その中学校の校舎裏の外壁に苔が生えるようになったのは、教員のKが失踪してからの事だ。40代独身のKは何事にも少々口うるさく、生徒からは敬遠されるタイプ。生徒達は彼の失踪を好き勝手噂するだけで、特に騒ぐ者はいなかった。
nextpage
外壁の苔は取り除いてもすぐに生え、用務員があれこれ手を尽くしたが効果はなかった。
そんなある日、生徒から「壁に文字が浮かび上がっている」と報告を受けた教員が見に行くと、それは件の外壁の苔で、歪だが確かに文字として読み取れた。
nextpage
ゴ メ ン ナ サ イ ──
外壁に浮かび上がった文字とKの失踪。生徒達は口々に呪いだのと騒ぎ、恐怖に震え、中には子供の精神的苦痛が云々と訴え出る親まで現れた。
nextpage
Kに一体何があったのか。
失踪後、職員室にあるKの机やロッカーを調べたが失踪に繋がる物は発見できず、更に警察が住居の実家を調べても何も出てこなかった。その時警察は同居人である両親から「失踪の理由は何も思い当たらない」とも聞いている。その言葉の信憑性はさて置き、全てが謎であった。
nextpage
またある日、〈ゴメンナサイ〉との苔の文字の下に、今度は『下向きの矢印』らしきものが出来上がっていた。
この下に、何かあるのだろうか。何に対し謝罪しているのか。
nextpage
教頭は生徒達が不在の休日、用務員と共に矢印が示すその場を掘り起こす事にした。
スコップで土を掘り進める。すると先端が軟質の何かに突き当たった。
厭な予感。二人は緊張に顔を強張らせた。
nextpage
周りの土を除けると、胎児のように丸まった人が…、遺体が現れた。
「こんな所に…」と教頭が呟く。
Kは土の中にいた。
が、教頭と用務員は、Kの異様な姿に気づいた。
nextpage
女子のスクール水着……、だよね…?
二人は目を合わせ、苦笑い。
nextpage
そう言えば、以前そんな紛失騒動が。謝罪の理由はそれか。
やや気まずい沈黙のあと、教頭が口を開く。
nextpage
「そりゃ親も隠したいわな…」
そして背筋を正し、こう言った。
nextpage
「別の場所に埋めよう」
作者退会会員
当作品をnicobungei主催『n賞』という800文字小説賞に投稿し、
【+1賞】という賞をいただくことができました!
ご投票下さった皆様、ありがとうございました!
今後はこの名誉に恥じぬよう、ますます精進して参ります。
宜しくお願い致します!