当時、専門学校に通っていた僕は、2DKのマンションを借りて生活していました。
駅にも遠く、周りにスーパーとかも無かったのですが、家賃が安いという理由で契約しました。
2年目の夏。
夏休みを利用して高校から溜めていたバイト代で買ったバイクで、四国一周の旅を終えマンションに帰って来た………。
エレベーターを降りて直ぐの角を曲がり、部屋へと続く通路を歩いていると、丁度僕の部屋から大家さんが出て来て、ドアに鍵を締め反対側の階段を降りて行った。
不思議に思いながらも部屋に入ると、3つの段ボール箱が玄関に置いてあった。
送り主の名前も住所にも心当たりは無かった。
でも、宛先はこのマンションの僕の部屋になっていた。
“また大家さんの勘違いか。これでもう3回目だし”後で大家さんに伝える事にした。
その日はなかなか寝付けず、バイクの雑誌を読んだりテレビを見たりしていたが、知らない間に眠り込んでいた。
目が覚めたのは午前10時40分。床で寝たせいか、腰に軽い痛みを感じながらトイレに入った。
用を済ました僕は何かに見られている気がした。
それは浴槽の方からだった。
トイレとお風呂が一緒になっているタイプで、横にはカーテンで仕切られた浴槽がある。
僕はその視線を辿り浴槽の方に目をやるとカーテンの隙間の奥から、カッと目を見開いた若い女と目が合った。
声も出せず慌ててトイレを出た僕は、気が付けば少し離れた公園にいた。
見ちゃったかも…。
全然霊感のない僕は、さっき見た者が幽霊だったのかどうなのかは分からなかったが、あまりにもはっきりと見てしまったので、恐怖心からなかなか部屋に戻る事が出来なかった。
午後4時を過ぎてようやく部屋に戻る決意をし、恐る恐る部屋のドアを開けた。
一通り部屋の中を確認したが、あの女の姿はもう無かった。
ただ、昨日大家さんが置いていった段ボール箱の荷物が無くなっていた。
なんだか今日はとても疲れた……。
壁に凭れ、座り込んでいた僕はいつしか眠りに入っていった。
次の朝。
隣の部屋のドアを閉める音で目が覚めた。
出勤の時間なのだろう。いつも無神経に大きな音をたててドアを閉めるのだ。
大分と頭がすっきりしてきた僕は、部屋の異変に気が付いた。
窓のカーテンが変わってる!?
あとカレンダー、食器類、玄関マット……。
どうなってんだ!
昨日は確かに僕が買い揃えた物だったのに、部屋は見覚えの無い物に取り替えられていた。
大家さんにこの事を伝えに行ったが、留守らしく仕方なく部屋に戻る事にした。
部屋の前まで来た時、中から誰かの話し声が聞こえてきた。
一人は大家さん、そしてもう一人は女性の声だった。
息を殺し、ニ人の会話に集中した。
大家「……申し訳ないね。クローゼットにまだ前の住人の荷物が残ってたなんて」
女性「いいえ、いいんです。バイクの雑誌と、四国の旅行マップくらいですから」
大家「ご両親が来られて、荷物は全部持って行った筈だったんだけどね…」
女性「…そうですか」
女性「あの…、前にこの部屋を借りていた…。いえ、いいんです。雑誌は大家さんにお預けしますね」
大家「本当にすまなかったね……」
大家「……君の前に、この部屋は学生さんが使っていたんだ。でも今年の夏にバイクの事故で亡くなってね。なんだか四国からの帰りに事故にあったらしいよ。若いのに可哀想だね」
女性「…そうだったんですか……」
大家「ああ、いかん。これから区内会の会合があるんだった。何か分からない事があればいつでも言って来なさいよ」
女性「…………私が浴槽から見た、傷だらけのヘルメットとライダースーツを着た男は、きっと…………」
創作してみました
怖い話投稿:ホラーテラー グータンさん
作者怖話