中編3
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深夜のトイレ

熊本の某心霊スポットにまつわる噂話。

その夜A君は、ずっと好きだった女の子を田○坂という心霊スポットに連れていった。

目的は、少しでも彼女との距離を縮めたかったからという単純なもの。

「ねえ、怖いよ」

「ここは外人墓地って言って、もっと上にある墓が怖いらしいよ」

「もう帰ろうよ」

「せっかく来たんだし、車でちょっとだけ通ってみようよ」

A君の予想通り、女の子はとても怖がっていた。

何の音も雑音もまったく聞こえない不気味な静寂……それに、月明かりにうっすらと見えている無数の墓々。

坂道を登っていき、官軍墓地の入り口あたりに車を止める。

A君は、もうちょっと彼女を怖がらせてから市内に戻ろうと思い、突然車のエンジンを止めた。

そして、さほど尿意は感じていなかったが、わざと『トイレいってくる』と言って車を降りた。

いまにも切れそうな電球に、チカチカと照らされている古びた公衆便所が前方に見える。車からは30メートルばかし離れているだろうか。

A君は、彼女の怖がる様子を想像しながら、ひそかに笑みを浮かべながらトイレへと歩いていった。

車内で身を屈めながらジッとA君の帰りを待つ彼女。

A君がなかなか帰って来ない。

恐怖心がだんだん高ぶっていく。

念のためドアロックし、出来るだけ墓の方を見ないように俯きながら、ときおりチラッと前方のトイレへと眼を向ける。

A君がトイレに行ってから、もう30分は経とうとしていた。

「遅い……遅いよ、A君。もしかして、A君の身に何かあったんじゃ?」

恐怖と不安が頭の中を埋め尽くしていく。

彼女は腕時計を見ながらチラチラとトイレへ眼を向けた。

一時間が経過した。

おかしい、絶対におかしい。

怖くて見に行くことも出来ず、かといってこのままジッと待っているのも怖すぎる。

静まり返った暗闇に、なにやらモヤッとした霧みたいなものも出てきている。

この場からいっこくも早く帰りたい……彼女は、我慢できずにとうとう警察へ電話した。

もしA君が悪ふざけしてるだけなら、今日限りで絶交しようと思った。

田舎の山奥にある墓地。

早々に警察が来ることはなく、その間も彼女は恐怖に身を震わせていた。

強い風が吹いているのか、ときおりユサユサ車が揺れる。

一瞬、A君がいたずらしているのかも……とも思ったが、怖くて確認することが出来ない。

車の不可解な揺れは数分ほどつづいた。

電話してから20分後にようやく警察が到着した。

彼女はすぐに車をおり、泣きながらパトカーのほうへ走った。

怯えている彼女をパトカーに乗せ、事情を聞く警察官。

なんらかの事件に巻き込まれたのかもしれない―

そう考えた警察官が、パトカーを静かにトイレへと近づけていく。

一人の警察官がパトカーを降り、拳銃をかまえながらゆっくりとトイレ内へ入っていった。

が、その警察官はすぐに物凄い形相で戻ってきた。

そして無線で応援を要請。

警察官の尋常ならぬ様子に、彼女は怯えながら聞いてみた。

「あ、あの……A君はいたんですか?」

「A君かどうかは分かりませんが……」

「ど、どうしたんですか? A、A君は?」

「人間のものかどうか分かりませんが、トイレの個室に、バラバラにされた肉塊が山積みされてるんですよ……」

それを聞いた瞬間、彼女は失神した。

後日、彼女は驚愕の話を警察から聞いた。

「A君の身体は、なにかナタのようなもので細々と解体されていました。おそらく、トイレに入ってすぐ殺されたんでしょう。それにしても、あなたまで犠牲にならなくてよかった」

「そ、それって、どういう意味でしょう?」

「あなたが乗っていた車に、手形の血痕がいたるところに付いてたんですよ……」

怖い話投稿:ホラーテラー 梅太郎さん  

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