俺は売れない週刊誌の記者で、名前は都城(みやこのじょう)という。
ここのとこは、ろくなスクープも無い、落ち目の記者だ。
ある日、アパートの郵便受けにチラシが入っていた。
『恨み晴らします』
(?)
必殺・仕○人か?
なになに…。
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『どんな恨みも晴らします。
呪い全般請け負い。
DV、浮気、いじめ、逮捕されていない殺人犯、あらゆる恨みに対応。』
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『プチ不幸から呪殺※まで。
相談無料、呪い3000円~。
呪術師・深淵 滋郎。
呪い専門 呪い屋 slow。
※呪いによる殺人は合法です。』
…。
何だこれは。
怪しい。
怪し過ぎるだろ、これ。
新手の詐欺かよ。
引っ掛かるヤツなんているのか?
しかも、店名スローって、呪い(のろい)と鈍い(のろい)をかけてんのか。
馬鹿馬鹿しい。
チラシはそのままゴミ箱に直行した。
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数日後、あのチラシの呪い屋はSNSで話題になっていた。
呪いを依頼したら本当に相手が不幸になったとか、大怪我をしたとか、実際に死んだなんて話もでていた。
まあ、匿名で書き込んでいるものばかりだからな。
フェイクニュースだろうと気にもしていなかったのだが…。
一つだけ気になったのは、呪いを依頼した人物が事前にSNSで予告していて、その相手が後日実際に亡くなったというものだ。
死亡したのは警察官で、偽装事故による殺人の可能性もあるとして捜査もされたらしいが、結局は偶然の事故として処理された。
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「おい、都城」
「何すか?編集長」
「この呪い屋、取材してこい」
「はぁ!?いやいや、何でこんなもん」
「文句言うな、こんなんもそんなんも無い!嫌ならやめちまえ!」
(くっそ、パワハラじゃねぇか)
しぶしぶ呪い屋に電話する。
(どうせ取材拒否だろうな…)
中年らしき男性が電話に出た。
「はい、呪い屋slowです。」
「週刊紙の取材なんですが…」
「え?取材?ああ、良いよ、謝礼も出るよね?」
「いや、そういうのはちょっと…」
「そうか、まぁ良いよ。宣伝になるからな」
あっさりと取材許可がおりた。
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深淵は四十代後半くらい、中肉中背の何処にでも居そうなオッサンだ。
想像していたのと違い、スーツ姿で身なりは小綺麗で、マンションの一画にある事務所も立派だ。
「深淵さん、呪いの依頼は1日どのくらい来るんですか?」
「だいたい、日に2~3件だな」
「依頼者の年齢や性別は?」
「老若男女問わないが、若い女性が多いかな」
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「依頼の内容は?」
深淵が、電子タバコをふかしながら答える。
「まあ、色々だ」
「報酬は三千円からですか?呪いの種類は?」
「つまづいて足を挫く、事故で骨折するとかさ。呪いの重さで料金は変わる」
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「呪い殺すのは?」
「一人目は一律100万、二人目は1000万、三人目からは一億だ」
(?)
「なぜそんな価格設定なんですか?」
「どんな人間にも殺したいヤツはいるもんだ、100万なら、貧乏人でも死ぬ気になれば稼げるだろ。そういう人達の為さ、一種の救済措置だ、慈善事業さ。有り難いだろ?
二人目から上がるのは、本当に殺す相手がそいつでいいか見極めさせる為だ。後になって、やっぱりアイツも、気に入らないからコイツも、なんて頼まれたんじゃキリが無いからなあ」
(馬鹿かと思ったが意外と考えてるんだな)
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「成功報酬型ですか?」
「全て前払いだ」
「成功しなかった場合は?詐欺行為だというお話も出でいますが?」
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「都城さんよ、あんたは占いが外れたら返金しろと言うのか?だいたい、呪いで死んでも依頼者が『あれは偶然の事故だ』と言い張ればそれまでだ、金を払わない。
目に見えないもんは信じなきゃ意味がないんだ。信じられないなら依頼しなければ良いだけだ。もっとも、私の呪いは100%成功するがね」
(大した自信だな)
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「チラシにあったけど、捕まっていない殺人犯なんて、どうやって特定を」
「犯人に繋がるものがあれば何でも、名前や写真、DNAなどが残っているものとかだ。まるきり情報が無いのは無理だな」
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「呪いによる殺人は合法だと言うのは?」
「クククッ、あれは言い過ぎたなあ。あちこちから抗議やら、厳重注意を受けたよ。その分話題になったけどな、良い宣伝だろ」
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少し苛ついてきた。
「殺人は犯罪ですよね?」
「そうだなあ。だが依頼を受けて呪い殺したところで、死亡と呪いの因果関係は立証されない。検察は立件する事は出来ないさ。だから合法なんだよ。倫理的にNGでも、法には触れないだろ」
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「都城さんにも殺したい人間が居るんじゃないか?」
(一瞬、パワハラ上司の顔が浮かんだが、馬鹿な考えはすぐに消えた)
「いえ、今日は貴重なお話、ありがとうございました。」
「いい記事にしてくれよ」
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(いい記事も何も、記事になんかなるかよ。こりゃボツだな。)
帰り際、若い女性が入ってきた。
帽子を目深に被っている。
(この女性も依頼者か?…)
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結局、記事にはならなかったが…
この取材の三日後に深淵は死亡した。
事故死だった。
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わたしは行川響子(なめかわきょうこ)
夫は警察官だったが、先日亡くなった。
偶然の事故…そう思っていたが、SNSに夫の事を書き込まれているのを見つけた。
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『呪い屋に依頼して始末した』
夫が亡くなる数日前から書き込みがあり、呪い屋に依頼したところから書かれていた。
そんな馬鹿なこと…と思ったが、夫の事がやけに詳しく書いてあり気にかかった。
匿名だった為、書き込み主は特定出来なかったが呪い屋はすぐにわかった。
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何度か呪い屋に相談と称して足を運んだ。
100万円さえ払えば誰でも殺すと豪語していた。
呪い屋の深淵が電子タバコを吸っていたので、深淵が出したゴミの中から吸い殻を回収し、細かく砕き、袋に入れて持って行った。
店に入る時に他の男とすれ違ったが、あの男も依頼者だろうか。
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深淵に、「殺人犯に繋がるものです」と言い、分からないように砕いた吸い殻を入れた袋と、現金で100万円を渡し呪いを依頼した。
…その三日後、深淵は死んだ。
報道では、線路へ飛び込み、電車に轢かれての自殺との事だったが、あの男が自殺するとは思えない。
呪いの力は本当だったようだ。
少しは夫の無念を晴らせただろうか。
「人を呪わば穴二つ…。」
作者悠々人