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中編3
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兎を連れた女性

 これは1・2年ほど前に、僕の父から聞いた話です。

僕の父は僕が生まれる前からずっと、トラックの運転手をしています。

だからか、色々と遠方に行くことも多くてこのような体験は珍しくは無いとの事でした。

 その頃は人手が足りなかったらしく、父は長距離の荷物の運搬を任されていました。

この時はS県の工場に荷物を届ける途中だったそうです。

S県の近くで、とあるインターに立ち寄った時…

トイレに行こうとトラックから降りたら、何やら他のトラックの運転手達が集まってざわついていたらしいのです。

父はそういうのを見ると絶対に首を突っ込むタイプなので、これも例外なく真っ先に飛んで行きました。

4・5人いる運転手の前には、白いワンピースを来た女性。

年の程は20歳前後。肩より少し長い位の黒髪。そして、腕には可愛らしい真っ白な兎を大事そうに抱えていました。

運転手の一人にどうしたかと聞くと、どうもその女性はどうしても行きたい場所があるのだが、お金も何も無いのでそのインターから動くことが出来ずに困っている…と言うらしいのです。

他の運転手は「送って行ってやりたいが、全く別の方向なんだ」と皆、口をそろえました。

父が女性に行き先を聞いたところ…

「S県の●●です…」

と、か細く答えました。

僕は良く知りませんが、その女性の行きたがっていた場所と父の行く工場は近かったらしいのです。

先程も述べましたが父は何事にも無駄に首を突っ込むタイプなので、迷わず「送っていく」と言ったらしいです。

他の運転手たちも父のその言葉を聞いて、安心したのか別れを言うとすぐにそれぞれの車に戻っていきました。

 女性を助席に乗せ、走ること約20分。

父は女性に色々と話しかけたりしましたが、女性は軽くそっけなく返事をするだけでした。

そのうち父も話すのに疲れたらしく、黙って運転だけをしたそうです。

トラックが進むにつれて、車道の両脇に見える木々が多くなっていきました。

S県にはもう何度も行っているので、その風景は見慣れている筈です。

ですが、なにやらいつもと雰囲気が違う…

いつの間にやら、あれほど晴れ渡っていた空もぶ厚い雲に覆われていました。

しかも前後にも、反対車線からも他の車の姿は無い。

とにかく父は、早く目的地に着くことだけを考えたらしいです。

その間、目的地に着くまで、女性は前方だけを見据えてそっと兎を撫でていました。

 事故も何も無く、無事に父は目的地に着きました。

女性が目指していた場所に着くと、自分が先にトラックから降りて助席側に回りドアを開けると…

そこに居るはずの女性がいなかったのです。

もしかして、もう降りてしまったのかと周囲を見渡したけれどその女性は身あたらなかった。

近くにいた人にあの女性が歩いていかなかったが聞いたそうですが、誰もそんな女性は見ていないと言う。

その時は、もう荷物を工場に置きに行かなくてはならない時間だったので父は工場へ向かいました。

 後日、父が仕事仲間にその話をしたら…

その女性についてのことが分かりました。その女性はS県付近では有名な霊だったらしいのです。

彼女はS県に住む男性と、遠距離恋愛をしていた。

もう何年か付き合っていて二人は、結婚を控えていたという。

それがある時、いつもの様に彼の住むS県まで行く途中に交通事故に巻き込まれて彼女は死んだ。

彼女の飼っていたペットの白い兎もすぐ近くで死んでいたらしい……

 結婚を目前にしての、突然の不幸だった。

それにショックを受けた男性のほうは、S県を離れて遠くに引っ越した。

 女性は、彼に会えずに死んでしまったのが心残りなのだろう。

たまに現れては、事故現場付近からS県の彼の住んでいた場所まで行くらしい。

その霊と出逢い、車に乗せて連れて行った父。

この話をし終わったあと「彼女、成仏できればいいなぁ」と悲しげに呟いたのを僕は覚えている。

怖い話投稿:ホラーテラー 国巳さん  

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