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中編3
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七不思議にまつわる

これは、私が通っていた高校に細々と伝わっている七不思議の話。

・・・もとい、七不思議にまつわる話です。

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正面玄関を入って、突き当たりの壁、

いわば学校の「顔」とでもいうべき場所なのに、妙に薄暗くて、よそよそしい空気が溜まっているところ、

そこに、「昭和~年寄贈」と足元に書かれた、大きな姿見が飾られていました。

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そしてその姿見は、どこにでもありそうな不思議によって飾られていました。

「四時四十四分、この鏡に映った者は、向こうの世界へ引き摺り込まれる」

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この話は、恐らくいまから三十年以上前のことかと思われます。

文化祭だったか、学校行事の準備の為に居残っていたあるクラスの生徒達が、夕暮れどきにその鏡の前で作業していた折、「そういえば」と、誰かが言い出したそうです。

「あの七不思議の鏡って、これのことだろ?」

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ちょうどふさわしい時刻が近づきつつあり、そして、どこのクラスにでもいそうなお調子者、仮にここではAとしておきます、

そのAがふざけて、午後四時四十四分、

そのときに、鏡に自らを映して、あまつさえ手を触れてみせました。

すると、粘性の液体のように鏡面がたわむや、Aの全身はするんと中へ吸い込まれたのでした。

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目の当たりにしたクラスメイト達が、呆気に取られて声も出ない一瞬があり、

そしてAは、何事もなかったように、鏡の前に立っていました。

鏡面をコツコツ敲きながら、「ホラ、何にもない」と薄笑いをしているAに対して、

「いま、鏡に吸い込まれなかったか」などと、クラスメイト達は聞くことができなかったそうです。

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それから、Aの様子は、

とりたてて何も変わりませんでした。

例えば、ひとりごとをぶつぶつ言うようになったとか、

野良猫を虐めるようになったとか、

急によく分からない部活を立ち上げたりだとか、

そんなことはありませんでした。

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しかし鏡の一件以来、クラスメイト達はAに対して、得体の知れない感じや、薄気味悪さを覚えるようになって、

次第にAは、クラスの中で孤立していきました。

それまでは、輪の中心にいるような明るい性格で、しかもその性格は何ら変わってはいないはずなのに。

周囲の突然の変化に、Aは戸惑う様子を見せていたそうです。

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それから何ヶ月か過ぎて、クラスの中でAが息を潜めるのに慣れてしまった頃、

修学旅行の班を決めるという、ひとつの厄介事が降り掛かりました。

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その際、ついこの間まで仲の良かった、いつも行動を共にしていたような数人から、見えないもののように扱われたAは、

突然、彼らに掴み掛かり、殴り倒して、救急車が呼ばれる騒ぎとなりました。

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Aは停学になり、それから学校に一度も顔を出さないまま、自主退学しました。

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クラスメイト達は、

「ああ、やっぱり。あんなことするなんて、Aはあのとき、鏡の向こうの何かと入れ替わってしまっていたに違いない」

そう思って、みんなホッとしたんだそうです。

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