地方の実家に戻った友人(♂)が出張で東京に来たので、神楽坂で一緒に飲んだ。
神楽坂は友人が以前住んでいて、趣味の仲間と集った 想い出の場所だ。
この日も終電を気にせず飲めるようにと、近くのビジネスホテルに宿を取り 遅くまで飲んだ。
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常宿のビジネスホテルで いつもはツインを予約してくれるのだが、その日は セミダブルの部屋しか空いてなく、
「大丈夫?」と聞かれたが、昔馴染みの気心知れた友人だったので「大丈夫よ!」と快諾した。
ビジネスホテルの部屋に入ると、日本酒をたらふく飲んだ友人は 早々に寝てしまった。
私はシャワーを浴びて 友人の隣の寝床に入り込んだ。
しかし寝付けない。
何度も寝返りをうって 眠ろうと目を閉じていた。
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music:2
ふと 気配がし
目を開けて薄暗い部屋を見回す。
すると、隣で寝ている友人の頭側の壁から 何やら黒い靄のようなものが見えた。
その黒い靄は 次第に壁の中から突き出た人の上半身となり
頭とおぼしき部分が 隣で寝ている友人の顔を覗き込んでいる。
私は咄嗟に
「見てはいけない!気付かれてはならない!」
と感じ、目を閉じ 眠っているふりをした。
その黒い靄の上半身は 私の顔も覗き込んでいるようだった。
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ふと、気配が消えた。
私は恐る恐る目を開けると、そこには何もなく 友人のイビキだけが響いている。
「あぁ、怖かった…。朝になったら友人に話そう!」
そう思い、寝返りをうって仰向けになった。
私は普段 側臥位で眠るので、もう一度体の向きを変えようとした。
が…動かない‼
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music:3
金縛りだ!体が全く動かせない!
いつもは、金縛りになる予兆と云うか、耳鳴りや引き込まれるような感覚があって 金縛り状態になるのだが、突然の金縛りに 気が動転する!
「さっきの黒い奴か!?」
怖いので目をぎゅっと閉じ 必死に手を動かそうともがき、声を出して友人に助けを呼ぼうと試みる。
「あぅあぅ」言ってる自分の呻き声が聞こえる‼
怖い!怖い‼
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その時、自分の唇に何かが当たる感触がした。
グミ?ゴムの塊?の様な 温かくも冷たくもない物が唇を塞ぐ。
啄むように唇に何かが押しつけられる。
「ん?キスされてる!?」
隣の友人か!? いや、友人のイビキが聞こえて来る。
友人じゃない‼
次に 両胸の乳首辺りに感触が…!!
両掌で円を描くように動いている!
「ん?胸 触られてる!?」
友人か!? いや、隣からイビキが聞こえて来る。
友人じゃない‼
「何なんだ!?」
だんだん 怖さより腹が立ってきて
「人の体をまさぐってんじゃねぇ‼ぶん殴ってやる‼」
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右手の拳を握りしめ この不埒な奴に 拳を叩き込んでやるイメージで
「ぶん殴ってやる!ぶん殴ってやる‼」と
必死に叫ぼうとし 力任せに右手を振り上げようとした。
気配が 突然消えた。
力一杯振り上げた右手が 虚空に つき上がっていた。
起き上がり、肩で息をする。
「何だったんだ…お化けか?夢か?」
隣では友人が スースーと安らかな寝息をたてていた。
私は誰にも、この一件を話せないでいる。
夢かもしれないし、お化けだったとしても 不埒なコトをされただなんて 恥ずかしくて言えない。
作者薄墨桜