短編2
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銀杏の木

公園の一角にある

お気に入りの場所

団地の裏手だが陽の当たる

ちょっと手狭な小さな公園

遊具も滑り台と パンダらしき幼児の乗り物ぐらいしかない

寂れた公園は静かで心地よい

公園には銀杏の木が数本植えられている

夏の眩しい光を吸い秋にはいっぱいの実をつける

やがてそこいら中 芳しい香りを放ち

金色の実を撒き散らす、自分という存在を主張するかの様に...

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一夏の恋が終わった...

彼女とは、海辺で出会い

俺たちはその日のうちに

ごく自然に結ばれた。

休日には前日から

彼女の部屋に転がり込んだ。

時には

朝から何処へも出かけず

お互いの身体を貪る様に

情事にふける日も...

車をとばして

何処へともなくドライブしたり

飽きることなく過ごした日々も...

言葉で確かめ合うよりも 確かなもの

俺たちは繋がっていたはずだ。

しかし、そんな 2人の関係は

彼女からのメールの一言で

呆気なく終わりをつげた。

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恋に落ちたわけじゃない

ただ、身体の相性が良かった。

その辺の女と違い詮索することも束縛することもしない女だった。

「一言、これから行くよ」

そうメールを入れれば

「待ってるね ❤️」とすぐに返信が来た。

付き合おうとは言わなかった。

愛してると囁いたわけでもない。

お前が好きだ!そう感じる事も無いままに当たり前に2人で過ごした。

(主張先から彼が帰って来るからもう会わない)とメールが来た。

もう 会わない...?

俺に会えないではなく

もう、会わないと...

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俺は ?...

愛を語ることもなかった。

彼女は聞いてこなかった。

ただ2人で居ることが心地よかった。

ただ ...

そこにいれば良かった。

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もうすっかりご無沙汰になっていた公園

ベンチは変わらずそこにある...

彼女と過ごす間にはここに来ることなど無かった

ベンチの後ろには大きな銀杏の雌木

が植えられて居る

俺のお気に入りの場所

銀杏は夏の終わりに秋の訪れと共に実をつける、芳しい香りをあたりに放ち

秋には 鮮やかな金色の葉で色ずく

銀杏の木は主張しているようだ

近所迷惑なこの匂いは

私はここよ

そう告げるように...

ここにいるわと、まるで彼女が

叫んででもいるかの様に...

この芳しい・に・お・い・が

ベンチの後ろから

土の中から 叫んでる...

私は...

こ.こ.よ. と...

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