木漏れ日が心地よい昼下がり・・・彼女は思いつめた表情で山路を行く。
目的地である「其処」には大きな樹がそびえている筈である。「此処だ!」という明確な目印も無く、ただ行くだけで「其処」と知れる場所。
昔は真夜中に通ったものだと「其処」を教えてくれた老婆は言った。とても夜に一人では来れない・・・。
私の『思い』は昔の人に比べて劣っているのだろうか・・・。怒りと悔しさがこみ上げる。
ふと立ち止まる。今までうるさい位に聞こえていた小鳥のさえずりが・・・聞こえない・・・何故か鼓動が早くなる・・・路はゆっくりと左にカーブしている・・・その先・・・まだ見えない・・・その先・・・
「ここ」から帰るべきだ!「ここ」から引き返すべきだ!心が悲鳴を上げる・・・焦燥感が淡い恐怖と変わり額に汗が浮かぶ。
「其処」へ行くべきではない!「其処」へ着いてしまったら・・・
『お姉ちゃん・・・』
心臓が止まるかと思った。何かに殴られた様な衝撃と驚きで声にならない悲鳴を上げ振り返る。
『其処』には着物を着た小さな女の子が立っていた。木漏れ日が顔に当り眩しそうにして・・・
動悸を抑え、胸に手を当て何とか平静を装いながら喋ろうとすると・・・
『お姉ちゃんの「怒り」は解ったよ・・・行こう・・・』
「え・・・?な・・・何で?」
『お姉ちゃんの「悔しさ」も知ってるよ・・・』
驚いて後ろを振り返る。『其処』にはやはり着物を着た男の子が立っている。薄い笑みを浮かべて・・・
恐怖だった・・・こんな処にこんな子供達が居るはずない・・・一瞬でも安心した自分を罵りたくなった。
『行こう・・・この先だよ』と女の子・・・
『行こう・・・願いは叶えるよ・・・』と男の子・・・
「わ・・・私は・・・」
『その為に「此処」へ来たのだろう?・・・我らに頼みに・・・』と二人・・・
足から力が抜け座り込む・・・逃げられない・・・いつの間にか二人の子供の姿は無い。だが・・・風が声を運んでくる・・・この先の『其処』から・・・
『此処だよ・・・』『早く来てよ・・・』『早く来い!』『此処に居るよ・・・』
もう駄目だった・・・力を振り絞り立ち上がり、一目散に山路を駆け降りる。立ち止まると『あの子達』が居そうだった・・・。
一生のうち、もうこんなに走る事も無いだろう・・・老婆には後で謝りに行かねば・・・「私は真剣です。」と大見得を切って『其処』へ行く事も出来なかった。古い木製の鳥居をくぐり、車へと乗り込む。
『アレ』は怖かったので鳥居の内側の陰に置いてきた・・・。
不思議と浮気した彼の事なんかどうでも良くなった・・・。相手の女の事も・・・。自然と笑みが浮かぶ。さっきまで恐怖に苛まれていたのに・・・
「ヤッパリ神様だもんね・・・。ご利益あるかも・・・でもあの子達どっちが『タカオカミ』と『クラオカミ』なんだろ・・・?。
私はこれから元気になるだろう。そんな気がする。
バックミラー越しの鳥居に鉄の釘と藁製の人形を持つ二柱の子供達が見えた気がした・・・・・・。
怖い話投稿:ホラーテラー 最後の悪魔さん
作者怖話