蝋燭をお持ちですな。宜しい、宜しい・・・。
もしそれが消えた時、あなたの身に何が起こるか・・・いえいえ、脅すつもりは御座いませんよ。
割とまじな話です。何?今時ちょび髭はださいって?
それこそ余計なお世話です。それでは、はじめましょうか・・・
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【夏祭りの夜】
『今年も盆の季節がやってきた。
今日は夏祭りだ。会場の中央に組まれた櫓上からは、和太鼓や三味線、胡弓や囃子の調べが響き渡っていて、その周囲を浴衣姿の人々が踊り歩いていた。
俺はかき氷を食べながら、その様子をぼんやり眺めていた。
「いい祭りだなあ・・」
「お?Sじゃないか」
声がした方を振り向くと、地元の友人のTだった。
「おお、久しぶり」
暫くの間、互いの近況などの雑談を交わした。ふとTが何かを思い出したように言った。
「つうかさ、お前・・・そう言えば・・」
Tは恐ろしいものを見る様な目を、俺に向けた。
「去年、叔父さんと一緒に事故で死んだよな・・」
そうだ。俺は死んだ。
「T、知ってたのか」
「お前・・・」
Tは俺から少し離れ、ばっと背を向けて走り去った。
「馬鹿だな」
盆踊りに視線を戻し、俺は呟いた。
「ここにいるってことは、T、お前も死んだんだよ」』
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俺は震える手で、死んだ兄の日記を閉じた。死後も延々と書き続けられる日記を―
Tさんは、昨日亡くなったばかりだった。
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【港】
その港には、船は滅多に近づかなかった。
俺は波止場に立って、毎日船が来るのを待った。
背後から、女の声がした。
「どこへ行きたいの?」
「向こう側へ・・待ってる人がいるから」
ふふん、と鼻で笑うのが分かった。
彼女はしらはと言う。いつの間にか言葉を交わす仲になった。
「ここにも、こんなにあなたの仲間がいるのに。それでも向こうがいいの?」
しらはが後ろを振り返る。そこには、見覚えのある人々の姿があった。
「向こうから、呼ばれている気がするんだ」
「そう・・・まあ好きになさいな」
白い霧の向こうに、物影を認めたのはその時だった。
「おーい!!おーい!!」
俺は必死に叫んだ。
船が、岸に船体を横付けした。
乗船するやいなや、船はすぐさま岸を離れた。俺は、今までいた港を眺めた。
しらはが、港から俺を見つめていた。
手を振ると、向こうも手を振った。
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目が覚めると、俺は病院にいた。
客船「しらは」の沈没事故で、俺は危ういところで救い出された。数日間、意識不明の重体だったらしい。
しらはと港に残った級友たちは、皆帰らぬ人となったそうだ。
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【山道】
単身、車で旅行に出かけた時の事。
うねうねと続く山道にうんざりして、ショートカットをしたのが失敗だった。ナビにも表示されない道をいつの間にか走っていた。
既に暗くなり始めている。
どこを走っているのかも分からない状況で、無暗に進むのはまずい。燃料も残り少なくなってきた。
仕方がない。車中泊しよう。覚悟を決め、道の脇に車を停めた。外に出て小便をした後、シートを倒して横になる。
スマホには電波が届いておらず、おまけに電池残量も少ない。
ため息をついて目を閉じた。
何時間かは眠ったはずだ。車の外で、妙な気配を感じて目が覚めた。何かが近くを歩いている。
ザッ、ザッ、ザッ・・・
獣か何かか?熊だと厄介だな・・・。
そんなことを思いながら、そっと窓に視線を移した。
窓ガラスの向こうには、何か黒い影がいた。目を凝らすが、姿はよく見えなかった。
ザッ、ザッ、ザッ
よく見ると、数が増えていた。そして奴らは、車の周囲を回りながら・・・踊っていた。
俺はそいつらに起きていることがばれたらまずいような気がして、必死で眠ったふりをし続けた。たまに薄目を開けて様子を窺うと、窓にへばり付いてじっと車の中を覗き込んで居る奴がいた。
俺は目をぎゅっと閉じて、心の中で念仏を唱え始めた。信心などからきし無いくせにこういう時だけは神にも仏にも縋りたくなるのは滑稽だが、とにかく必死だった。
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奴らがいつの間にかいなくなったのは、夜が白み始めてからだった。そっと薄目を開けて外に誰も居ないことを確かめると、俺は急いでエンジンを掛け、車をUターンさせて元来た道をひたすらに戻った。
スタンドに入り、燃料を入れて貰った。窓ふきをしてくれるスタンドに兄ちゃんに、地図を見せながら道を尋ねた所、このまま道なりにすすめばいいと教えられた。
これで助かった・・・
料金を支払う時、兄ちゃんがにこにこして言った。
「でもね、おじさん。この山からは、もう出られませんよ」
作者ゴルゴム13
真夏の怪談フェス「百物語」
ロビンⓂ︎ 一話〜五話
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