中編3
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お父さんじゃ…ない…?

これは、私がバイト先の先輩から聞いた話…

私の通うバイト先のスーパーの二階にある従業員専用女子トイレには幽霊がいるというのは、従業員の殆どが知る話だ。

「こっちへ、おいで?」という優しいお母さんの声や、「キャッキャッ」と笑う小さな女の子の声、「ゔぅぅ…」と苦しむ女の人の声…

更に霊感のある人には、視えるらしい。

従業員専用なので、お客さんは入れない。

しかし、そこには見たことないおばさんが立っていた。

夏なのにも関わらず、ニットのセーターを着て突っ立っている。おかしい。

霊感のある人にとって、霊が見えても無視と言うのは常識のようで、無視したがロッカーまで着いて来たので、二度とあのトイレに入ってはならない。と仕事始めには強く言われたものだ…

私が入社する3年前の話。

私と同じ時間帯に同じ仕事をしていた高校2年生の女の子がいた。

女の子は真面目な性格で、体調が悪くても休まずにバイトに来ていた。

そんなある日、女の子は気持ち悪さのあまり吐いてしまった。

それでも仕事は休めないからと頑張る女の子に対して、店長が帰って休みなさいと伝えた。

女の子はフラフラと事務所へ戻っていく。

寂れたドアを、静かに押す。

ギィィィー。

shake

おかしい。交代や休憩時間外には消えている廊下の電気が点いている。

誰かいるのだろうか。

一先ず、タイムカードを切りに向かう。

体力が限界に近かった女の子にとって、電気がチカチカと点滅していることなど、とても些細でどうでもいいことだった。

女子更衣室へ向かい、着替えを始める。

「お父さんに、迎え来てって電話しなきゃ。」

女の子はおもむろに携帯を取り出す。

その時「ゔっ」さっき出し切ったはずの嘔気がまた訪れた。

女の子は、入ってはならないと言われた従業員専用トイレに入ってしまった。

ギィィィ、ガコン!

ポタンポタン…チカチカ…

誰も入ることのないトイレには、静かに響く水の漏れる音と、点滅する蛍光灯。

女の子は一番手前のトイレに駆け込んだ。

しかし、吐けない。先程胃の中身はすべて出してしまった。

嘔気だけが膨らんでいく。

「お父さん…」

女の子はただ一人頼れるの父親の事を呼ぶ。

携帯を開き、お父さんに電話を掛ける。

「もしもし、お父さん…?

私だけど、仕事中に気持ち悪くなって吐いちゃったの…

店長に帰れって言われたから、 今から迎えに来てくれないかな…?」

女の子は電話を掛け終え、お父さんが来る前に着替え終わらなければと、トイレを出た。

着替えを終えた女の子は外でお父さんの到着を待つ。

が、15分待っても来ない。きっと道が混んでいるのだろう。

30分経っても来ない。お父さんは、たった一人の愛娘の私の頼みを無視したことはなかった。

45分待った。店長が私に気付きまだ来ないのか?と尋ねる。

流石におかしい。忘れられたのではないか。

女の子はお父さんに電話を掛ける。

………プルルルルプルルルル………

『はい、もしもし。あぁ○○仕事はどうしたのかい?』

「お父さん!さっき私頼んだじゃない!

仕事中に気持ち悪くなったから迎えに来てって」

『えぇ、大丈夫かい?今行くから待っててね。』

お父さんは10分後に来た。

女の子はお父さんに何故来てくれなかったのか尋ねた。

『電話なんてなかったよ。○○が体調が悪かったことも今初めて知ったさ。』

お父さんが嘘をついているとも思えない。

女の子は不審に思うままで終わった。

後日、携帯の発信履歴を見ると、女の子が体調を崩した日、一度しか発信したことになっていない。

やはりおかしいと思った女の子は、起こった事を全て霊感のある人に相談した。

その話を聞いていた人の一言。

「あそこ、電波環境が悪いからねぇ。どこの携帯会社でも圏外になるのよね。」

女の子は血の気が引いた。

どうやら、お父さんだと思って会話した相手はお父さんではなかったようだ。

私は、トイレには近づかないようにしている。

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