ねぇ、、怖い体験って人生で1度や2度は誰しもがあると思うんだ。
けどさ、心霊的な怖い体験っていったらどうだろう?
生まれてから死ぬまでお化けなんか信じない人は心霊体験なんかせずにその人生をまっとうするだろうし、はなから幽霊なんて信じてないんだから心霊体験そのものを否定してしまうかもしれない。
そういう否定する人は、トンネルの入り口に髪の長い白い着物を着た女が立っていたとしても、生きてる人だ! とか見間違いだろう!と否定から入ってしまい、目の前で起きた現象を何か自分の都合の良いように処理してしまう。
わたしもそうした幽霊否定派の人間でした。
だから10数年前に体験したあの出来事が未だに何なのか、それを理論整然と説明することは出来ないでしょう。
1つだけ言っておきたいのは、わたしの体験した話は
紛れもない事実で現実では解明できない何か悍ましい力がこの世にはあるのだとそう認識せざる負えません。
当時わたしは大学生でした。
やりたいことも特になく空虚な毎日を只只、もてあますように「暇だなぁ何かいいことないかなあ。」とつぶやいては悪戯に日々を浪費していました。
時に出会い系の掲示板に投稿しては、暇つぶしの相手を探して一晩限りの相手だったり、はたまた恋愛に発展したりと性に関しては奔放な(今にして思えば軽率な )だったと記憶しています。
それはスタービーチという当時の若者たちが利用していた無料の出会い系サイトに暇だから遊びに行こうよ!と投稿した時の出来事です。
無料の出会い系なので冷やかしや悪戯的な返信が数多く来る中、1件のメールがわたしの目を惹きました。
【はじめまして(=^・^=)】
こんにちは、こういったサイトをするのは初めてなので、なんていったらいいかわかりませんが此方も暇でよかったら車でドライブにでも行きたいなあなんて(笑)
僕は22歳の大学生で免許は取り立てです。
興味があったら返事ください。
なんとなく歳が近くて同じ学生だったということもあり、22歳の彼からきたメールに返信しました。
メールのやりとりをしているうちに同じ大学の4回生だということ、住んでいるアパートも同じ最寄り駅から近いということもあって、会おうという流れになりました。
今のご時世だとネットで知り合うのは当たり前みたいになっていますが、それはSNSの普及した現在で素性もある程度わかることが前提ですが、当時はmixiやモバゲーといった初期のSNSはまだ出始めたばかりで、スタービーチというのはどちらかというと素性も全く分からない相手と出会うのが前提であり今考えると、どうしてわたしはその日のうちに彼と会ってしまったのか、今になって後悔しています。
待ち合わせは2人のアパートから近い最寄り駅で夕方に駅のロータリーに黒いライフで迎えにいくから着いたらメールして欲しいといわれていました。
わたしは駅に着くなり、彼にメールすると5分くらいしてから駅のロータリーに軽自動車に乗った彼がやって来ました。
「はじめましてー待たせちゃった?」
メールをしていた印象とは違い彼は眼鏡をかけていて見た目は真面目そうな青年でした。
痩せ型で白いシャツにジーンズというシンプルな服装。
一見社会人にも見えなく無いけど笑った顔はまだ何処か学生の風貌を感じさせてくれました。
「ドライブだけだよね?」
わたしは彼の車に乗り込むと一応確認のつもりで聞きました。
以前ドライブだけと言っておきながら嫌がるわたしを無理やりラブホテルに連れ込んで強姦しようとした男がいたからでした。
「も もちろん会ったばかりで変なとこ行こうとは思わないよ。」
少し動揺したように彼は言いましたが、真面目そうな外見から彼を信用して助手席のシートベルトを嵌めました。
彼とのドライブは当たり障りのないもので、彼は自分の名前をコウイチと名乗っていました。
コウイチとのドライブは市内から郊外やがて隣の市町村へと移り、いつの間にか夜になっていました。
「コウイチさん大丈夫?運転疲れてない?」
かれこれ3時間以上運転している彼を気づかいわたしは聞きました。
「大丈夫だよ!楽しいしさ、それよりこの辺に有名な心霊スポットがあるんだけど行ってみない?」
唐突に彼がそう切り出してきたので、わたしは少し不安もありましたが、本来幽霊やら妖怪だのは信じていない質なので、
「いいけど危なくないの?」と彼に聞き返しました。
心霊スポットは朽ち果てた廃墟や不良や暴走族のたまり場になってるという話をどこかで聞いたことがあったからです。
コウイチは
「たぶん大丈夫、この先にある峠でそこの峠の途中に供養堂っていう誰がいつ建てたのかわからない建物があるんだ。」
さっきまでの雰囲気とは違い妙に神妙な面持ちでコウイチは話しだしました。
「その供養堂ってのはね、お寺や神社なんかで供養出来なかったいわく付きのモノをひっそり所持者がそこに置きにくる。」
わたしの背すじがぞくりと怖気るのがわかりました。
普段から幽霊なぞ信じないと思っていても妙に彼が神妙な顔で声色を変えて話すからだとその時は思いました。
「だから供養堂には供養できなかったモノの念が渦巻いている。中には怨念が強すぎて行っただけでもその影響を受けるかもしれないって話さ。」
コウイチはそう言うとアクセルを強く踏み、無言になりました。
時間は夜の9時を回っていました。
いったいどのくらいの距離を走ったのでしょう。
ぐねぐねした峠のヘアピンカーブを抜け、道は車がやっと1台通れるような細い道でした。
「もうすぐ着くよ。ダッシュボードに懐中電灯があるから取ってほしい。」
彼に言われるままダッシュボードを明け懐中電灯を取り出すと車はいつのまにか小さな開けた場所に停車しており、車のライトが照らす先には濃い闇がひろがる、けもの道が続いていました。
「さあ行こう。」
コウイチが車を降りると私も懐中電灯を照らし彼の後に続きました。
「この道を行けば供養堂が見えてくるはずだ。」
懐中電灯の光に照らされた獣道は薄暗く、時折何か野生動物の鳴き声が遠くから聴こえていました。
わたしはそれが何故か赤ん坊の泣き声のように聞こえて全身に鳥肌が立ってしまいました。
しばらく歩いていると懐中電灯の光が暗く不気味にそびえる建物をうつしだしました。
「着いたよ。ここだ。」
コウイチがわたしの耳元でそう囁きました。
彼の生暖かい息が耳に当たり、悪寒が走ったのと同時にそれは聴こえてきました。
不気味な雰囲気の御堂から、
くすくす くすくす
何か幼い少女の笑い声のようなもの。
静寂
「やっと連れてきてくれたのね」
今度ははっきりと供養堂の中からその声は聴こえました。
わたしは腰が竦んで動けなくなりました。
全身が痺れたような感覚。
これが得体の知れないものと遭遇した時の恐怖。
気がつくとコウイチが供養堂の入り口の閂を外し中を開けていました。
懐中電灯が中を照らし、わたしははっきりとこの目で見ました。
子どもくらいの背丈をした人形がこちらを見据えてにこりと微笑んでいます。
口元は動いていないのに
「わたしの器」とはっきりと耳に聴こえてくるのです。
次の瞬間コウイチがわたしの首を思い切り締めていました。
懐中電灯を落としわたしは地面に倒れました。
抵抗出来ない力で首を締められたわたしは、次第に顔が赤黒く変色し、意識が無くなりました。
その後で供養堂の人形から小さな魂のようなものが女の口に入ると無言で女は起き上がり、コウイチと供養堂を後にしました。
その後、その女がどうなったかも俺が何故そんな行動をとっていたかもわからない。
その当時の俺はどうかしていたんだ。
毎日のように心霊スポットを巡り、取り憑かれたように心霊体験を欲していた。
供養堂を知ったのもその頃だった。
御堂にいる人形を見た時頭の中に声が響いたんだ。
「器がほしい」って
自分の意志とは無関係に行動していたよ。
俺はその後、自殺未遂を起こして大学を中退。
色々な病院にかかったが症状は一向に改善せず、ある霊能者から俺に憑いてる何かを払ってもらうまで自分のことをあまり覚えていないんだ。
この話を投稿したのは俺コウイチだ。
俺が連れていった女は今どこにいて何をしているか全くわからない。
ただ1つ言えるのはその女は既に人間じゃない。
作者MIKAMI RYUWA