やあロビンミッシェルだ。
sun様の体調が戻って一安心です。季節の変わり目、皆様もお風邪などひかぬようにご自愛くださいませ。
さて、このあいだウチのお客さんがこんな話を聞かせてくれました。彼の地元は神戸だという事です。
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もう時効だから話しますけど、昔はよく酒の入った状態で運転なんかしてたんですよ。
まあ飲酒運転ですよね。
えっ?五年くらいじゃまだ時効とは言えないって?まあまあいいじゃないですか事故を起こした訳でもないし、今はちゃんと心を入れ替えてますから。
七十八話目
【熱い】
久しぶりに中学の同級生とサシで飲んでましてね、一番の悪友です。
彼は昔から僕なんかよりも数段ヤンチャくれでして、喧嘩に恐喝、窃盗に覚醒剤、ま、今現在はヤク◯屋さんとして結構な地位で活躍されていますよ。
でも彼はそんな事を少しも鼻にかける様子もないし、偉そうにするわけでもありません。昔の面白い彼のままで僕に接してくれるんです。二人の会話はあの頃と何も変わっていませんでした。
焼き鳥を摘みながら昔話に花が咲き、お互いの近況を報告し、自然と女の話になった所で彼の携帯電話が鳴りました。
「悪い、親分から呼び出しだ、事務所戻んなきゃ」
彼と別れてから、暫くは街をプラプラと歩いていたのですが、急に眠たくなってきたのでパーキングから車を出して仮眠を取る事にしました。
しかし、いざシートを倒して寝ようとしても中々寝付けません。良く考えたら僕って枕が変わると寝れない子なんですよね。
時計は確か午前5時辺りを指していました。
「ま、こんな時間じゃ検問もやってないだろ」
そんな軽い気持ちで酔った状態のままエンジンを掛けて車を出しました。この時の行動を僕は今でも後悔しています。
家までおよそ10分、空いてるだろうから飛ばせば5分くらいで着くだろうと速度を上げました。
前後に車は一台も走っていません。空はまだ暗いです。片側3車線道路に入ると僕は一番右車線を陣取り、更に速度を上げました。
どれくらい走ったでしょうか、気づいたらウトウトしていました。運転席の窓を全開にして冷たい風を顔に浴びせます。
その時、突然ヘッドライトの先に人の後ろ姿が浮かび上がりました。危ねえ!と急ハンドルを切って、なんとか難を逃れました。
「何で道路に人が歩いてるんだよ!」と半ばキレ気味にルームミラーを覗くと、チカチカと赤いライトがリアウインドウを埋めていました。
一瞬で酔いが醒めて正気に戻りましたよ、捕まったと思ったんです。てっきりそれがパトカーの赤色灯に見えましてね、でもよく見たら違っていました。
リアウインドウ一面に血だらけの顔が映り込んでいたんです、はっきりと見ましたよ。それは明らかに苦悶に満ちた男性の顔でした。
「うわああ!」と叫びながらもなんとか車を安全な路肩に寄せました。
そろそろと車を降りて後ろを確認しましたが、誰もいません。お約束の手形なんかも付いてませんでした。
運転席に戻ると何故かエンジンが止まっていました。何度キーを捻ってもウンともスンとも言いません、これはお約束ですかね。
季節は1月で寒いしどうしようかなと思いながらポケットを探ったのですが、携帯電話が無いんです。足元もくまなく探しましたが見つかりませんでした。
途方に暮れていると、いつからそこにいたのか前方に一台の白いセダンがハザードを焚いて止まっていました。
僕は車を降りてその車に近づいて行きました。電話を借りようと思ったんです。
しかし近づくにつれてその車の異常さに気づきました。まるで廃車のように車体がボロボロなんです。
見える限りの全ての硝子は割れ砕け、ボンネットは開いたままです。フロントの足回りも折れてしまっているのかホイールがフェンダーの中に入り込み、車体が地面についてしまっています。見るも無残な姿でした。
「なんだ、事故車両か?」
それにしては道路にスリップ痕もないし、辺りを見渡してもどこかにぶつかったような形跡はありません。
恐る恐る中を覗き込むと運転席と助手席には誰も乗っていませんでした。ホッと息を吐いて後部座席に目をやると、狭い座席に押し込むようにして人が4人座っていました。
全員の顔がこちらを向いています。
「だ、大丈夫ですか?」
暗い車内の筈なのに彼らの姿がやけにはっきりと見えました。
大人が2人に子供が2人。4人とも黒焦げで男女の区別もつきません。暗闇の中で光る八つの白い眼光が物凄く不気味でした。
「ウ…ゴオ…」
それを声と呼べるのかも微妙ですが、車の中から悲痛な念の様なものが音声として僕の頭の中へと流れ込んできました。
「ア…ツイ」
はっきりと聞こえたのはこの「熱い」という言葉だけですが、それは悲しみ、苦しみ、絶望が全て入り混じったような途轍もない負の感情でした。
僕はその場から動く事も出来ずに、知らず知らずの内に声を出して泣いてしまっていました。
ピリリリリリ
突然の電子音が僕を我に帰しました。
上着の内ポケットを探ると、先ほどは無かったはずの携帯電話が振動していたんです。
「おう、せっかく来てくれたのに途中ですまなかったな。ちゃんと帰れたか?」
相手はさっき別れた親友からでした。
その声を聞いた瞬間、景色が暗転し僕は自分の車の運転席に座っていました。
前方を見てもあの車はいません。
僕は訳が分からず、捲したてる様に今起こった事を親友に伝えました。
親友は僕の話を一通り聞き終えると、落ち着いた様子で「お前が今いる場所はどの辺りだ?」と言ったんです。
ナビを頼りに場所を説明すると、親友はドスの聞いた声でこう言いました。
「お前、そこ昔阪神高速の橋桁落ちたとこじゃねえか?時間見てみろ、今丁度5時46分だぞ。さっさと手え合わせて、すぐにその場所から離れろ!」
…
その言葉を聞いて彼は全てを理解したそうです。
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ふと、こんな話を思い出しました。
大切な命を粗末に扱ってはいけません、我が子なら尚更です。
七十九話目
【コインロッカー】
社会人一年目のA子さんはその日仕事を終えると、駅構内のトイレでスーツから私服へと着替えをすませ、メークもバッチリと整えました。
19時から新卒者同士のコンパに誘われているのです。
A子さんは電車を乗り継いで出社している為、一度帰ってから着替える時間がありません。スーツのままでは固いイメージがつくと考えたA子さんは着替えを用意していました。
理由は学生の頃から好きだったKさんも今回のコンパに参加すると聞いていたからです。
スーツをしまい込んだバッグをコインロッカーに押し込むと、A子さんは足取りも軽くコンパ会場へと向かいました。
…
終電前に二次会のカラオケボックスを抜け出したA子さんは、ほろ酔い加減で鼻歌などを口ずさんで歩いていました。
KさんとのLINE交換に成功したのです。
コインロッカーからバッグを抜き取り肩に担ぐと、A子さんは階段を降りてホームに立ちました。
電車到着まであと五分。A子さんはベンチに腰を下ろし、早速Kさんにお礼のメッセージを送りました。
「まもなく3番線に電車が参ります」
アナウンスの声に立ち上がろうとした時、バッグにズシリとした重みを感じました。
不審に思ったA子さんがバッグのジッパーに手をかけると、何かが中でガサガサと動く気配がしました。
悲鳴を上げてバッグを放り投げたA子さん。
すると近くにいた親切な女性が中身を確認してくれました。勿論、スーツ以外には何も入っていませんでした。
その日からA子さんは毎日のように悪夢にうなされ続けました。
それはお化けや妖怪の類いではなく、密閉された空間でひたすらに感じる孤独と戦う恐怖だそうです。
眠るのが怖くなったA子さんは同僚から紹介された病院へ通いましたが、薬を飲んでもカウンセリングを受けても悪夢から逃れる事はできませんでした。
遂にA子さんは会社も辞めて引きこもるようになりました。唯一の心の支えはKさんとのLINEのやり取りです。Kさんはいつも優しく、彼女を励ましてくれました。
ある時、Kさんは言いました。
「今度、霊媒師さんに見て貰わないか?あの日、君がバッグを入れたコインロッカーが少しマズい事がわかったんだ」
A子さんはその時、無意識に彼の言葉に救われた気がしたといいます。
「こないだ赤ん坊の泣き声が聞こえるって言ってたよね?まさかと思って携帯で調べてみたんだ。
今噂の事故物件を検索するサイトがあるだろ?あれだよ。
そしたら君がバッグを入れたコインロッカーで去年、乳児の遺体が発見されていたんだ。
もしかしたらそれが原因かも知れない、来週あたり時間作るから一緒に行こう」
電気の消えた暗い部屋。
A子さんは彼のメッセージを目で追いながら、胸に抱いた赤ん坊に言い聞かせるようにして、そっと語りかけました。
坊や
やっと還れるわね
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お粗末様でした。
それでは次の方よろしくお願い致します…ひひ…
作者ロビンⓂ︎
すいません、初歩的なミスをしてしまい挙げ直しました!…うう…