百物語 【第五十八~第六十話】

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百物語 【第五十八~第六十話】

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はいはい、怪談師様の写真に纏わる怪談、なんとも恐ろしく、不思議な話でしたね。

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思わず背中に寒いものが走った中、粋なおでん屋さんよりおでんの差し入れが101本届きました。

夜は長いですので、ま、ゆるゆるいきましょう。

大人の方にはビールも冷えておりますよ。

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・・・おや、ずいぶん飲みっぷりのいい女性もいらっしゃいますね。

お母様は夏休みこそ激務でいらっしゃいますものね。さぞやストレスも溜まっていらっしゃるのでしょうね。

・・・え?そうでもない?・・・はあ、毎日飲んでる?

ははあ、なるほど。普通の酒豪さんでいらっしゃいましたか。

では、私もちょっと失礼して・・・グイっと

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フイ~・・・・・・ま、私の話は幕間休憩だと思って、軽く流してくださいませ。

では参ります

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【第五十八話 火事】

ある夜、自室に籠っていた俺の耳に、遠くから消防車と救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

そんなものは特に珍しいことではないが、その夜いつもと様子が違ったのは、サイレンと鐘の音がどんどんと近づいてくることだった。

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音は耳をつんざくばかりになり、家の窓ガラスを通して、赤色灯が室内を紅く照らし出した。

家の目の前を消防車と救急車が通ったのだ。これは俺にとって初めての事だった。

けたたましい音はその後しばらく続いた後、ぴたっとその音を消した。

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2階の窓から外を覗いてみると、赤色灯の明かりはまだ住宅街を赤く染めている。

結構近くに停まったのだ。

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(近くで火事が起きたんだ!)

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俺は湧き上がる好奇心に勝てず、夜の宅地に飛び出した。

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消防車が停まっている場所は、簡単に見つけることが出来た。

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既にたかり始めている野次馬の隙間から、1件の木造住宅からかすかに煙が上がっているのが見える。

停電しているためか、家の中の照明は灯っておらず、室内の様子はよく見ることが出来なかったが、見たところ火炎が家を焼いている様子は無い。

庭や辺りの地面が黒く外灯に光っているのは、どうやら濡れているからのようだ。

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あれだけの短時間に関わらず、どうやら消火活動は終わったらしい。

一緒に来ていたはずの救急車は、すでに姿が見当たらなかった。

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「たいした火事じゃなかったんですね。良かった」

不謹慎にも想像していた、空を赤く舐め上げるような激しい火災とはずいぶん違うその様子に、俺は半ば拍子抜けしながら呟いた。

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何人かの人が俺の方をちらっとみて、この場を立ち去っていく。

(夜も遅いし、俺ももう帰ろう)

と思い、身をひるがえしたとき、視界の端に何かが映った。

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野次馬の中にいる中年の女性だった。

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ものすごい形相で俺の事を睨んでいる。そう、まるで憎悪の塊を投げつけるかのように・・・

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俺ははっと振り返った。

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しかし人ごみに視界を奪われ、先ほどの女性は見つけられない。

野次馬の影が途切れた時、すでに女性の姿は見当たらなかった。

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(気のせいか・・・)

俺はその日はそのまま家に帰った。

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翌日、クラスの中は昨日の火事の話でもちきりだった。

いや、正確には火事の話だけではない。

俺も知らなかったのだが、件の火事の家は、俺の同級生の家だったのだ。

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いわゆる優等生で、上級の国家公務員とかを目指しているタイプ。

つまり俺とは決して相容れないタイプのため、ほとんど交流もないために、割と家から近所だったのだが、今までその家が同級生の家であることを知らなかったのだ。

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今年、その同級生は受験に失敗していた。

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同級生はショックだったらしいが、それよりも精神的に痛手を受けていたのは、同級生の母親だったらしい。

母親はほとんど錯乱状態になり、衝動的な行動に出た。

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あの火事は、母親が自分でガソリンをかぶり、火をつけて焼身自殺を図ったためのものだったのだ。

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あくまでも噂であるが、結局、救助は間に合わず、母親の命は助からなかったそうだ。

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その日以降、同級生は学校に来なくなったが、卒業式の日、クラスのみんなで卒業証書を同級生の家に届けることになった。

前述のとおり、俺は同級生と決して仲がいいわけではなかったが、行ける人はなるべく一緒に行ってほしいという学級委員の意見で、特に断る理由もなかった俺は、学校生活の最後ぐらいは付き合うか、という気持ちで同行した。

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同級生の家は、火事の焼け跡生々しく、一部黒くすすけた壁にベニヤ板などを張り付けてあった。

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学級委員がインターホンを鳴らすと、かなり時間をかけてから、玄関わきのカーテンがばさっと開いて、同級生が顔を出した。

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しばらく見ないうちに、ずいぶん痩せた、というか、表情に以前と違う・・・表現が難しいが、「ぬめり」のようなものを感じて、俺は彼には申し訳ないが、一瞬嫌悪感のような感情を抱いた。

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同級生は、そのままガラガラとサッシを開けて、裸足のまま掃き出し窓から出てきた。

そして学級委員から卒業証書を受け取り、少し談笑をした。

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その様子は、さして以前と変わらないように見えた。

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俺は少しほっとして、ちょっとだけ会話に加わった。

同級生は家に招き入れる様子もなかったので、(考えてみれば当然だ)俺たちは早々に彼の家を辞去することにした。

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別れ際、アルミサッシの向こうで微かに笑顔を浮かべる同級生に向かって全員で頭を下げると、その場で解散になった。

俺が身を翻した瞬間、目の端に同級生の姿が映った。

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俺ははっとした。

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同級生の顔が、先ほどの笑顔とは打って変わり、氷のような、いや、青い炎のような憎悪をぶつける視線だったからだ。

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そう、あの火事の夜の時に見た中年女性の視線のように・・・。

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俺が振り返るのと、シャッという音と共にカーテンが閉まるのとはほぼ同時だった。

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「どうした?」と尋ねる友人たちに、俺は「いや、なんでも」と答えるのが精いっぱいだった。

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その後、同級生と再び会うことはない。

同窓会に姿を見せることもなく、その後の彼が話題になることも無かった。

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もちろん確証はないのだが、あの中年女性。

俺は彼女が、すでにこの世のものではない同級生の母親だったのではないか、と思うことがときどきある。

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【第五十九話 ある男の話】

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その男は下町の、あまり裕福ではない職人の家に生まれた。

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母の教育方針で算数だけは得意だった男は、学問で身を立てることを志していたという。

「オイラは芸人になる気なんかなかったんだ。将来は数学者か物理学者になるんだろうって思ってた」

男はそう語っている。

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「オイラの婆さんはさ、娘義太夫をやっていて、そこで一番だったら天皇陛下に勲章をもらえる、って立場の人だった。

でもいいスポンサーに恵まれなくて、腕は良くても決して一番として認められなかった。

本当は自分が腕は一番いいんだ。だから・・・」

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自分は不遇だ、不遇だ、悔しくてならない、と、幼い頃の男は祖母に繰り返し聞かされていたという。

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やがて男は大学に進学し、高齢の祖母は亡くなった。

ある日、男が祖母の部屋を片付けていた時、ふと目に入るものがあった。

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「それが婆さんのバチだったんだ。三味線に使う、象牙のバチ。

『たけ殿へ』って書いた半紙にくるんで置いてあった。それからなんだよなあ・・・」

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男は何故か芸能への道を進むことになってしまったと語る。

苦学して進学した大学を中退し、ストリップ劇場の司会などで芸を磨きながら糊口を凌ぐ日々、しかし・・・。

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「もともとやりたくなんかないわけだから、嫌になって辞めちまう。でも戻っちゃう。必ず戻されちゃうんだ。なぜだかわからないんだけど」

苦労を重ねた男だったが、持ち前の才能と努力はやがて開花することになる。

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漫才師としての活動の場を得た男は大成し、毒舌を武器に世間の笑いという笑いを全て攫った。

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男のカリスマは群を抜き、そのキャラクターは若者を大いに魅了した。

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男の芸は世間を揺るがし、それまで社会的に低く見られていたお笑い芸人の存在を、アンテナの高い若者が志す職業に、価値観を根本的に変えてしまった。

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「運命なんてものは、自分でどうにか動かせるものじゃない。どんな運命が待っていようと、それをそのまま受け入れるしかない」

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男はのちにそう語っている。

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男の名は「北野武」

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後に映画界へと進出し、

「世界のキタノ」としてその名を世界に馳せる、

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「ビートたけし」

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その人である。

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【第六十話 金縛り】

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下請けさんの解体屋の従業員の話。

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折からの不況で収入が減り、借金もあった彼は一時期治安の大変およろしいアパートに住んでいたことがあった。

ある日、仕事から帰り、へとへとになった彼は、早々に床について眠っていた。

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真夜中、ふと目を覚ますと、布団の足元のほうから、(スッ)という感じで何かの重みを感じた。

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(なんだ?)

とっさに身を起こそうとした彼だが、首の辺りにジーンとした痺れを感じたまま、目玉以外が動かない。

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(金縛りだ)

思うまもなく、スッという重みが、足元、足の間、胸の辺り、と徐々に上に登ってくる。

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そして彼をジーーっと見ている視線を感じた。

(誰かいる。・・・助けてくれ!)

そう思いながらやっとのことで首をぶんぶん振り、あえぐように荒い呼吸をする。

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顔を横に向けたままばっと目を開くと、ふいに視線の先にテレビが映った。

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消したはずのテレビが、砂嵐を映し出しながら青白い光を放っている。

(え?)

なんでテレビが着いているんだ?

一瞬テレビに気を取られたその時、

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グウウウウウウウウウ

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と首に圧迫感を感じた。

(首を絞められている)

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ヤバイ、これは本格的にヤバイ。

「あ、……っく、かっ」

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喉から変な音が漏れる。

胸にも強烈な圧迫感があった。何者かが自分の胸に座り込んで首を絞めている。そんな情景が浮かんだ。

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(誰か、誰か助けてくれ!)

声にならない声で助けを呼んだ。と、その時、

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「兄ちゃん、それ隣の人」

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テレビの方から声が聞こえた。すると、

「……あ」

という声と共に、圧迫感がフッと消えた。

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shake

「う、くああああああ!」

彼は奇声と共に上半身を起こした。

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辺りを見渡すと、テレビのライトに照らされて二人の人影が隣の部屋の壁の方に向かって溶け込むように消えるところだった。

それっきり、部屋は静まり返って何事も無い。ただ部屋のテレビが無機質に砂嵐を映し出している。

(……なんなんだよ、一体)

彼が電気を付けようとして立ち上がると、隣の部屋から

shake

「んだ!てめえ。ボケェ!ブッ殺すぞ、オラア!!」

shake

という品のいい雄たけびが聞こえた。

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しばらくドスン、バタンと鳴り響いていた隣の部屋だったが、やがて何事も無かったように静寂を取り戻した。

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やがて、真っ黒の人影が二つ、壁からぬっと生えたかと思うと、よろよろと歩き出した。

彼と目が会うと、ぺこ、と力のない会釈をした。

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彼は思わず二つの影に会釈を返し、「あ、ども」とつぶやいたそうだ。

二つの影はそのまま彼の横を通り過ぎ、テレビの前まで来ると、テレビに吸い込まれるようにして消えた。と同時にテレビの電源も消えて、部屋は再び真っ暗になった。

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そしてそれ以降怪異は無かったという。

ちなみにお隣は、大変勇猛でいらっしゃる、ヤの付く職業の方でいらっしゃったそうだ。

【了】

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はいはい、お粗末さまでございました。

まだまだ長い夜は続きます。

では続いては、Glue様でいらっしゃいますかね?

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準備が整い次第、お話しいただけるそうで、では皆さま、良い夜をお過ごしくださいませ

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