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中編5
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呪い屋。

俺は売れない週刊誌の記者で、名前は都城(みやこのじょう)という。

ここのとこは、ろくなスクープも無い、落ち目の記者だ。

ある日、アパートの郵便受けにチラシが入っていた。

『恨み晴らします』

(?)

必殺・仕○人か?

なになに…。

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『どんな恨みも晴らします。

呪い全般請け負い。

DV、浮気、いじめ、逮捕されていない殺人犯、あらゆる恨みに対応。』

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『プチ不幸から呪殺※まで。

相談無料、呪い3000円~。

呪術師・深淵 滋郎。

呪い専門 呪い屋 slow。

※呪いによる殺人は合法です。』

…。

何だこれは。

怪しい。

怪し過ぎるだろ、これ。

新手の詐欺かよ。

引っ掛かるヤツなんているのか?

しかも、店名スローって、呪い(のろい)と鈍い(のろい)をかけてんのか。

馬鹿馬鹿しい。

チラシはそのままゴミ箱に直行した。

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数日後、あのチラシの呪い屋はSNSで話題になっていた。

呪いを依頼したら本当に相手が不幸になったとか、大怪我をしたとか、実際に死んだなんて話もでていた。

まあ、匿名で書き込んでいるものばかりだからな。

フェイクニュースだろうと気にもしていなかったのだが…。

一つだけ気になったのは、呪いを依頼した人物が事前にSNSで予告していて、その相手が後日実際に亡くなったというものだ。

死亡したのは警察官で、偽装事故による殺人の可能性もあるとして捜査もされたらしいが、結局は偶然の事故として処理された。

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「おい、都城」

「何すか?編集長」

「この呪い屋、取材してこい」

「はぁ!?いやいや、何でこんなもん」

「文句言うな、こんなんもそんなんも無い!嫌ならやめちまえ!」

(くっそ、パワハラじゃねぇか)

しぶしぶ呪い屋に電話する。

(どうせ取材拒否だろうな…)

中年らしき男性が電話に出た。

「はい、呪い屋slowです。」

「週刊紙の取材なんですが…」

「え?取材?ああ、良いよ、謝礼も出るよね?」

「いや、そういうのはちょっと…」

「そうか、まぁ良いよ。宣伝になるからな」

あっさりと取材許可がおりた。

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深淵は四十代後半くらい、中肉中背の何処にでも居そうなオッサンだ。

想像していたのと違い、スーツ姿で身なりは小綺麗で、マンションの一画にある事務所も立派だ。

「深淵さん、呪いの依頼は1日どのくらい来るんですか?」

「だいたい、日に2~3件だな」

「依頼者の年齢や性別は?」

「老若男女問わないが、若い女性が多いかな」

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「依頼の内容は?」

深淵が、電子タバコをふかしながら答える。

「まあ、色々だ」

「報酬は三千円からですか?呪いの種類は?」

「つまづいて足を挫く、事故で骨折するとかさ。呪いの重さで料金は変わる」

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「呪い殺すのは?」

「一人目は一律100万、二人目は1000万、三人目からは一億だ」

(?)

「なぜそんな価格設定なんですか?」

「どんな人間にも殺したいヤツはいるもんだ、100万なら、貧乏人でも死ぬ気になれば稼げるだろ。そういう人達の為さ、一種の救済措置だ、慈善事業さ。有り難いだろ?

二人目から上がるのは、本当に殺す相手がそいつでいいか見極めさせる為だ。後になって、やっぱりアイツも、気に入らないからコイツも、なんて頼まれたんじゃキリが無いからなあ」

(馬鹿かと思ったが意外と考えてるんだな)

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「成功報酬型ですか?」

「全て前払いだ」

「成功しなかった場合は?詐欺行為だというお話も出でいますが?」

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「都城さんよ、あんたは占いが外れたら返金しろと言うのか?だいたい、呪いで死んでも依頼者が『あれは偶然の事故だ』と言い張ればそれまでだ、金を払わない。

目に見えないもんは信じなきゃ意味がないんだ。信じられないなら依頼しなければ良いだけだ。もっとも、私の呪いは100%成功するがね」

(大した自信だな)

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「チラシにあったけど、捕まっていない殺人犯なんて、どうやって特定を」

「犯人に繋がるものがあれば何でも、名前や写真、DNAなどが残っているものとかだ。まるきり情報が無いのは無理だな」

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「呪いによる殺人は合法だと言うのは?」

「クククッ、あれは言い過ぎたなあ。あちこちから抗議やら、厳重注意を受けたよ。その分話題になったけどな、良い宣伝だろ」

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少し苛ついてきた。

「殺人は犯罪ですよね?」

「そうだなあ。だが依頼を受けて呪い殺したところで、死亡と呪いの因果関係は立証されない。検察は立件する事は出来ないさ。だから合法なんだよ。倫理的にNGでも、法には触れないだろ」

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「都城さんにも殺したい人間が居るんじゃないか?」

(一瞬、パワハラ上司の顔が浮かんだが、馬鹿な考えはすぐに消えた)

「いえ、今日は貴重なお話、ありがとうございました。」

「いい記事にしてくれよ」

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(いい記事も何も、記事になんかなるかよ。こりゃボツだな。)

帰り際、若い女性が入ってきた。

帽子を目深に被っている。

(この女性も依頼者か?…)

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結局、記事にはならなかったが…

この取材の三日後に深淵は死亡した。

事故死だった。

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わたしは行川響子(なめかわきょうこ)

夫は警察官だったが、先日亡くなった。

偶然の事故…そう思っていたが、SNSに夫の事を書き込まれているのを見つけた。

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『呪い屋に依頼して始末した』

夫が亡くなる数日前から書き込みがあり、呪い屋に依頼したところから書かれていた。

そんな馬鹿なこと…と思ったが、夫の事がやけに詳しく書いてあり気にかかった。

匿名だった為、書き込み主は特定出来なかったが呪い屋はすぐにわかった。

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何度か呪い屋に相談と称して足を運んだ。

100万円さえ払えば誰でも殺すと豪語していた。

呪い屋の深淵が電子タバコを吸っていたので、深淵が出したゴミの中から吸い殻を回収し、細かく砕き、袋に入れて持って行った。

店に入る時に他の男とすれ違ったが、あの男も依頼者だろうか。

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深淵に、「殺人犯に繋がるものです」と言い、分からないように砕いた吸い殻を入れた袋と、現金で100万円を渡し呪いを依頼した。

…その三日後、深淵は死んだ。

報道では、線路へ飛び込み、電車に轢かれての自殺との事だったが、あの男が自殺するとは思えない。

呪いの力は本当だったようだ。

少しは夫の無念を晴らせただろうか。

「人を呪わば穴二つ…。」

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