長編11
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河童のミイラ

 これは、俺が大学に入って、初めての夏を迎えた頃に体験した話だ。

その頃の俺は、SNSで知り合った、心霊サークルのオフ会なんかによく参加していた。

元々、昔から心霊体験に縁があった俺は、自然と早いうちにオカルトにのめりこむようになった。

が、さすがに親しい友人と、そういう付き合いは難しい。(理解のある人間が周りに居れば別だが)

下手をすればキチ○イ扱いされてしまうし、何かと面倒だからだ。

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そこで、俺はネットで同じ仲間を探す事にした。

同じコミュニティならば、何も気を使うことなく、共通の趣味で盛り上がることができる。

そしてようやく、俺は地元にある、今の心霊サークルに辿り着く事ができた。

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オフ会は月に2回ほど行われている。

主催者は、サークルのHP管理人、ひよりさんという人だ。

サークルにはけっこう人がいて、ネット内だけでも30人規模はいた。

ただ、その内オフ会に参加できる人間は、約半分いるかいないかだ。

まあ中には未成年もいるし、それは仕方がない事。

参加する人間もまばらで、前回参加した人間が一人もおらず、その日が皆初顔合わせ、何てことも珍しくない。

今回もそのパターンだ。

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前回から引き続き参加するのは俺だけで、あとは皆オフ会で会うのは初めましてばかりの連中。

まあそれもそのはず、おそらく原因は今回のお題にある。

オフ会には毎回お題が決まっており、主にサークルHPで皆で決めたりしている。

ちなみに前回は心霊写真だった。

オーブもとい、微粒な埃による光の乱射が飛び交う、自称心霊写真なるものが、

満場一致で一位に選ばれていた。

正直これはかなり微妙でしかなかった。

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そして今回のお題はなんと、呪われた代物。

呪われた物なら何でもいいというお題にはなったが、普通そんな物、そこら辺に転がっているなんて事は決してない。

いや、あってたまるかって言うのが俺の本音だ。

つまり、単純にお題が無理難題過ぎて、参加を見送る人が多かったというわけだ。

ちなみに俺は特に何も用意することができなかった為、今回はギャラリーとして参加する。

まあありきたりに言えば、開き直ったって事だ。

参加する事に意義がある、今はそういう事にしておこう。

俺は都内ファミレスの扉を開きながら、自分に頷きつつ店に入った。

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wallpaper:1054

時刻はPM7:00、約束の時間だ。

座席は喫煙席、店の一番奥の窓側。

予め決められていたメンバーの一人が、座席を確保してくれているはずだ。

店員の一人が俺を案内しようと寄ってきたが、俺は連れが先に来ているからとやんわり断り、

奥の座席へと向かった。

席にはHPで指定されていたとおりの服装と人相、間違いない。

急ぎ足で歩み寄る。

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「すみません、お待たせしました、よ、与一です」

軽く会釈して、俺は空いてる席に腰掛けた。

ちなみに与一は俺のハンドルネーム。

「どうも、ヨネちゃんです」

「カッキーです」

「あ、ミカンでーす」

「√(ルート)……」

一通りの挨拶をすませ、俺たちは飲み物を頼んだ。

しかし、今回のメンバーは全体的に若い。

俺とヨネちゃんさん、カッキーさんは同い年ぐらいだろう。

残りの女性二名、ミカンさんと√さんに関しては、おそらく高校生か?ここは深く突っ込まないほうがいいみたいだ。

それにしても、ミカンさんはいいとして、この√って子の格好……

いわゆるあれか、ゴスロリってやつか?

レースのついた蝶柄の黒い服。所々にベルトの装飾があり、首には首輪型のベルト。

よく見れば化粧もどことなくダークな感じ。

しかしこれが妙に似合っている。いや、元が良いのもあるのだろう。

よく見れば綺麗な顔立ちをしている。

既に、ヨネちゃんさんとカッキーさんは、この√って子に夢中のようだ。

先ほどから話題は常に√って子に振られている。

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「あの、そろそろ今回のお題を……」

たまりかねて俺がそう言うと、カッキーさんが、

「あっ、そうだな」

と返事をし、周りもそれに習うようにしてうんと頷く。

やがて、各自思い思いの品が、テーブルの上に置かれた。

ちなみに俺はすぐに深々と頭を下げ、今回はギャラリーとして参加した事を告げた。

そんな俺に対して、ミカンさんは、

「気にしなくて良いですよ、参加してくれただけでも嬉しいですし」

と、笑顔で気を使われてしまった。

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さて、最初のお題はヨネさんからだ。

お題は……呪われた心霊写真。

前回のお題と被るものがあったが、まあ呪いの品という事でセーフだ。

ただし内容は酷いもので、この写真を持っていると呪われる、というそれだけだった。

写真には赤い模様のようなものが全体に浮かんでおり、正直素人目に見ても、ただの現像ミスにしか見えない。

続いてカッキーさんの番となったが、

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「なんだよヨネちゃんも心霊写真かよ、ははははっ」

と、大笑い。ようは被ったって事だ。

写真の内容は、カッキーさんの祖母の葬儀の写真で、そこに写る写真の祖母の顔が、たまに睨めつけるような顔に変わる、というものだった。

が、今回はそのたまに、には当てはまらなかったらしく、しばらく皆で写真を見続けたが、結局何の変化も見られなかった。

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続いてミカンさん。

「これ、夜中に一人で勝手に動いてるみたいなの!」

そう言って見せてくれたのは、

「ああ、あの年がら年中蜂蜜ばかり食べてる……熊の○○さんだっけ?」

ここではあえて、世界的に利権の強い熊とだけ言っておこう。

「動くって、どういうふうに?」

俺が聞くとミカンさんは深刻な顔で答えた。

「いつもこれを抱いて寝てたんだけど、朝起きたらベッドの外にあったの」

ミカンさんからは以上だ。これ以上突っ込むのも時間の無駄なので触れないでおく。

最後は√って子の番だ。

この流れだと、どうしようもなくくだらない怠惰な時間を過ごして終わり、というようなパターンになりそうだが……

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「私からはこれ」

そう言って√は、これまた黒いアタッシュケースを開けて、中の物を皆に見せた。

「きゃっ!」

「うわっ、な、何これ?」

メンバーから小さな悲鳴が漏れた。

危うく俺も声を上げそうになったが、何とかそれをのみこむ。

確かめるようにもう一度ケースの中に目をやる。

そこには……

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「ミイラ、」

√が投げやりに言った。

そう、ミイラだ。

怪奇もののテレビなんかで見たことがある、あのミイラ。

「これ、河童のミイラだよね?うわぁ、本物だ……」

「マジかよ……初めて見た」

「本当だ、水かきついてる、気持ち悪い……」

思い思いの感想が漏れる。

至極もっともな感想。

確かに、見た目はかなり抵抗がある。

くすんだ茶色に変色したミイラ。

大きさは、膝を真っ直ぐ伸ばせば1mくらい。

膝を折り曲げたような格好をしていて、頭には皿のようなものがある。

顔は原型を留めていない。

手にはやはり河童の定番とも呼べよう、水かきのような物が見える。

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shake

「ウギャーッ」

突如聞こえた子供の泣き声に、俺はビクリと肩を震わせた。

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思わず辺りを見渡すと、後ろの席に4~5歳くらいの子供を抱っこした、若い母親同士が談笑していた。

赤ん坊いるなら禁煙席行けよ……

などと俺が悪態をついていると、

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「これ、持ってた人、みんな火事で焼け死んでるんだよね」

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『えっ?』

√の言葉に、メンバーが一斉に声を漏らした。

えっ、死ぬって……いやいや、さすがにそれはないだろ。

よく怖い話なんかで呪われて死んじゃうみたいな事はあるが、現実でそうそう人が死ぬ事があってたまるか。

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「火事って、それマジ?」

さすがにほかの男性人も半信半疑のようだ。

苦笑いでカッキーさんが聞き返すが、√は顔色変えずに、こくり、と頷いて見せた。

まあ正直言ったもん勝ちだ。

呪われていなくても、さっきのミカンさんの熊の人形のように、本人が呪われているって言えば、それはもう呪いの代物になってしまうのだから。

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「いやあ強烈だねこれは……そうそう、そういえば河童と言えばさ、」

ヨネちゃんさんはそう言って河童にまつわる話をし始めた。

他の皆もヨネちゃんさんの話に耳を傾け、話題は河童の話へ。

それを見て、√はそっとケースの蓋を閉じ、アタッシュケースを傍らにそっと引っ込めてしまった。

やがて各々が河童について知る話を披露し終わった頃、そろそろ解散しようかという事になった。

河童のミイラは強烈だったが、今回のお題は正直に言えば失敗のような気がした。

次回はもっとみんなが参加しやすいものにしたらどうかと、今度ひよりさんにメールしてみようかな。

そんな事を考えながら俺がレジにて会計を済ませていると。

「ねえ」

と、俺を呼ぶ声がした。

√だ。俺の服の肘辺りをつまんで引っ張ってきた。

「えっなに?」

おごれって話なら無理だぞ。

貧乏学生を舐めちゃいけない。

「ちょっと話がある、後でみんなと別れたら、隣の喫茶店に来て」

喫茶店?確か24時間営業の喫茶店があったな……ていうかなんだ?

一体どういう展開だ?まさか美味しい展開ってやつが……

いや、それはないな。

俺は甘い考えを捨て、一体何の罠だと勘ぐる事にした。

「何で?」

そう一言だけ返す。

すると、

「いくよ~?」

出口からミカンさん達が呼ぶ声がする。俺が振り向くと、√はろくに返事も返さないまま、すたこらと店を出て行ってしまった。

「おいおい何なんだよ本当に」

軽くため息をつき店を出ようとした。

「あの、すみませんお客様、お代を……」

レジの女性が申し訳なさそうに俺に言ってきた。

「えっ?」

扉のガラス越しに、俺に頭を下げる√の姿が見えた。

「おいおい……」

これは何かの呪いか?

俺は肩を落とし、仕方なくレジにてメロンソーダの代金を支払い、店を後にした。

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女性人を駅まで見送った後、カッキーさん達に呑みにでもと誘われたが、俺はその誘いを断り、店に忘れ物をしたといって、√が言っていた喫茶店を訪ねた。

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別にやましい気持ちはない。

とりあえず、メロンソーダの代金分の文句は言ってもいいんじゃないかと思う。

それに、俺は少しだけ気になっていた事があった。

ミイラを見せた後、カッキーさんが河童の話をし始めた時の√の顔だ。

あの時の表情が、なにやらものすごく落胆したような、そんな悲しい顔に見えたのだ。

大して話題にならなかったから?いや、それよりも何か別の思いがあったような気がする。

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「本当に来たんだ、あっ、私メロンソーダ」

「あ、はい、かしこまりました」

突然姿を現した√。俺の座っていた席まで来ると、側によってきた俺と同い年くらいの男性店員にそう言ってから、さっきのアタッシュケースをテーブルの上に置き、√はソファーに腰掛けた。

周りの客が一斉に俺たちに振り向く。

やはり目立つか、この女が……

「おい、さっきのメロンジュース代、」

「ここは私がおごるから」

「えっ?あ、ああ……」

さっきの文句を言おうと思ったが、√の一言でもう何も言えなくなってしまった。

まったく何なんだこの女。

「与一は、あ、与一でいいよね?それともお兄様とか呼んでほしい?」

「ぶっ!?……よ、与一でいいよ」

口に含んだ珈琲を噴出しそうになった。

おちょくられてるのか俺は?

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「で、その与一に聞きたいんだけど、さっきのミイラ、どう思った?」

「ど、どうって……?」

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「私の家さ、両親とも凄く厳しくて、昔から親の顔色ばかり気にして生きてきたんだよね。そしたら何となくだけど、今その人がどんな風に思っているかとか、けっこう分かっちゃうんだ」

「ふうん、それで何が言いたいんだ?」

珈琲から手を離し√に聞き返す。

「さっき、私が皆にミイラを見せてた時、私の事心配してくれてたよね?」

「なっ……」

図星。本当に読み取れるのかこいつ?読心術とかいうやつか?

俺の目の前で、店員が持ってきたメロンソーダをすすりながら、√は余裕の表情だ。

「な、なんか落ち込んでるようだったからな……」

咄嗟に俺は付け足すように言った。

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「落ち込んでる?ああ、まあね、結局誰も信じてなかったみたいだし」

「信じてって、前の持ち主が火事で死んだって話か?」

「うん。あれ、本当だよ?うちのお父さん、こういう曰くつきのもの集める悪趣味なコレクターでさ。気に入ったものとかたまに私にくれるんだよね」

冗談だろ?プレゼントにこんな物娘によこすのか……?何か色々破綻した親のようだな。

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「でも、これ持ってたら毎日変なことが起こるようになってさ、ある日、我慢できなくなって、気になってこのミイラの事調べたの。父親から前の持ち主の名前聞いてね。試しにネットで調べたら、簡単にヒットしてさ、」

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「調べたら火事で死んでたってわけか?」

話を聞き終わる前に俺がそう聞くと、√は静かにコクリと頷いて見せた。その表情はどこか不安げだ。

「気にしすぎなんじゃないか?」

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たまたま身の周りで起こった事を、その時あった不快な出来事のせいにしたりする事なんて、よくある事だ。

しかもこういった場合、気にすれば気にするほどどつぼにはまるもの。

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「そう思うんなら、これ、ちょっと預かってみてよ」

「はいいっ?」

√がとんでもない事を言い出した。

預かる?このミイラをか?

「気のせいかどうか、その目で確かめてみればいいじゃない」

た、確かに、√の言うとおりではある。

オカルト好きな俺にとっては、願ってもない事ではあるのだが、物が物だ。

が、そんな俺の心配を見透かしたかのように、

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「大丈夫、別にケースから出して部屋に飾っておかなくても、ケースの中に入れたままで十分効果あるから」

√がそう言ってアタッシュケースを両手で掴み、ズイっと俺の方にスライドさせてきた。

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河童のミイラ……実際には違った生物の骨と骨を、接着剤なんかでくっつけた物だったりとか、その大多数が偽者である事が多い。

最近では作りも本物っぽくて、かなり手が込んでいる物も少なくないと聞く。

まあ同じサークルメンバーのよしみでもある。

ここは何日か預かって、ほら何もなかっただろ?と、安心させてやってもいいかもしれない。

お礼に今度デートでも……って何考えてんだ俺は。

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「分かったよ、そんなに言うんならしばらく預かるよ。ただし、俺が何もないって判断したらすぐに突っ返すからな」

「本当に?本当に預かってくれるの?」

「ああ、今のとこは何も感じないし、多分大丈夫だよこいつは」

そう言って俺は右手でケースを軽く叩いて見せた。が、その時だ、

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shake

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「ウギャーッ!」

思わず体がビクリと反応した。

子供の泣き声。

またか?

思わず振り返る。が、そこには誰もいない。

いや、正確には、店の中には、俺たち以外に客はもういなかった。

何?何だ今のは?

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「聞こえてたんだ……やっぱり」

やっぱり?√は何を言っている?

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「さっきのオフ会の時も聞こえたんでしょ?私にも聞こえたし。与一の顔色で何か分かっちゃたんだよね。あ、この人も聞こえたんだなって」

ルートはそう言って、肘をテーブルにつけ、両手を頬に当てながら、どこか嬉しそうな顔で俺を見つめている。

「オフ会?あっ、あれは後ろの席に子供が、」

そこまで言った時だ、俺の言葉に被せるようにして√が言った。

「あの子供、寝てたよ?」

えっ?寝て……た?

「あれが聞こえてたの与一と私だけだよ。他の人たち、気にもしてなかったでしょ」

そんな……じゃあ今聞こえた赤ちゃんの泣き声は……本物……なのか?

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この……この河童のミイラは?

「あ、それと、」

すると√はまたもや俺の心を見透かしたかのように口を開いた。

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「私、それが河童のミイラだなんて、一言も言ってないから、クスッ……」

最後にいたずらっぽい笑みを浮かべると、√はケースをお置いたまま、伝票だけを持って席を立ち、こちらに振り返りもせず、店を出て行った。

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俺の、長くて怪しい夏が……こうして始まった……

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続く。

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