「もう何十年と昔のことだ。じいちゃんが住んでた村の近くにくらーい、くらーい山があってな、そのふもとに立派な祠があったんだ」
「ふーん」
「そこにゃあ村の守り神が祀られてるから、絶対にイタズラなんかしちゃいかんぞって子どもたちはみーんな大人に言われとった。じいちゃんも、じいちゃんのじいちゃんから何度も言われとった」
「それってどんな神様なの?」
「さぁ、わしも詳しくは知らん。ただただイタズラするなの一点張りじゃったからなぁ。子どもたちも大人が怖くて無理に近づこうとしなかった。でもある時、発電所を建てるための工事で山を削るという話が持ち上がってな。当然住民と業者の間で対立が起こって村の年寄り連中はこぞって開発反対を呼びかけたんじゃ」
「じいちゃんも?」
「いんや、うちではじいちゃんのじいちゃんだけだったよ。わしと親父は関わらんかった。よく言うじゃろう?触らぬ神に祟りなしって」
「………」
「一応祠は別の場所に移すと言うことになっとったらしいが、反対派は首を縦に降らんかった。それどころか奴らの中には何日も山の前から動かんもんもおった。結局は無駄になってしまったが…」
「工事が始まったの?」
「ああ、村人は皆近づかんように言われたよ。何台もの重機が山に向かって行くんをわしも覚えとる」
「じゃあ、祠は壊されちゃったの?」
「ああ、粉々にな。そして、みんな死んだ」
「…でもその手の話、聞いたことあるなぁ。村人の忠告を聞かずに祠とかを壊して工事に関わった人が不幸になるってやつ。ほんとにそんなことあるんだ」
「いんや、違うぞ。死んだのは業者の連中じゃない。反対してた奴らだ」
「は?何で?その人たちは祠を守ってたんでしょ?」
「…もしかするとあれは、祀られていたというより、閉じ込められていたのかもなぁ」
触らぬ神に祟りなし、そう言ってじいちゃんはこの話を締めた。
作者千月
村人が