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おフロの「もじゃもじゃ」

中編3
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おフロの「もじゃもじゃ」

私は、昔から自分自身に霊感などはありませんが、

どうやら色々「よってくる」らしく、

家族や彼女から、それらしい不思議な話をよく聞きます。

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これは、母親から聞いた、

もう、私の記憶にはない、

幼児期の話です。

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私がまだ、3歳になる頃、

クレヨンでは絵がかけるけど、

色鉛筆などではうまくかけなかったぐらい昔に遡ります

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現在、自分はクリエイティブディレクターやアートディレクターとして、

作品制作や企画に携わらせていただいているのですが、

当時から、絵を描くことがすでに好きだったようで、

よく座り込んで、母親の前で絵を描いていたそうです

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そんな折り、

よく母親は、こう聞いたそうです。

「ねぇ、なにを描いているの?」

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まだ色も一色で、丸ばかりしか描けでいなかった自分が、

『なんのつもりでそれを描いているか』

それが、親なりの楽しみだったとのことでした

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さて、ある日

小さな私は、珍しく居間ではなく、廊下の突き当たりで、フローリングの地べたに貼り付いて、

チラシの裏に、一生懸命、

ゴリゴリと絵を描いていたそうです

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ゴリゴリゴリゴリ

ゴリゴリゴリゴリ

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なんだか、

いつもとちがって、ひたすら同じ動きで描き込んでいます。

少しのぞきこむと、驚いたことに、ただの丸ではなく、グシャグシャと中を塗り込んでいます。

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「上手に描けるようになったわね!お色が塗れるの?えらいね!」

母親は、ちょっとした成長に大喜びです

「うん。ぬれるよ」

答えながらも、一心不乱に塗り続ける我が子

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ゴリゴリゴリゴリ

ゴリゴリゴリゴリ

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でも、なんだか…

あれ?いつもと、

もうひとつ違うような…

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ゴリゴリゴリゴリ

ゴリゴリゴリゴリ

…チラ

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あっ!!

そうか、この子…

「何かを描いてる」だけじゃなくて…

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…何かを「見ながら」描いてる。

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そうと気づいた瞬間、視線の先を真っ先に確認しました。

そこは、

廊下に面した、タイル張りの風呂場でした。

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しかし、変です。

チラシ裏に描いてあるのは、

お風呂場にあるものらしくない

ただの、

『黒いモジャモジャ』…

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母親は、恐る恐る、

私にいつもの質問をします。

「…ねぇ

…何を、描いているの?」

私は、振り向いてこう答えたそうです

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「おじさんだよ。

むこうむいた、おじさんの、あたま」

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母親の嫌な予感は、

もはや、揺るがない恐怖に変わりました

「…ねえ、

お風呂場におじさんなんかいないでしょ?」

「ううん。

いるよ?」

「…」

「…あのね、このおじさんね

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…あたまだけ、はえてるんだよ。ゆかから」

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母親は、もはや震えて動けません。

頭によぎるのは、この場から息子をどう連れ出すかと、

近くの寺社の何処に駆け込むか…

そんななか、私はくるっと風呂場に向き直り、

嬉しそうに指を指したそうです。

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「…あ!こっちむいた!

おかおがかけるね!」

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母親は、私を抱えて一目散に近くの神社へ行き、

お払いなど、しかるべきことをしてもらったそうです。

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今、実家は建て直され、三階建てになっていますが、

そんなこともあってか、

一階は物置とガレージ。

お風呂場は2階になっているそうです。

私はその後、

勿論もう、「おじさん」は見ていません。

Concrete
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@shibro ありがとうございます!(>_

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