「ねえ奈美ちゃん、私ね……裕君に告白しようと思ってるんだ……」
学校からの帰り道、由衣は恥ずかしそうに私に告げた。
由衣とは幼稚園からの幼なじみで、もう十年以上の付き合いだが、
引っ込み思案で自分から告白するタイプではないと思っていた。
「お! ついにかー、大丈夫だよ! きっとうまくいくから!」
「ありがとう。でも……いいの?」
「いいって? 何が?」
「だって、奈美ちゃんも裕君のこと、好きじゃないの……?」
由衣は気まずそうに言った。
裕太は私達の高校のクラスメイトで、妙に気が合いよく一緒につるんでいるが
そこに恋愛感情などは持っていなかった。
「ええ? 全然違うよ、だって私、他に好きな人いるし!」
由衣は少し驚いた顔をして、その後、安心したように笑顔を浮かべた。
「そうだったんだ、全然知らなかったな。でもよかった、奈美ちゃんとはこれからもずっと友達でいてほしいから」
「そんなのあたりまえでしょ? つまらないこと気にしてないで告白のセリフでも考えときなよ!」
「うん……ありがとう。そうするね!奈美ちゃんに相談してよかった!」
「でも奥手の由衣も自分から告白するようになったんだね、小学生の頃は担任の先生に憧れてるだけだったし、中学生の時に告白してきた男子とも結局付き合わなかったもんね」
「そんなの……昔の話でしょ。先生は私達が卒業する前に転勤しちゃったし、告白してくれた子も夏休み明けたら転校しちゃってたし」
「そうだったっけ?じゃあなおさら頑張らないとね!裕太なら由衣を任せられるかなー」
「もう、なにそれー」
私と由衣は笑い合いながら帰路についた。
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一週間後、私は裕太のお葬式で泣きじゃくる由衣を抱きしめていた。
裕太は深夜の公園で暴漢に襲われ、バットで滅多打ちにされた状態で発見された。
「奈美ちゃん……奈美ちゃんっ……」
「由衣……泣かないで、大丈夫だから、私がついてるから」
由衣は私の胸で声を上げて泣き続けた。
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あーあ、裕太なら由衣のこと任せても大丈夫だと思ったんだけどな
由衣は気が弱いから、誰かが守ってあげなくちゃいけないもんね
小学校の時の教師はいやらしい目で由衣のこと見ていたから、生徒に手を出してるって学校と家に何回も電話してやったし
中学生の時、告白してきた頭悪そうな男子の家に火をつけてやった
由衣は自分から断れないだろうから、私が守ってあげなくちゃね
でも裕太ったらひどいな、私もこれだけ頑張ったから、これからは裕太が由衣のこと守ってあげてねって言ったら
「お前……頭おかしいんじゃねえのか!」とか言うんだもん
失礼しちゃうよね、全然由衣のこと理解してない
だからバットで殴ってやった、こんなのと付き合ったら由衣が不幸になっちゃうよね
由衣、これからも私が守ってあげるからね、いつか由衣を任せられると思う人が現れるまで
大好きだよ
由衣
作者末人
読んでくださった方、ありがとうございます。