兄が出かけてくる…と言ったまま戻らない。
日頃から恩人と慕っている高峰さんと連絡がつかない事を不審に思った兄は、数日前、高峰さんを探しに行くと家を飛び出していった。
私には小さい時から、他人に到底理解してもらえないであろう不思議な力がある。理由は解らないけれど、直感で「兄を探しに行かなくては」と強く感じた。
急がなくてはならない気がする…。
私は兄の残した少ない手がかりを元に山奥のある屋敷を訪ねた。
暗くてはっきりとは見えないけど広大な建物には間違いない。お金持ちの家なんだろうか…。
さ…寒い。私、なんでこんなミニスカートで来ちゃったんだろ…。しかも夜中に。自分の無防備過ぎる格好に多少の不安を感じつつ門をくぐった。
玄関を開けると荒れ果てた部屋が目に入る。所々壁や柱が崩れている。人の気配が無いけれど…誰も住んでないのかしら。
異様な空気に息苦しくなって、一旦玄関の外へ出ようとしたら扉がびくともしない…。 何っ!?このお約束な感じっ!?私にこの広い屋敷の中を探し回れとでもいうのっ??
………。
でも、人が住んでない以上、誰かに事情を聞く事は出来ない。兄の行方を探すには…覚悟を決めてここに留まるしかないようだわ。
私は懐中電灯を頼りに屋敷内を調べ始めた。
廊下に出るとすぐ先にボンヤリと青い光が見えた。
……炎…?
恐る恐る近づくと青い光の中に血の気のない男の顔が浮かんでいる。
「な…縄が………」
確かにそう聞こえた。
男は一言だけ残してボオッと消えてしまった。
縄……?縄が何……?
今見たものの虚実がわからず頭が混乱しそう…。波打つ鼓動を抑えて、冷静さを取り戻さなきゃ…、自分に強く言い聞かせた。
廊下は続いている。
そのまま先を進んだ。
はっ!!
……縄…。
高い天井から数本の長い縄が垂れ落ちていた。
これ…さっきの男が言ってた物なの……?廊下の真ん中に縄なんて一体どんな意味があるのかしら…。
懐中電灯で四方を照らしながら歩いた。突き当たりに見えるのは…鏡。その手前に何か落ちている。
私はそれを拾いあげた。
瞬間、モノクロの映像が頭の中にフラッシュバックした。
無数のうごめく手に囲まれている兄の姿!!
短い映像の後、我に還った。兄の身に何が起こったの!?あの白く浮き上がったたくさんの手は何っ?
顔を上げると目の前の大きな鏡に着物に身を包んだ女が映っていた。長く長く伸びた黒髪で顔は覆われ微かに見えるのは色の無い唇。自分の目を疑う前にまたしても瞬間に消えてしまった。
………。
私の不思議な力…それは見えないはずのものが見えてしまう事…そしてまるで自分がその場にいるかのような錯覚に陥る程リアルに蘇る他人の記憶…。
この屋敷には想像を絶する何かが隠されているのかもしれない。
兄の落としていったカメラと手帳を片手に、秘密を暴く事が兄の行方に繋がると信じて先を急いだ……。
つづく
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話