修行者さまのテレビのやつ、怖いのにくっそ笑えますな-。
わはー。
……たはは、失敬失敬。
みなさま、そんなにらまないで下さいなー。
それでは、お話を始めさせていただきます。
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さて。子どものころ、毎年夏休みになると、田舎にあるいとこの家にお泊まりして、同い年のしょうくんと、いっしょに洞窟探検したり、海で魚をつかまえたりしました。
本当に楽しかったですねー。
ときどきあぶない橋も渡りました。
たとえばある年、こんなことがあったんです。
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第六十一話【おーい】
夕食のあと、急な法事で大人たちがみんな出払うと、しょうくんが「いしし」と笑って、引き出しから懐中電灯をふたつ持ってきました。
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「これから探検にゆくぞ、ついてくるのだ」
「どこに行くんですかー」
「のろわれた灯台であーる」
面白そうだったので二つ返事でOKです。親にばれて大目玉をくらうのはいやでしたが、冒険心がまさりました。
ちなみに「呪われた○○」とか「死の○○」とか、何でもかんでも不吉にするのが彼の趣味です。
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台風が近かったので、途中で降られてもいいよう合羽をはおり長靴を履いてから出ました。
ビニールハウスや牛小屋を通り過ぎて、しばらく歩くと、岬の先端であやしく光る灯台が見えてきました。
灯台の入り口には、潮風でさびたチェーンと「立ち入り禁止」の札がかけられていました。柵からちょっと身を乗り出して下をのぞき込むと、切り立った崖を這い上がるようにして吹き上げてくる風がほうほうと不気味な音を立てていて、背筋がぞくぞくしましたね。
見上げると太い光の棒が、ぶうううん、ぶうううん、と回転しています。
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「いしし。
ずっと昔さ、嵐で船が沈んで、たくさんの水死体がここに流れ着いたんだ。でね、
ある大時化の夜、お隣のおじさんがここで夜釣りしてたら、風にまじって、おーい、おーいと声がしたんだって。
ほかの釣り人かと思って、あたりをキョロキョロしたけれど、だーれもいない。
(空耳かな)
そう思ったんだけど、しばらくしてまた声がしたんだって。さっきよりたくさんの。
おーい、おーい。
それでね、下を見たら、裸の人間が大勢、おじさんに向かって手を振っていたんだって。
おーい、おいでーって。
水死体って波で洋服がはぎとられちゃうから、裸なんだってさ。
きっとおじさんを道連れにしようと、呼んでたんだ。いしし。
こういう夜は声がするんだってさ……おーい、おーい」
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白目をむいて、手をふるしょうくん。
生きた人間を引きずり込もうとする水死人のイメージがありありと目に浮かんできて、怖かったですねー。
それで調子に乗った彼が、ゾンビみたいににじり寄ってきた、そのとき。
「おーい!」
下からはっきり「おーい」と聞こえきたんです。ふたりとも飛び上がりました。
がくがく震えながらいっしょに崖下をのぞき込むと、すこし離れた岩場で手をふる人影が。
恐怖でおしっこちびるかと思いました。
そしたら、しょうくんが、
「なんだ、漁師のおっさんか」
それは裸の水死体なんかじゃなくて、胴長をきて電灯をもった人間でした。
「ひとをおどかすなんて、最低だ」
どの口がそれを言うのか、このやろう。彼は大物だと思いました。
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そんなことを考えていたら、おじさんが海を横切ってこっちに歩いてきました。
「Glue、あいつに石なげてやろ…」
急に声が聞こえなくなったので、ふりむいたんです。そしたらなんと、全力で走り去るしょうくんの後ろ姿が。
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「しょうくーん! おいてかないで、おーい、おーい!」
「うわっうわっ、うわあああああー!」
両耳をおさえながら叫び続けるしょうくん。
死に物狂いで追いかけましたよ。たとえ幽霊はいなくても、あんなおっかない場所に置き去りなんてごめんです。
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途中で何回もこけました。
やっと家にたどりついたときは、満身創痍アンド泥まみれ。長靴はぬげて、合羽もさけて。
玄関でうつぶせになってしゃくり上げるしょうくんに、お前はなぜ逃げたのかと半ばキレ気味に詰め寄ると、こんな答えが返ってきました。
「歩いてこれるわけないんだ。だって、あそこに干潟なんてないもの」
背後でガラリと戸の開く気配がしました。
「おーい」
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まあ、後ろにいたの、法事から戻ってきた父だったんですけどね。
「おーい、ただいまー」って。なははー。
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さーてお次は大学時代、ハクジョー者のしょうくんとふたりで旅行したときのお話です。
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第六十二話【むううううん】
旅行2日目、とある温泉街に建つ古いホテルに泊まったんです。外はひどい雨でした。
夏休み期間でしたが、全然お客さんいませんでしたね。
ラウンジで掛け軸をながめてうっとりしているおじさんが一人、
入り口でポストに話しかけている変な人が一人、売店でたまごだけ売っているあやしいおばあさんが一人。
カウンターの人も、なんか暇そう。
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でも設備はすごいよかったです。
お部屋は和室で、室内には小さなテーブルが一つ、窓から湖が見えました。
荷物をおいたらさっそく大浴場へGO。汗を洗い流して、疲れた身体を湯船でのばしました。
いやー、最高でしたねー。そのあとのご飯も、本当においしかったです。
***
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でも、8時ごろでしたかね。突然まっ暗になりました。たぶん大雨で送電線が切れちゃったんでしょうね。
外に出ると廊下も真っ暗。エアコンも冷蔵庫も使えない。しばらくしたら支配人さんがやってきました。
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「お客様、大変申し訳ありません。非常用電源が作動しなくて、復旧のめども立ちません。さしあたっては部屋に備え付けの懐中電灯をお使いください」
でも、電気がないと何もできませんよね。
ごろごろしながら、ふたりでお話しているうちに、そのまま眠っちゃいました。
*
*
*
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ほんとうによく眠れました。
めざめるとすごくいい天気で、何かいいことありそうな気がしました。
うーんと背伸びして、振り返ったら、げっそりやつれたしょうくんが部屋の隅で体育座りしていました。
「Glue……。」
「な、何があったんですかー!」
「実は……」
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***
Glueが寝たあと、なかなか寝られなくて、布団をかぶったままボーっとしてたんだ。
それで、やっとうとうとしてきたと思ったら、変なうめき声で目が覚めたんだ。
むうん、むうううん、んんんんんーって、
鼻歌か寝言みたいな、へんな声だったよ。
ぼく、てっきり、Glueが夢にうなされてるのかと思って。
でも見たら、きみはすやすや寝てた。
また声がした。外からだったよ。さっきと同じで「むううううん、んんんんんー」ってさ。
それがしばらく続いたんだ。それで、
ひときわ長い「んんんんんんんんんんんんー」のあと、
「ドン!」って、大きな音がしたんだよ。
壁にモノを乱暴に叩きつけたみたいな、鈍い音だったね。
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うめき声に怒ったひとが壁を殴ったのかと思ったよ、一瞬ね。
でもそこで違和感をおぼえてさ、何でだろうって、しばらく考えて、ふと気づいたんだ。
音のタイミングが変だ。
うめき声が「ドン」と同時に消え、しばらくしてからまた始まっている。
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むうん、むっー、ドン。
むうううん、むぐ、ドン。
んんん、んんんんんー、ドン、
ドン、
ドン、
ドン。
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そこで、あっと思い至ったんだ。
これ、頭をつかんで壁にぶつけている音かもしれないって。
恐怖で唇がさーっと乾いていくのが分かった。
はやく止めなきゃって。だけど一人は怖かったから、隣にいたきみを思い切りゆさぶった。でもきみ、ぜんぜん起きなかったぜ。
「むにゃむにゃ、もうたべられないー」とか何とかいってさ。
そこでまた、あの音が聞こえてきたんだ。
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ドン、
ドン、
ドン。
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このままじゃ誰か殺されちゃうかもしれない。早く支配人さんに知らせなきゃ。
でも、何かの勘違いだったらどうしよう。
どうしたらいいか、しばらく考えたよ。
でも、このまま見過ごすわけにはいかないって、はっきりさせなきゃって。
決心して、外に出たんだ。
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廊下はとても暗かったよ。ライトを消したら、目を開けているのか閉じているのか分からないくらい暗かった。
あの音はさっきよりもはっきり聞こえていた。
音は廊下を曲がった先からしていた。
むうううん……ドン。
んんんー、ドン。
また、
ドン、
ドン、ドン、んんん、んん、んんんんー
ドン。
ドン、
ドン、
、
、
ドン。
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本当に怖かった。心臓がバクバクしてたよ。
でも助けなきゃって。
だからぼく、暗闇を、ライトで照らしたんだ。
なあGlue、何がいたと思う?
そこでしょうくんは、ごくんっとつばを飲み込みました。
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***
ぼくが見たのは胸から下だけ。
何もはいていない足、所々赤いシミのついたブラウス、それからだらんとたれた腕。
それがさ、まるでキツツキみたいに身体をゆらして、ドアに頭突きしてたんだ。
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きびすをさっと返し、来た道をひきかえそうとしたら、後ろの暗闇から、
んんんんんんんんんんんんんー!
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部屋に飛び込んでさ、鍵を閉めたよ。
ひたひたひたひたって、
あれが部屋の前を通り過ぎていく気配がしたな。
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、
、
、
、
、
どのぐらい経ったかな。
しばらくしてから、もう大丈夫だろうって、ドアを開けたんだ。
あれは居なかった。
安堵でため息をついたら、
耳元でさ、
むううううううううん。
ライトで照らした。居たんだ。
白いブラウスを着た女が。
顔が、ガラスに押し付けた粘土みたいに潰れた――ぶつけ過ぎたんだろうね。
こもった声で、
「むうううん……入れてえ」
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怖くて眠れなかったんだ。
語り終えたしょうくんの目には大粒の涙が浮かんでいました。
「ごめんGlue……」
ふと足下を見ると、影が三つ。
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はーい!おそまつさまでした。
それでは、次のかた、どうぞ-。
作者Glue
百物語
一〜五話 ロビンⓂ︎
六〜十話 沙羅
十一〜十三話 まりか
十四〜十六話 よもつひらさか
十七~十八話 ラグト
十九〜二一話 珍味
二二〜二四話 おでん屋
二五〜二九話 ゼロ
三十〜三一話 山サン
三二〜三四話 綿貫一
三五話 バンビ
三六〜三七話 ともすけ
三八話 sun
三九話 ロビンⓂ︎
四十話+注意 沙羅
四一〜四二話 吉井
四三〜四五話 よもつひらさか
四六〜五十話 細井ゲゲ
五一~五三話 紫音
五四~五七話 怪談師Lv.1
五八~六十話 修行者
ルール・参加者
みなさま、ふるってご参加ください。
そしてみんなで呪われましょう。なんちゃって!なははー。