車に戻った私は何かもやもやを抱えていた。
「何か思い出せた?」
「何も…でも」
「何?」
「あそこにはもう行きたくない」
もやもやを抱えているのはこの子も同じなようだ。
確証はないがあれは…と、そんな事考える前に
するべきことがあるかな。
「きっと勘違いだよ。さっきも言った通り似たところよくあるし。」
これが精一杯だった。
それでもその子は微笑んで
「うん」
と言ってくれた。
そしていよいよあのトンネル。
この子と俺が出会った場所。
入口付近で車を止めて近くまで歩いていく。
道中その子はずっと俯いて自分の肩を抱いていた。
何故かその姿が悲しくて私は
(救ってあげたい)と心の底から思った。
トンネルの入口に着くとあの日と同じく
花瓶が孤独に置かれていた。花はとっくに枯れていた。
「ここだよね」
「うん」
何か考え込むその子。
10分ほどたった頃突然その子は振り返り
後ろで見守っていた私の胸に飛び込んできた。
と、同時に姿が見えなくなってしまった。
「え?」
と呆気にとられているとトンネルの奥から集団の騒ぐ声が聞こえてきた。
「やっぱなんもいねーじゃん!」
「幽霊なんているわけねーべ!」
「でも結構有名だよ?このトンネル」
「誰か死んだのは間違いねーな!花瓶置いてあったし」
トンネルから出てきたのは若くて見るからにDQNの集団。(と言っても当時の私と同い年くらい)
私の姿を見た1人が
「うぉ!っと。脅かすなよ、普通の人じゃねーか」
近づくと独特な匂いのするタバコを吸っていた。
酒にでも酔っているのか、フラフラしている。
「すいませーん、幽霊見ませんでしたかー?」
と、ヘラヘラした女が近づいてくる。
「見てねーよ」と言い捨て車に戻ろうとした時
ガシャンと大きな音がした。
ずいぶん華奢なDQNがトンネルの入口の花瓶を割って
振りかぶっていた。
「お前のその態度なんだよ」
そういうとその華奢はこちらに走って向かってきた。
何か声が聞こえた気がしたが
頭に血が登っていた私はそんなこと気にせず
その華奢をボコボコにした。ひたすらに殴り続けた。
途中自分の右手に違和感を感じたが気にせず殴り続けた。
周りのDQNは見てるだけ。1人頭の悪そーな女が誰かに電話していたがかまわず殴り続けた。
我に返り自分の下で伸びている華奢をみて
(あー、やりすぎた。車のナンバー覚えられてたらまた捕まるなー)
と冷静に考えていた。
そして見てるだけのDQNに
「新しい花瓶と新しい華買って供えとけ」
と言い捨て車に乗った。
車が走り出すと助手席でその子がすすり泣いていた。
「ごめんな」
としか言えなかった。
作者amane