久々に会った佐々木さんは肩まであった髪をバッサリ切り、いわゆるベリーショートと言われる髪型になっていた。
「うん、手入れもちゃんとしてて、これでも結構自慢の髪だと思ってたんだけど、ちょっとショックな事があってね」
「この間さ、いつも通り会社帰りに電車に乗ったんだ。その路線、私の帰宅時間がちょうどラッシュでね、いつもギュウギュウ詰めなの」
「それでね、私その電車乗るときいつもドア側のギリギリ乗るようにしてたんだ、中間まで行っちゃうと身動き取れないし、目の前に人の顔とかあるの嫌じゃない」
「だから体をドア側に向ければ横と後ろにしか人がいないし、外の景色も眺められるからってね」
「その日もそうやって乗って、夜の景色眺めながら早く着かないかなって思ってたの」
「発車してすぐくらいかな、なんか髪が引っ張られるような感じがしてね。たまに人の鞄とかに引っかかる時があるんだけど、そんな感じでもなくて」
「一本だけちょっと引っ張られて、離れたと思ったらまた一本って感じだったかな」
「ギュウギュウ詰めだから体も動かせないし、無視してたんだけどやっぱり気になっちゃって」
「それでほら、ドアのガラスって夜だと鏡みたいになるでしょ、だから外の景色じゃなくて私の後ろの方を意識して見てみたの」
「そしたらね、食べてた」
「私の斜め後ろの男の人が、私の髪の毛咥えて、前歯擦りあわせて少しづつ噛み千切ってるみたいに口動かして」
「ドアに映った私の顔見ながらニコニコしながら食べてたんだ」
「痴漢にもあったことあるけど、それ以上に怖くて体動かなかったよ」
「せっかく頑張って腰くらいまで伸ばそうと思ってたんだけどね」
佐々木さんは自転車通勤を検討しているという。
作者末人
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