中編4
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病院の怪談。

「鎧塚先生!」

「どうした?」

「508号室の患者さんが急変です!」

私が前日に執刀した患者だ…。

容態が急変し、手を尽くしたがそのまま亡くなった。

前日の手術は簡単な手術なものだったが、完全な医療ミスだ。

人手不足による激務での疲れ…いや、そんなものは言い訳にもならない…。

命は一つだ、救われるはずの命を私は奪った。

病院側は隠蔽しようとしたが、隠しきれるはずもなく、世間に知れる事になった。

自分と同じ、まだ40代半ばの彼の人生を奪ってしまったのは私だ…。

罪悪感に苛まれる日々、周囲の冷たい視線。

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その頃からだ、心霊騒ぎが起きたのは…、いや、病院では珍しい話では無いのだが。

中年男性の霊が夜な夜な現れるという。

若い女性看護師達が噂話をしている。

「ねえ、聞いた?また出たらしいよ、幽霊」

「マジ?私、今日夜勤なんだけど、夜間巡視行きたくないなぁ」

「いい加減にしなさい、患者さんが聞いたら不安になるわ」看護師長の佐々木が叱責する。

「『看護』とは手と目と護るということ。患者を良く見て、手助けをして、護る仕事よ。それを忘れないで。夜間巡視が嫌なら私が代わります」

「すみません…そんなつもりじゃ…」

「まあ…あんな事が有った後だから、不安になるのも分かるわ。夜間巡視は私が代わりに行きます」

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あれ以来、同僚も看護師も、私への対応がすっかり変わってしまった。

私と目を合わそうともしない…。

仕方の無いことだ。

それだけの事をしたんだ。

佐々木看護師は最も親しくしていた女性看護師だ。

誤解の無いように言うが、男女の関係では無い。

彼女は良くサポートしてくれていた。

常に冷静で聡明な彼女は、患者からも慕われ、医師の信頼も厚く、まだ30代という若さで看護師長に抜擢されたのだ。

彼女の仕事ぶりは素晴らしかった、信頼のおける人物だったし、彼女もまた信頼してくれていた。

その彼女さえも私を無視している…。

他の看護師達が部屋から出ていき二人きりになった。

「鎧塚先生…何故あんな事を…どうして」

うつ向き呟く彼女。

仕方ない…それほどの事をしてしまったのだ。

もう、かける声も無い…。

ここにはもう、私の居場所など無いのかも知れない。

病室を回診しても、誰も彼も、私と口を聞いてくれない。

唯一、変わらずに接してくれたのは小学三年生の陸くんだった。

小児がんで、両親には余命宣告されていた…。

だが、今はそんな事を思わせないくらい元気だ。

「見てみて!絵を描いたんだ。父さんと母さん、それと妹の!」

病室には若い看護師も居たが、他の患者の点滴を代えるのに忙しいのか、陸くんの声に気づいても居ないようだ。

(佐々木看護師の言った事を理解しているのだろうか?患者と向き合う姿勢が感じられない。いや、私にはそんな事を言う資格も無いが…)

陸くんに声をかける。

「凄いじゃないか!上手だね、将来は有名画家だな」

嬉しそうに頷く。

(嘘をついた…。)

絵は確かに上手だったが、画家にはなれない。

それに、家族の絵が本当に似ているのか分からなかった。

小児がんは、昔に比べれば治らない病気では無いが、陸くんは発見が遅れたのもあり既にステージⅣ(進行した状態)であり回復の見込みが無かった。

そして、彼の両親はずっと見舞いにも来ていない。

どんな顔だったか…もう思い出せない程に。

ご両親の言い分はこうだった…。

「弱っていく子供の姿を見ていられない…辛い、自分達がいても何も出来ない、幼い妹の世話で手が離せない」

その気持ちも分かるが、せめて傍にいてあげて欲しかった。

彼は私と同じ…孤独だ。

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夜の病院は不気味だ、長年勤めていてもそれは変わらない。

しかし、何もすることが無い私は、夜間に病室を見て回った。

普段はそんな事はしないが、今は他にする事も無い。

それに幽霊騒ぎも気になっていた。

気がつくとあの病室に立っていた。

『508号室』

恐る恐る中に入る…。

(何だ、やっぱり何も無いじゃないか。)

今は他の患者が普通に眠っている。

カラカラ…病室の開く音がする。

一瞬どきっとしたが、そこに居たのは佐々木看護師だった。

「佐々木くん、お疲れ様。」

…。

扉を開けた姿勢のまま硬直している。

薄暗い中でも彼女の顔が青ざめ、表情がこわばっているのが分かる。

(何か居るのか!?)

彼女の視線の先、自分の後ろを見るが、私には何も見えない。

「佐々木くん、どうした、大丈夫か?」

慌てて近寄る。

「こ、来ないで!」

彼女には何か見えているようだ。

いつも冷静な彼女からは想像できないくらい狼狽(うろた)えている。

「しっかりしなさい!」

「いやぁーーーー!」

shake

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「どうして!?鎧塚先生!あなたは死んだはずなのに!」

(何を言ってるんだ?私が…??)

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死んだ…?

shake

そうだ…。

私は死んでいた。

医療ミスでの周囲の視線、世間の批判、あの患者への罪悪感に耐えられなくなり、私は自殺していた。

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病院の怪談の…

幽霊の正体は…

私だったのだ。

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