」
と、観念したかのようにぼそりと言って話を続けた。
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「そのミイラは親父が知り合いから手に入れた物でね。大層気にいったのか、よく周りに自慢ばかりしていたよ。近所の人も珍しいもの見たさによく親父の家に来ててさ、そしたら変な噂なんかもたっちゃって」
「変な噂ですか?」
「ああ、この河童のミイラは呪われている、とかね」
呪い……
その言葉を聴いて、俺はここに来るまでの出来事を思い返した。
やはり、一連の出来事は、ミイラの呪いなのだろうか……
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「持ち主は火事によってみんな焼け死ぬってやつですか?」
「ああ、それは親父が火事で亡くなってから噂された話だよ。実際親父は二酸化炭素中毒で亡くなったから、別に焼け死んだわけじゃないし、以前の持ち主の知り合いも、今でもピンピンしているしね」
えっ……どういう事だ?持ち主はみんな死んだんじゃないのか?
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「の、呪いで死んだかもってさっき言ってましたよね?」
俺は先ほど男が言っていたことを思い出し聞き返した。
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「ああ、近所の人たちが親父が死んだのを、勝手に河童のミイラのせいだって噂してね、それをどこかで聞きつけた葛西さんが、そのミイラ売ってくれって家に来たもんで、まあ額が額だったし、ついそのミイラのせいで親父が亡くなったかも、何てその場のノリで言っちゃって……はは、それを怪しんだ葛西さんの使いで、君が来たんじゃないかって勘違いしちゃってね、いやあ、これ、絶対に内緒だよ?」
男はそう言って苦笑い。
何て事だ……呪いは、ただの噂だったのか?
それにしてもその場のノリって、仮にも親父さんの遺品をこのおっさんは……
俺は半ば呆れつつ、分かりました、と言って肩を落とした。
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「まあ葛西さんの他にも、親父が亡くなる前から、その鞄を一目見て引き取りたいなんて人もいたらしいよ。親父は売り物じゃないって断っちゃったみたいだけどね」
そんな思い入れのある代物を、この人は簡単に手放したのだから始末が悪い。
これ以上は話を聞いても無駄そうに感じていた俺は、その他の噂について二三男に尋ねてみた、が、どれも近所レベルのしょうもない話ばかりで、そのほとんどが根も葉もない噂ばかりだった。
実際にこのミイラのせいで、何ていう話も一つもない。
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√にしてやられた。
火事でT・K氏が亡くなったのは事実だが、持ち主はみんな亡くなったと言う話は全部嘘だ。
ミイラの呪いなんていう話は、初めから実在しなかったのだ。
じゃあ……じゃあ俺がここまで来る間に体験したアレは一体……
何か黒くモヤモヤしたものが頭の中を支配する。
ゾクゾクとなんだか分からない寒気が、足元から這い上がってきたような気がした。
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駄目だ、呑まれちゃいけない。
俺はそれを振り払うかのように頭を振った。
今はそれを考えても仕方がない。
結局、俺は話を一区切りし、男に礼をしてから家を後にした。
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家を出た俺は、速攻でスマホを使い心霊サークルのHPを開いた。
朝、大学を訪れる前に書いた書き込みだ。
連絡先を教えてくれ、掲示板だと何かと不便だ、と書かれたレスに、返信のマークがついている。
√からのレスだ。アルファベットが数文字打ち込まれていた。
おそらくLINEのIDだろう。
直ぐにID検索すると、√の名前がヒットした。
俺は急いで友達追加をし、LINE通話を掛ける。
規則的な機械音が何度か鳴り、やがて、
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《はい、》
と、抑揚のない女の声がスマホから聞こえた。
聞き覚えのある声、間違いなく√だ。
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「√か?俺だ、与一だ」
《分かってる、で何?何か用?》
素っ気無い√の返事。
「用があるから連絡したんだよ。あのな、お前俺に言ったよな?ミイラの持ち主は皆焼け死んだって、」
《正確には、持ってた人、みんな火事で焼け死んでるんだよね、だけど》
直ぐに√は付加えて言い返してきた。
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「変わんねえよ。調べたぞ、本人の息子さんにも会ってきた。何であんな嘘付いたんだ?」
俺は観念しろと言わんばかりに言った。
すると√は、
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《息子さんって、家まで行ったんだ?マジで?はは、暇人なんだね与一って》
「ああっ!?」
苛々が募りつい声を荒げてしまった。
《怖い声出さないでよ、ノリよノリ。ああ言った方が場が盛り上がるかなって思って言っただけよ、他意はないわ》
「ノリってお前な!?」
T・K氏の息子といい√といい、何でそう簡単にノリで嘘がつけるんだ。
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俺は深いため息をつきつつ深呼吸した。
頭に昇った血がスゥっと引く気がする。俺は自分に落ち着くように言い聞かせると、再び口を開いた。
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「このミイラはお前に返す。約束が違うとか言うなよ?嘘をついたのはそっちなんだからな」
俺がそう言うと、スマホから√の溜息が僅かに漏れた。
《はぁ、分かったわ、どこで、》
√の声が聞こえたその時だった。
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《もせ……もせる……もせ、》
突然聞こえた意味不明な声、明らかに√の声ではない。
何だ?混線?いや、こんなの初めてだぞ?
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「おい、√何だ今の?」
慌てて√にそう言うと、直ぐに√の返事が返ってきた。
《はあ?与一こそ何よ今の声、何?からかってるわけ?趣味悪いんだけど》
悪態をつく√。
待て、どう言うことだ?今の変な声は明らかに√から聞こえた声のはずだ。
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《もせる……もせ……》
またあの声だ、低く篭ったような声。
「おい、」
俺がスマホに向かって言おうとした瞬間、
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《いい加減にしてよ、何よさっきからもせって、意味わかんないんだけど!》
スマホから√の苛立つ声が響いた。
もしかして、同じ声がお互いに聞こえてるのか?
その時だ、ふと、背中にゾゾゾと這い上がってくるような悪寒が走り抜けた。
首の後ろに静電気でも流れたかのように、俺はその場から飛びのいた。
そして、
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つんざく様な√の悲鳴が、スマホから突如響いた。
思わずスマホから耳を離す、と同時に、今度は背後から声が聞こえる。
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「もせる……もせる……」
先ほどとは違う、背後から聞こえる声。
子供の声だ……!?
恐怖に足が竦む、が、体は動く。
shake
俺は振り返りもせず一気に全速力でその場を駆け出した。
叫びたくなるのを必死で堪えながら走る。
記憶に残る範囲で駅の方を目指し、動悸が激しく波打つのを堪えひたすら走った。
住宅街を抜け、坂道をこれでもかと言わんばかりに駆け下りた。
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どれくらい走ったのか。
ヘトヘトに座り込んだ先は、コンビニ前のバス亭の椅子だった。
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「ぜぇへっぜぇへっぜぇっ……」
全身を椅子の背もたれに預け息を吐く。
やがて正常な呼吸が戻ってきた。
俺はシャツで自分の顔を拭い、汗を拭き取りながら辺りを見渡す。
会社帰りの学生やサラリーマンの姿が目に映る。
もう大丈夫のようだ。
ふと、スマホが振動している事に気がつき、俺はポケットからスマホを取り出した。
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√からのライン通話だ。
急いで通話ボタンを押した。
「もしもし?√、大丈夫か!?」
先ほどの√の悲鳴、何かあった事は間違いない。が、
「昨日の喫茶店で待ってる、早く来て……」
「えっ、お、おい?」
無事を確める間もなく、√はそれだけ言うと、唐突に通話を切った。
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「返事ぐらい待てよたっく……」
まあいい、連絡がついただけでも、とりあえず無事なのは確認できた。
俺はバス亭の時刻表に目を通し、昨日の喫茶店付近に停まるバスを探した。
ラッキーな事に少し待てば近くまで行きそうなバスを見つけた。
再び椅子に腰掛け、ぼうっと道路を行き交う車のヘッドライトを目で追う。
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待つこと数十分、俺は目的のバスに飛び乗り、√との待ち合わせ場所に向かった。
それにしても今日は何て日だ。
俺はオカルトが好きだが、こんな事は望んじゃいない。
おっかなびっくりぐらいの体験でいいはずなのに、俺の軽はずみな行為が、いつの間にか踏み込んじゃいけない領域に、足を踏み入れてしまっていた。
首を絞められ、駅に突き落とされそうにもなった。
体力ももうそろそろ限界だ。
おそらく次は何かあっても走って逃げ切れそうにない。
正直もうこのアタッシュケースを放りだして今すぐ逃げ出したい気分だ。
だが、まだ今なら引き返せるかもしれない。
元の持ち主にこれを返す。
手に抱えたアタッシュケースに目をやる。
その為にも√と会わなければ……
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やがて、俺は昨日訪れた喫茶店に辿りついた。
辺りはもう暗い。
店の賑わいと街頭の明かりが、今は俺の心の寄りどことなっていた。
入り口のドアを押し、今は何時だろうと思いながら俺は店の中に足を踏み入れる。
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店に入ると、窓際の席に見覚えのある服装の女が目に映った。
相変わらずの黒い、が、今回はジャケットに皮の短パンという服装だったため、俺は少し驚いた。
まあこれはこれで似合っているし目立つのだが……
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俺は無言のまま√の座っている席に向かうと、テーブル越しに√に軽く頭を下げながら、ソファーに腰を下ろした。
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「待たせたな葛西さん」
皮肉交じりに俺がそう言うと、
「何?人の名前なんか調べて、与一ってストーカーなの?」
相変わらず口の減らない奴。
早速文句の一言でも言い返してやろうかと思ったその時だ。
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「私の家に、血だらけの子供がいた……」
「えっ……?」
突然の√の言葉に、俺は一瞬で葉を失ってしまった。
血だらけの……子供?
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「与一と通話してた時、もせって声が聞こえた後、私の袖を、その血だらけの子供が掴んでた……私の顔見て、笑ってた……」
そう言って√は力なく俯いた。
√の家にあの子供が?ミイラは俺が持っているのに?
その時だ、俺の持っているスマホの呼び出し音が鳴った。
ビクリとしながらもスマホの画面に目をやると、画面には、大学の友人、Hの名前があった。
「悪い」
√に断りをいれ、通話に出る。
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《おっ、もう体調はいいのか?》
「あ、ああ、昼間はすまん」
《いいよ、気にすんな、それより例のミイラの件だけど、あらかた調べ終わったぞ》
Hの言葉に俺は思わず、
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「ほ、本当か?」
と店内にも関わらず声を張り上げてしまった。
√が思わず顔を上げこちらを軽く睨んできた。
俺は気まずいながらもHに話を戻す。
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「そ、それで、どうだった?」
《いやあ、残念ってとこだな》
「えっ?残念?」
どういう事だ?もしかして分からなかったのか?
そう思い眉間に皺を寄せていると、
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《残念賞、ニセモノだよ、あれは》
「えっに、ニセモノ!?」
あまりの事に、俺はまたもや声を張り上げる。
「ちょっと……」
苛々した√の声が聞こえる、が、今はそれどころじゃない。
俺はそれを無視しながらHと話を続けた。
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《あれは動物の骨を組み合わせて作られたニセモノだよ。接合部分は蝋が使われていて、人工的に手が加えられた痕も見つかった。肋骨部分の骨なんか、ウサギや犬の骨なんかが混同されて使われてたよ。いや~残念だったな》
「ニセモノ……」
まさかの結果に唖然としてしまい、俺はアタッシュケースに目を落とした。
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ニセモノ……呪いも、ミイラも、全部ニセモノ?
じゃ、じゃあ……何が本当なんだ!?
頭の中がグチャグチャになりそうだ。
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《一応人間の血液反応も出たけど……》
人間の!?
「そ、それって!?」
《ああ、だけど微量だよ、極小とも言っていい、それにかなり古いものだよ。アタッシュケースの内装の紙に染み付いてたんだと思う、残念だけどミイラとは関係ないよ》
「そ、そうか……」
そこまで言って俺は口を噤んでしまった。
ショックがあまりにでかすぎる……
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「悪いH、今度必ずお礼するから、ありがとな」
俺は力なく肩を落としながらHにそう言った。
《あ、ああ、あんまり落ち込むなよ?じゃあまたな》
Hはそこまで言って通話を切った。
唖然とする俺の耳に、ツーッツーッという機械音が虚しく響く。
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「ニセモノって何?どういう事?」
通話の内容を聞いていた√が俺にそう尋ねてきた。
「いや、実は……」
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俺は今朝から起こった出来事を、順を追って√に説明する事にした。
俺のアパートで起こった異変から始まり、大学でミイラを調べてもらった事、そしてT・K氏の事を調べ、呪いについて話を聞いた事、そしてその過程で、あの忌わしい子供に命を付狙われた事も。
「それで、あのミイラがニセモノだったんだ……?」
「ああ……だけど」
だけどあの子供は何なんだ?
ミイラともその呪いとも関係ないとしたら、一体俺は何に命を狙われた?
それに……
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「ねえ、もうさ、そのアタッシュケースのミイラ、関係なくない?」
√がどこか血の気のない顔で俺に尋ねてきた。
そう、√の言うとおりだった。
アタッシュケースを預けたはずの√の目の前にも、あの子供は現れた。
それはつまり、例えこのアタッシュケースを返したとこで、何も解決しないという事になる。
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「訳分んねえ……」
両手で頭を抱えながら、俺はテーブルに突っ伏した。
「どうするの……私達、たぶんこのままじゃ……」
どんなことにも動じなさそうな√の顔が、不安そうな表情を浮かべている。
考えてみれば当たり前かもしれない。
普段はその辺にいる女子高生と変わらないのだ。
それがこんな事に巻き込まれれば、普通なら今頃泣き喚いていてもおかしくない。
だが、それは俺にも言える事だ。
こんな命の危機に際悩まされる日常なんて、死んでもごめんだ。
でもそれが今の現実……
このミイラも呪いも全てニセモノ……だけど、あの不気味な子供は……
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「このままじゃ家にも戻れない……こんな時にお姉ちゃんがいればいいんだけど……」
「お姉ちゃん?お姉ちゃんがいるのか?」
√の不意に漏らした声に、俺は思わず聞き返した。
こんなのがもう一人いると思うと、それはそれで恐ろしくもある。
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「うん、腹違いのね。呪いとかに凄く詳しくて、いつもこの店に顔見せるんだけど、」
呪いに詳しいって、やはりろくでもない姉妹なのは間違いないようだ。
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「あの人携帯持ってないし、ああもう、本当にどうしたらいいのよ……!」
「喚いたってどうしようもないだろ、それより何か考えろよ!大体お前、俺にこれを預ける時、河童のミイラじゃないみたいな事言ってただろ?」
√の苛立つ声に、俺も苛立ちを隠せず声を荒げながら言った。
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「だって、あのミイラからは何も感じなかった……でも子供の声は聞こえるし、勝手にアタッシュケースが開いたりするし、原因が分かんなかったの、だから与一に頼んだんじゃない!」
√はテーブルに身を乗り出すような格好でそう言ってきた。
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「あのな!何でもかんでも人頼みにするなよ!大体原因がミイラじゃなかったら何……なん……」
そこまで声を上げて、ふと俺の中で何かが引っかかった。
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「何?どうしたの急に?」
√が訝しげな目で俺を見る。
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そんな√を他所に、俺は隅に追いやっていたアタッシュケースを手で掴むと、飲み物をどかし、テーブルの上に置いた。
アタッシュケースをじっと見つめる。
集中しろ……何かヒントがあるはずだ。
かき集めた情報を思い浮かべ順に確めてゆく。
まるで頭の中で散らばったパズルのピースを、一つ一つ組みあげていく感じ。
ニセモノの河童のミイラ、時折現れる着物姿の子供、勝手に開くアタッシュケース。
T・K氏の息子さんが言っていた、T・K氏が生きていた頃に、鞄を一目見るなり引き取りたいと言った人物、Hが言っていた、アタッシュケースの内装の紙に染み付いてた人間の血……
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ガチャッ
「ちょっ、何急に?」
√がそう言いながら止める間もなく、俺はアタッシュケースのロックを開け、中から取り出したミイラを、ソファーの上に乱暴に置いた。
shake
そして、ベリッ、という音と共に、ミイラを包んでいた内装の綿と紙を一気に引き剥がした。
瞬間、かび臭い埃と古びた鉄のような異臭が辺りを漂った。
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「何この匂……あっ!?」
思わず口元を手で覆う√の目が、突然大きく見開かれた、明らかに驚愕している。
そして俺も……
アタッシュケースを掴む手がわなわなと震えている。
冷房の効いた喫茶店のはずなのに、俺の額にはびっしりと脂汗が滲んでいた。
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内装の紙が剥がれたアタッシューケースの中は、茶色く変色した何かが、一面中に、まるで血でも飛び散ったかのように広がっていた。
俺は、乱れる呼吸をなんとか落ち着けながら、振り絞るようにして言った。
「呪われてたのはミイラじゃない……この……鞄だ」
ー続くー
作者コオリノ
※これを読まれる前に、
http://kowabana.jp/stories/26978
にて、「河童のミイラ」を御読みくださいませ。
はい、まさかの三部作です……
正直書いててグダグダでした。(その前にあまり読んでもらえない気もしますが:汗)
いやあ、自分の力量の無さを痛感します。
それでも個人的には書いてて楽しい作品となりました。
謎を解き明かしていくというプロセスが好物なのです……もうただ書きたくて書いてるようなものですはい。
さて次回、河童のミイラ・終点でお会いしましょう!