長編7
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有馬さんとドール

sound:34

いらっしゃいませ おでん屋でございます。

大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。

60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日はあまり食事にはお金を使いたくない有馬さんのお話です。

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私 この近くで人形屋をやっておりまして、

フランス人形を中心に世界中から美しいドールを集めているんです。

ほぼ趣味のようなもので、売れても売れなくても...という感じなのですが。

どれも高価で購入されるお客様はほとんどおらず、ドール好きの方が時々見に来る程度なんです。

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ある日...全身ほぼ真っ白なドールのアーティという子がいるんですが、

その子の持ち物である鏡が無くなっていたんです。

アーティの横には三百円が置かれていました。

いつのまにか誰かが入って来て鏡を三百円と交換に持って行ってしまったのだと思います。

鏡は小物としてではなくアーティの持ち物として扱っておりましたので、別個での販売なんてしていませんし、するにしたって三百円だなんて有り得ません。

私は常識はずれのその犯人に腹が立ちました。

アーティも心なしかムッとしているようでとても心を痛めました。

すぐに店先に鏡を返して欲しい旨の貼り紙をしました。

しかしどれだけ待っても鏡が返ってくる事はなく、転売されたなどの情報もありません。

防犯カメラも付けていませんでしたし、夜中の出来事で目撃者もいないようでした。

私は半ば諦め気味にアーティに話しかけました。

『またあの鏡を見られる日が来るといいわね』って。

それから数日後、妙なことが起こり始めたんです。

アーティの顔が...こう、変になってきたと言うか...

人形なのにまるで人間のように吹き出物が出来たり、髪の色や目の色が黒ずんできたりと、汚れや劣化とは違う、ありえないような変化が起こり始めたんです。

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1ヶ月もすると、アーティは原型もわからないほどの姿になってしまいました。

言い方は悪いですけれど、おばさんというか...かなり和風な顔立ちになってしまったんです。

そうなるともうアーティを店頭に並べておくのは難しくなり、私はアーティを家へと持ち帰りました。

捨てるという選択肢もあるとは思うのですが、なにせ高価なものですし、それ以上に愛着があります。

ドール達は娘のように思っておりますので、簡単に捨てるなんて出来ませんでした。

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家に持ち帰り、リビングの棚の上に置きました。

アーティの他にも個人的に買った子が数体いまして、みんなそれぞれ個性があるのですが...やはりアーティは異質でした。

見た目もそうなのですが、オーラというかアーティの周りだけ空気がよどんでいるように思えたんです。

とりあえず今は様子見をしようとそのまま寝室へ行き、ベッドにもぐりました。

深夜...2時過ぎでしょうか。

リビングの方からブツブツと話し声が聞こえてきたんです。

一人暮らしですし合鍵を渡しているような相手もいません。

泥棒かと思いそっとベッドの中で聞き耳を立てました。

「イケテル...ジャナイ...」

「パーツ...イイノネ...」

抑揚のない声でそんな事を言っているようでした。

恐怖は勿論あったのですが勇気を振り絞りそっとリビングへと移動しました。

電気はつけず、暗いまま。

リビングに着くとカーテンの隙間からもれた月明かりがアーティを照らしていました。

棚の上に座ったまままっすぐ前を向いて、口元だけが動いていました。

「ワタシノカガミ...カガミ...カガミ...」

鏡を失ったアーティが悲しみのあまり動き出してしまったのだと思います。

他の方はどう思うか分かりませんが、私はドール達にはそれぞれ魂があって人間と同じように心も感情もあると思っています。

ただ表現が出来ないというだけで...。

アーティのためにもやはりあの鏡を取り戻してあげなくちゃって思いながら、そのまま寝室に戻り朝を迎えました。

どうやって探せばいいのか考えながら身支度をしようとバスルームへ行きました。

すると洗面台の鏡もお風呂内の鏡も全て割れていました。

それだけでなく化粧品の小さな鏡から時計のフレームのミラー加工されている部分まで、家にある鏡と言われる部分は全て割れていたんです。

アーティはこんなにも悲しんでいるのかと、心が締めつけられるようでした。

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しばらくの間、お店を早めに閉めてアーティの鏡を探すことにしました。

探すと言ってもアテは全くないので市内のアンティークショップやリサイクルショップなどを巡っていただけなのですが...。

探し始めて2ヶ月ほどが経ったある日、目を疑うような出来事がありました。

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駅前のカフェに...アーティがいたんです。

いえ、正確にはアーティにそっくりな人がいたんです。

白い髪に白い肌、目も唇も色素が薄く日本人ではありえない…いえ、外国人でもアルビノと呼ばれる方々くらいの白さでした。

顔立ちは、変わってしまう前のアーティそのもの。

私は彼女から目が離せなくなってしまいました。

もしかしたら...もしかしなくとも、彼女はアーティの鏡について知っているかもしれない。

そう思って、話しかけてみたんです。

怪しまれないよう、慎重に。

『こんにちは とても綺麗ですがモデルさんかしら?』って。

すると彼女はニコリと微笑んで「いいえ」って。

なんだか人形と会話をしているような不思議な気分でした。

一通り褒めてから、聞いてみました。

『どうやったらそんなに綺麗になれるんですか?』って。

そうしたら彼女がね、出したんですよ。鏡を。

「これなんですけど、あるお店で買って毎日見てたらどんどん綺麗になっちゃって」

「魔法の鏡だったのかなぁなーんて」ですって。

上手に笑顔を作るのも難しいくらいに怒りでいっぱいになりました。

多分うまく笑えていなかったと思います。

そこからはもう無意識に近い状態だったんですが、彼女を家に誘ったんです。

『ドールが好きであなたに合うような人間用のお洋服も沢山あるから良かったら貰って欲しい』って言ってね。

調子に乗っている彼女はすぐに快諾しました。

こんな見た目の私とドールのような彼女。

周りの視線をもれなく集めながら家へと着きました。

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客間へ通して、お茶を入れて...お洋服を持ってくると部屋を出ました。

アーティが人間だったら似合うだろうなと思う服を数着手に取り、

そしてリビングへ行って、変わり果てた姿のアーティもこっそりと持っていきました。

『まずはこれとか、どうかしら』

そういって白いドレスを見せました。

彼女は手を顔の横で合わせ、「可愛い」「素敵」とはしゃいでいました。

試着してみましょうかと誘い、コルセットとドレスを着せてあげました。

見た目はアーティそのものですから、当然似合います。

彼女も初めて着るドレスに大はしゃぎでした。

「全身が映る姿見の...鏡はないかしら?」

そう聞く彼女に、『あるわよ』と答えました。

全部割れたんじゃなかったのかって?

そうね。鏡は割れたけれど、彼女の全身を見れるものはあるのよ。

くるくるとまわり、裾を膨らましはしゃぐ彼女にアーティを見せました。

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彼女はアーティを見た途端、ピタリと動きを止めて表情をこわばらせました。

『見覚えは、あるかしら』

そう尋ねると彼女は慌てて日本語になっていない言葉をポロポロと口からこぼしました。

慌てている彼女の前にアーティを置き、彼女のカバンの中から鏡を取り出しました。

するとテーブルに置いていたアーティがスクッと立ち上がりこちらに歩いてきたんです。

アーティの姿をした彼女は腰を抜かしていました。

私はすぐそばまで来たアーティに鏡を渡しました。

(((ドロボウ))) (((ドロボウ)))

(((ドロボウ))) (((ドロボウ))) (((ドロボウ)))

(((ドロボウ))) (((ドロボウ)))

あの夜聞いた、抑揚のない声が部屋中にこだましました。

アーティは腰を抜かしている彼女に鏡を向けながらじわりじわりと近づいていきます。

ごめんなさいと言いながら泣き叫ぶ彼女の元にアーティがたどり着くと、彼女の顔にピシッピシッと亀裂が入っていくのが見えました。

まるで陶器で出来た人形のように彼女の顔はひび割れ、ついには粉々になってしまったんです。

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彼女が完全に粉になると、アーティはストンとその場に座り昔のように鏡を持って元の愛くるしい顔を覗きこんでいました。

『鏡が戻ってきて良かったわね』

そう話しかけても、もうアーティが動くことはありませんでした。

私はアーティを棚の上に戻し、ドレスを拾い上げ、彼女だった粉を集めて捨てました。

鏡とアーティの姿を返してもらえればそれで...と思っていたんだけれど、まさか粉々になるなんて思いませんでした。

そんなこともあったので、アーティはそのまま部屋に...とも思ったんですが、

お店にアーティとペアの黒いドールがいるので、今はその子の隣に戻してあげています。

お話はこれだけなんだけど、おでん屋さん。

今度からは私の事はマリアと呼んでくださいます?

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そう話し終えると、有馬さん...マリアさんは豆腐を食べて帰っていきました。

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ロビンⓂ︎さん コメントありがとうございますm(_ _)m
三十万...!
私もゲームやら人形やら結局すぐ使わなくなるので良いといえば良いんですが姪に取られまくっております。
でも十万もいってないかなくらいなので...三十万...!
あ 厚揚げどうぞ。

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僕はいっときリアルな動物のフィギュアにハマって大人買いをする事数ヶ月、気付いたらフィギュアに三十万も使ってました…ひ…

するとこないだ動物園みたいになったリビングに遊びに来た姪っ子が「可愛い、欲しいなーこれ♪」って言ったので、全部あげました。

あ、厚揚げありますか?…ひ…

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