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中編5
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四這

人はあまりに急激にストレスにさらされると、そ体を守るためにその前後の記憶を瞬間的に忘れようとする力が働くと聞いたことがあります。

 私のこの徐々に思い出される記憶は何時頃のものなのか、今となっては調べようもありません。

 これは私が浴びた純粋な悪意のお話です。

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 私の最寄り駅から家までは、徒歩5分くらいなのですが、途中に大きな公園があり、その中を突っ切って自宅へ向かいます。

 公園は第一と第二に別れており、その間の遊歩道を私は歩くのですが、綺麗に整備された第一

公園とは対照的に第二公園は芝が膝くらいまで生い茂り、電灯もついてないという有り様でした。

 私は当然第一公園側をいつも歩いていました。

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 ある日終電で帰った私は、公園に差し掛かったところで少し驚きました。どうやらこの公園は深夜一時を回ると完全に消灯されてしまうようです。

 特に治安の悪い地域ではないのですが、やはり女の一人歩きは怖いものがあります。道事態は一本道で、女の足でも3分程度で通りすぎてしまえる距離なので、私は暗い公園を突っ切ることにしました。

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 遊歩道を歩いているとどうやら前を歩いていらっしゃる方がいたようで、なんだか少し心強く感じた私は、前の方を追い抜かないよう歩幅を合わせて歩くよう心がけました。男性だったと記憶しています。

 しかし突然その前を歩いている方がガバッと前のめりに倒れこみ、両手を地面につけ首を大きく降って何かを探しているように見えました。 

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 何かを落としたのだろうか?私は真後ろを歩いていた事もあり、黙って通りすぎる訳にもいかず、「どうかしましたか」と声をかけてみました。

 しかし次の瞬間私はあまりのおぞましさに身を翻し、その場を走って立ち去りました。

 その男性はブルブルと首を降りながら、地面を舐めていたのです。何かを食べていたのかはわかりませんが、月明かりと街のぼんやりとした光で照らされた彼の口元からは間違いなく舌が出ていました。

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 私は彼を追い抜き後ろを振り向かないようにしていたのですが、どうしても気になって少しだけちらと後ろを振り返ってしまいました。

 しかしそこにあの男はいませんでした。

月明かりを利用して公園内も探しましたが、やはりどこにもいませんでした。

 毎度毎度愚かだなと思いながらも私は気になって仕方なくなり、彼のいた位置まで戻ってみました。

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 しかし痕跡はまったくなく、たった20~30秒の間に彼は消えてしまいました。私は諦めて帰路につこうとまた遊歩道を家に向かい歩き出しました。

 その時右側の第二公園から何かが動く音がしたのです、まるで草むらを犬が走るような音が。

 私の視線は音のした方に釘付けになり、第二公園の様子を伺っていました。少し前屈みになって辺りを見回していると、運の悪いことにカバンからペンや化粧品などの荷物が草むらへ転がっていってしまったのです。

慌てて私はその場にしゃがみ、荷物を拾い集めました。しかしお気に入りだった口紅だけがどうしても見つからず、私は男の事などすっかり忘れて地面を見ながら草むらへと入っていきました。

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 その時ゴンと頭に木のようなものがぶつかりました。私はうっと声を出し、ぶつかったものの正体を見て身体中の力が抜けました。

 そこにはあの男の頭があったのです、その男は至近距離で私を見つめていました。私がさっき遊歩道から彼を探したときも、彼はとても近くにいてこちらを見ていたのでしょう、彼が立ち上がることなく地を這って草むらにいたからみつけられなかったのだと思います。

 私は動くこともできず彼の顔を見ていました、彼は時折喉からゴロゴロと奇妙な音をたてて私を真っ黒な目で私を見ていましたが、そのうち顔を…というか頭全部を大きくブルブルと震わせて何処かへ四つん這いのまま走っていきました。

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 私の体は封印が解けたように動き、一目散にその場を立ち去りました。

 そしてしばらくはその道を使わず遠回りをして帰宅していました。しばらくしてその恐怖も少し薄れた頃、電気のついてる時間帯なら安全かと考え、私は夜の10時頃に公園の遊歩道を歩いていました。

 しかし私が遊歩道の真ん中。あの男と出会った場所に差し掛かった時に、突然ブツンッと電球の切れるような音が聞こえ、辺りが暗闇になりました。

 その時点で私はそこそこパニックでした。最初から暗かったなら目がすぐに慣れて大抵のものは見えますが、明るい場所の電気が急に切れたので周りが全く見えない暗闇になってしまったのです。

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 それでも私は記憶を頼りに一本道を歩き続けました、しかし途中で何かにつまづき膝をついてしまいました。そしてそこでアレがまた近くにいることを悟りました。私はつまづいたと言うより足を何かに払われたのです。

 徐々に目が慣れてきた私は再びあの四つん這いのモノと対峙しました。そいつは私の顔を見ると

 「みんなつれてって」

と言ってきました。私は驚き、そして意味がわからなかったのですが、目が月明かりに慣れたときに半分意味がわかりました。

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 四つん這いは一体ではなくたくさんいたのです。草むらからガサゴソとそいつらは大勢集まってきました。そしてそいつらは真っ黒な目でニイッと笑顔を作り、つれてってつれてってつれてってつれてってと少しずつ近寄りながら私に向かって言ってくるのです。

 こいつらは絶対に善いものではないと感じた私は、奴等を掻き分けるように家に帰りました。何度も後ろを確認して全速力で家まで走り抜けました。

 家に帰り鍵をかけ私はようやく落ち着きを取り戻し、シャワーを浴びていました途中何度も後ろが気になりお風呂場で振り返ってみたりしましたが、そこには浴室の壁があるだけでした。私はテレビをつけ、ベッドに横たわってなるべくアレのことを考えないように努力しました。

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 私にはここから先の記憶があまりありません。

2~3日後に同僚が家に来てくれるまで私は部屋の中でボーッと座っていたようなのです。私は当初自分に何があったのか思い出せませんでした。今もはっきり思い出そうとすると体がそれを拒否します。

 あの日ベッドに入った私は仰向けになり天井を見ました、そこであの四つん這いと目があったのです。そしてベッドの下の隙間からとても大きな声で

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「つれてきたね」と言われました。

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 私が連れて来たものの正体はわかりません。

はっきりいってなんであろうがどうでもいいという気持ちです。それよりも今はつれてきたアレがまだ私のそばにいるのかだけが気になるのです。

 あれからも時折私は記憶を失うことがあります。そのたびにあの四つん這いのモノと私は出会っているのでしょうか。

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