短編2
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月下美人の見せた夢

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月下美人を愛で、収集する男がいた。

何時間しか咲かないという儚さと、咲く姿を見ているとその美しさの中に強さを感じさせるからだそうだ。

萎んだ月下美人を毎年1つだけ酒に漬け、月下美人が咲いた時それを嗜むのが一番の楽しみである。と彼は語る。なんと10瓶もあるそうだ。

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ある晩彼は夢を見た。

一面に広がる月下美人の中に立っていた。

その先には白い衣服に身を包んだ金色のボブヘアーの女性が空を見上げながら佇んでいる。

彼は彼女に話を掛ける事にした。

「どうしましたか?」と問うた。色白で今までに見た事がない程の美しい女性だった。

彼女は空を見上げたまま動かず、返事はない。彼女に倣い彼も空を見上げて待とうとした時、

「待っているのです。」と彼女は美しい声で答えた。声まで美しいとは...

「恋をしているのですか?」と再び尋ねると彼女は何も答えない。空を見上げると星の代わりに月下美人があり、月が2つあった。彼にとってこんな良い夢は今までにない。不思議な光景ではあったが幸福感を与えてくれた。

「待って...いるのです。私を見てくれる事を。」

彼女が不意に呟いた。

「片想いですね。心が痛いでしょう?僕で良ければ聞きますよ。」彼は慰めの言葉を返した。

こんな美女が現実に居たのなら誰もが放っておかないであろう。

「いつも見つめているのに、彼は気付いてもくれない。こんなに見つめているのに...」

何と声を掛けて良いのか分からず彼女を見ていると、ハッキリとした声でこう言った。

「上の段の真ん中。」

意味が分からず困っていると彼女は話を続けた。

「良いですか?覚えていて下さい。上の段の真ん中です。」

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ここで目が覚めてしまった。先程夢の中で言われた言葉が気になり寝酒が足りなかったのだろう、と月下美人酒を飲む事にした。夢の続きが見たくて...

ふと月下美人の棚を見た。

上の段の真ん中には温泉で育てられたという珍しい姫月下美人が月灯りに照らされ金色に輝いていた。無理を言って花屋に買い付けに行ってもらった物である。

これだ...これの事か...と何故か思った。

珍しい姫月下美人を酒に漬けるなど畏れ多いと思い、漬けた事がなかったそうだ。

どの月下美人よりも香り高い姫月下美人、一般的な月下美人と違い何輪もの花を咲かせる。

あと1週間もしたら咲くであろう。

今年はこの姫月下美人の花達を惜しげもなく浮かべ、酒に漬けようと彼は思ったそうだ。

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