ある言い伝えに基づいた創作と云う事で一つ。
私の祖父母が暮らしていた田舎では、八月の盆が近づくと、盂蘭盆様(うらぼんさま)を決める儀式が行われる。
盂蘭盆様になれる条件は
1、男子であること。
2、15歳であること。
3、童貞であること。
この三点に限られた。
盂蘭盆様に選ばれるのはとても名誉な事であり、選ばれた家族には一年分の米や酒が贈られたと云う程だ。
当時、死者の霊魂は山に戻ると信じられおり、一年に一度だけ地上に帰還する事が許されていた。それが今でゆう『お盆』の原点だと思ってくれればいい。
しかし、霊魂と云うものは盲目であり、螢の灯す光りだけを頼りにさ迷うのだと云う。
それで、盂蘭盆様となった少年が螢の光りを灯した盆提灯を掲げ、山の天辺から、ふもとまで霊魂を誘導させる義務を担うと云う訳だ。
この儀式を盂蘭盆会(うらぼんえ)といい、今で云う迎え火、送り火の由来となったものだ。
ある年の盆、祖父が盂蘭盆様に任命されたそうだ。
祖父は螢提灯を掲げ、山の天辺まであがりきった。
全く怖くなかったと言えば嘘になるが、英雄と称えられるのは、少々気が引けた。
大した事はない。
距離にしても往復十キロ程度で、五時間はかからない。
天辺についたのは、八月十二日の午後十一時半頃で、まだ祖霊が降りてくるまでは三十分もあった。
山の天辺は、深夜だとゆうのに月明かりでまるで昼の様だ。すると…
チリーン…チリーン…
と、遠くの方で鈴の鳴る音が聞こえてくる。
急に怖くなった祖父は、まだ祖霊が降りてくるまで、時間があったにも関わらず、転がるように山を下ってしまったのだ。
どの位降りてきただろう?
ふと振り向くと、遠くの方から白くぼやっとした煙の様なものが降りてきているのが分かる。
『ひっ……!!』
間違いなくそれは霊魂だった。
チリーン…チリーン…
チリンチリンチリンチリン…
その煙は鈴の音を激しく鳴らしながら近づいてくる。
そして、とうとう祖父の周りにぐるぐると纏わりついた。
その煙の中には、無数の顔があり、皆嬉しそうにニコニコしていたと云う。
余程村に帰れるのが嬉しかったようだ。
祖父は、恐怖の余り、近くにあった底なし沼に提灯を投げ入れてしまうと。
霊魂達は楽しそうに沼に潜って行ったそうです。
怖い話投稿:ホラーテラー くじらUFOさん
作者怖話