私は、人が嫌いです。
人は…異物を認めない…
人は欲深く…醜く汚いから…
私も…
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史華さんとの時間…
私の人生で一番幸せな時間…
日記が終わってからの辛かった日々を話し伝えます。
史華さんは私の話しを何も言わずに黙って聞いてくれていました。
辛かった日々を全て伝え終え…恥ずかしながら初めて史華さんの事が気になったのです。
「史華さん!身体…大丈夫なんですか?」
史華さんの顔に陰りがはしりました。
「病気は?退院できたんですか?」
…
…
…
…
「棗ちゃん…今から何も聞かずに最後まで私の話しを聞いてほしいの…」
約束して…ほしいの。
全てを…説明するから
「はい…」
真剣で…悲しげで…苦しそうな表情に私は何も言えず頷きました。
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私の名前は、雛代 史華(ひなしろ ふみか)…
私のお家は…雛代の家は代々…生け贄の家系
17歳を迎えた雛代の女子は特殊な神力を宿し自らの命をもって土地の穢れを払う。
一時的だけど…その土地に住む人に祝福が与えられるの…
その最後の生け贄が私…
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史華さんの真剣な表情に私は黙ったまま…聞く事しかできませんでした。
私がこんな体質でなければ…史華さんを信用していなければ途中で怒っていたかもしれません…
こんなに私は真面目に話しているのに、作り話をしてと…
しかし、史華さんから語られる内容は…
悲しみと怨みの歴史でした。
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江戸の後期に生まれた雛代の家…
女性という存在が蔑ろにされていた時代…
娘の犠牲で莫大な財が生まれる。
これは、雛代の秘中の秘として続けられてきた…
血が薄くならないように神力が消えないように禁忌にまで手をだして…
そして、その歴史は昭和53年…私の代まで続いたの…
確かに土地は浄化できた…
だけど、生け贄たちの思いは怨念はどうなったと思う?
怨念は浄化されたはずの土地に溜まり続けて呪いになったの…
呪われた土地は浄化される事もなく生け贄と言う栄養をえて成長していった。
そして、皆はやっと気がついたの…雛代の家が途絶えた時に。
今までの行為の愚かさを浄化とは対極の呪いという穢れをまいていた事に…
それからは、原因不明の不幸が続いた…
行方不明や自殺…
それはね…雛代の娘たちが仲間を求めたから…
温もりを求めたからなの…
それが原因…
更なる犠牲を回避する事を望んだ人達は娘達に替わる生け贄…人形を彼岸に流し怒りを鎮める。
これが、雛代祭りの始まった理由…
…
…
…
史華さんは言葉を捜すように…
気持ちを落ち着けるように瞳を閉じます。
だけど、私達の悲しみが人形なんかで癒えるわけはないの…
誰でも良いわけではなかった。
誰でも良いなら人形でも問題なかったんだから…
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史華さんは悲しそうに…
言いにくそうな顔をしながら言葉をきった。
そして、息を深く吸い言葉を紡いだ…
…
…
…
私達が求めたのは力を持った女子…
だから、選別の為の罠を仕掛けた…
力がないと見ることも感じる事もできない罠を…
日本中の学校に…
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shake
バタン!
突然、背後の御堂の扉が大きな音をたてて開く…
そこは、見たことの無い風景が広がる…
学園の裏にあるばすの御堂…
しかし、広がるのは広大な竹林と大きな湖…
そして、湖には朽ちた人形が…
人形からは悲しみが波動のように放たれ、それを楽しむように大量の人魂が語りかけてくる…
おいで~
おいで~
貴女もおいで~
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史華さんの話は続く…
交換日記…これも罠の一つなの。
棗ちゃんもおかしいと思ったでしょ?
内容が微妙に合わないとかもあったと思う…
それは、私の学園についての知識が20年以上前のものだから…
今の学園を知らないから…
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私は史華さんの話に衝撃を受けた…
だけど、悲しみや怒りは感じなかった。
それは、史華さんとの日記での繋がりが、実際に会えた後の温もりが…
嘘だとは思えなかったから…
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だけどね…棗ちゃん。
私は貴女を好きになってしまった…
愛してしまった。
家族の温もりを知らない貴女をいとおしくなってしまった!
たがら、貴女への危険が迫っても大丈夫なように御守り…お人形を置いて日記を止めた…
これ以上の交流は…貴女が人の世界で暮らせなくなってしまうから…
…
…
…
だけど、駄目だったね。
私達はお互いに願ってしまった…
逢いたいと…
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史華さんは泣いていた…
嬉しいのか…
悲しみのかわからない顔で…
泣いていました。
「棗ちゃん…私は貴女の事を家族のように…妹のように愛してしまった…」
私は史華さんからの言葉を聞きたくなかった…
耳を押さえ、顔をふさぎうつむいた。
史華さんがお別れを言うことがわかったから…
「だからこそ、私は貴女…棗ちゃんと一緒にいる事はできない…」
私の顔を挟むように持ちあげ、眼をみて別れを告げた。
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私達は泣いていた…
私がこの世界の住人になる事は…
史華さんと暮らす事は…
不幸にしかならない…
呪いを深める事しかならない…
それが二人ともわかっていたから…
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「ただ、棗ちゃん…お願いがあります。」
これは、私達のわがまま…
「貴女の中に扉を作らせほしい」
私達が穢れをこれ以上…増さないように
同じ不幸が起こらないように…
「扉を通して、棗ちゃんの温もりで他の雛代の女子も説得できる…癒してあげれるから。」
棗ちゃんとの絆を残していたいから…
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史華さんの実際の声と…
心の声が交互に聞こえてきます。
建前と本音…
私は頷くしかありませんでした。
…
…
…
「棗ちゃん…ありがとう。」
史華さんの体が…
竹林が…湖が…淡い光に包まれていきます。
「今から…私に残った神力…浄化の力で棗ちゃんの人生に干渉します」
声がどんどん遠くなって聞こえなくなっていく…
「愛する貴女が…普通の生活ができるように」
いつか再び貴女と逢うために…
最後の声までは聞こえませんでした。
だけど、暖かい気持ちが私を包んで消えていきました…
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眼を開けると、近場の商店街を歩いていました。
深夜の商店街を泣きながら…
私の心は絶望で満たされ、生きる気力もありません。
史華さんとの別れ…父親との生活…これからの生活…
全てが絶望でしかありません。
史華さんから託された事は大切にしたい…
だけど、辛すぎる…
1人では耐えられないほどに…
…
…
…
カラカラカラ…
近くからお店の扉が開く音が…
ちょうど開店するのか暖簾を店先に出しています。
「あら?貴女…」
綺麗な女将さん、色白で冷たそうだけど暖かそうな不思議な女性…
私は、彼女を見たと同時に泣き崩れました。
「何かあったのね…お店の中でお休みなさい。」
女将さんは私の肩をささえられながら、カウンター席に座らせくれる。
テーブルには温かい料理とお茶…そして、自分用だろうか日本酒を準備していた。
「冷めないうちに食べちゃてね…私もお酒いただくから。」
いただきます…
小さい声でお礼を言い…料理をいただく。
静かな時間…お店に響くのは咀嚼の音とお酒を飲む音だけ。
「何があったかは聞かないし話さなくても良いけど…」
あっ貴女…お客様じゃないから普通に喋るからね。
と、言ってから続きを語りだす。
「貴女はまだ幸せよ?辛い事があって落ち込んだ時に支えてくれた人がいた…包んでくれた人がいた。
たとえ、それが人でなくてもね…」
やっぱり幸せよ…貴女はね…
「でも、私は史華さんと一緒にいたかった…」
「わかるよ…でも、貴女は約束した。1人で歩む事をね…」
女将さんは私の後ろに視線を向けながら続ける。
「貴女の事をまだ護ってくれてるけど時間ないよ」
「史華さんかな?貴女…彼女から自立しなきゃね」
ガラガラ…
「春さ~ん来たよー」
入って来たお客様?を見た瞬間…
ぶっ…私は口の物を吹き出した!
「デカ!」
入ってきたのは凄く大きい人?
身長は2メートル近くはある。
「デカって何!」
「春さん、何こいつ!凄い失礼なんだけど!」
「間違ってないよ!はっちゃん」
と、言うのは生々しいお人形さん…
「はっちゃん言うな!」
ワイワイ言いながら入ってくる凸凹コンビ…
「あの…不躾に失礼な事言ってすいませんでした」
クスクスと笑いながらお人形さんが一言…
「だから、失礼じゃないよ。事実だし♪」
うるさい!花火~
ぱしっと頭を叩く音が鳴り響く…
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「小鳥さん…改めてごめんなさい。」
まあ、許してあげるよ。ボソッと頬を赤く染めて許してくれる。
「で、棗ちゃんだっけ?春さんの言う通りだね…
貴女はもう1人で歩くしかないよ。」
「そうだね…史華ちゃんかな?もう限界だよね…」
春さん・小鳥さん・花火さん…皆さんが私の後ろを心配するように見詰める。
「棗ちゃん…貴女の後ろで心配そうに見詰めてるのよ。頑張ってるけど史華ちゃんはもう人の世にいる事ができない」
限界なんだよ…
と、春さん…
「史華ちゃんとの思い出…善いものばかりじゃない?」
「貴女は約束した…このままじゃ思い出も悪い物に変わっちゃうよ?」
…
…
…
「だけど、私は1人で生きていく自信がないんです…」
大丈夫だよ…自信ありげに花火さんが断言する
「貴女は幸せな思い出をもっている…
そして、貴女の人生は幸せになれるよう変化してる。」
続けて小鳥さんが…
「まあ、頑張るしかないだろう!」
それに…
「その人形…花火のお仲間だろ?」
私の傍らに置いてある御守りを指しながら…
「だね。棗ちゃんの事はその人形が護ってくれるよ?」
…
…
…
「棗!とにかく一度頑張ってみなよ!
駄目ならまた逃げればいいじゃん?」
…
…
…
「逃げればいいって小鳥さん…酷くないですか?それは…」
このお店にはいって数時間…私はいつの間にか普通に喋っていました。
このお店の三人は、私を哀れむ訳てばなく…慰める訳でもなく…私を私として接してくれます。
私が欲しかった物を史華さんとお店の三人は与えてくれました。
「さあ、今日はもう閉店だね…」
早いよ~春さん!そうだ春さん早いぞ!
後ろで二人がブーブーいっている。
「棗ちゃん…花火や小鳥も言っていたけど貴女はもう大丈夫…
悲しい事や苦しい事もあると思うけど貴女なら耐えられる。」
春さんが笑顔で続ける
「もしも、辛い事があったらまた遊びにおいでよ。今度はお客様としてね♪」
はあ、ありがとうございます。
私は三人にお礼を言ってからお店を後にしました。
不安や恐れはありますが楽しかった思い出…
支えてくれる人達…
逃げ場所…
色々な物を手にいれたから…
私は生きていけると思います。
…
…
…
春さん…
あの子…
また、このお店…異酒屋に来れるかな?
わからない…
だけど、混ざってるから…
もしかしたら来れるかもね…
来たらからかってやろうか?
そうだね…
楽しいかもね…
他の奴らと逢わせても楽しいかもね?
さあ、あの子に帰る切っ掛けあげたし…
飲みなおそうか?
そうだね…
今日は三人で飲もう…
暖簾を外した異酒屋の中に凸凹の影が入り消えていきました。
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帰宅した私には大きくは無いけど人並みの幸せが待っていました。
今後、どう生きるかはわかりません。
だけど、優しい姉と厳しくも楽しい三人のお友達…
この人達たの思い出があれば頑張れるかも…
もうちょっと頑張ろうと思えるのでした。
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そして、時は流れて、現在…
私の思い出は奪われそうになっていた…
「これは、私の一番の宝物なの!だから、駄目あげられないよ!」
風香さんは不満そうな顔をしている。
「それだけ、大事なお人形なら諦めますけど…」
…
…
…
「棗さんの一番は史華さんでも凸凹三人組でもなくて私ですからね!」
プイっと拗ねてしまう風香さん。
どう宥めようか考えながら、私は空を見上げます。
「史華さん…私、頑張ってます。」
ボソッと呟いてから私は風香さんをなだめるのに苦心する事になりました。
作者まー-3
間違ってコメントに解説を書いてしまいました。
解説はコメントをお読みください。