僕は大学に仁木くんと言う友達がいる。
仁木くんは霊感はあるが、特に霊能力は持っていないと言っている。しかしコミュ力が高く、そんな話が広がっても友人は多くいた。
ある日いつもの様に仁木くんの所に相談が来た。
同じサークルの小塚先輩からだ。このサークルには珍しく明るい性格で、SNSでも良くバエと言われる写真をあげていた。
小塚先輩は最近不運な事が立て続けに起こっているらしい。靭帯を切ったり、彼女に振られたりと。
僕は正直、運が悪いだけで仁木くんに相談するって、小塚先輩は仁木くんを占い師か何かと勘違いしているのではないか?と心の中で小馬鹿にしていた。
仁木くんは「分かりました。ただ俺は、小塚先輩が考えすぎなだけだと思うんですよ。でも、どうしてもって事なら俺にスマホを1日預けてくれませんか?もちろんイタズラはしませんので、ロックをちゃんと解いてですよ?」と言った。
僕は仁木くんの表情から答えは見えているのではないか?と思った。
小塚先輩はすぐにロックを外し、仁木くんにスマホを渡した。
仁木くんは「とりあえず明日の22時に学校の隣の居酒屋で待ってますわー」と言い、僕に早く来いと手で合図を送りながら、早足でその場を去って行った。
仁木くんの家に着くと、「晩飯作ってくれ!とりあえずラザニアな!」と僕に言い、パソコンとスマホを見ては電話をしたりと、忙しそうに何かをしていた。
僕は晩御飯を作りながら、ただ答えを待っていた。
晩御飯を作り終え、テーブルに持って行くと、仁木くんは「サンキュー!」と言い、急いでラザニアを食べ始めた。
僕はテレビを見ながらダラダラと食べていると、「早く!早く!待たせてんだから!」と急かしてきた。
僕は「こんな熱いのすぐに食べれるわけないだろ!」と少し怒り気味に言った後ある疑問が生まれた。
(誰を待たせているんだ?)そんな風に思いながら僕は必死にラザニアを食べた。
仁木くんは「よーし!出発!」と言い僕を車に乗せた。
仁木くんの下手くそな運転に揺られながら隣の県に向かった。
そして、山?の麓に着き、車を停めると僕にメリケンサックとフルフェイスのヘルメットを渡して来た。仁木くんは仁木くんで、フルフェイスのヘルメットを着用しながら、金属バットを腰に差し、ポケットにスタンガンを入れ、「死ぬかもしれないから、気をつけろ。あとここからはコレを使って話す。絶対に小声で話せ」と小声で話してきた。
ヘルメットの中にはマイク付きイヤホンが備え付けられていた。
僕は「流石ツーリング趣味なだけあって良いヘルメット持ってるなぁ」心の声が漏れた。
そんな僕でも時間と場所で察してしまった。
山道をしばらく歩き獣道に入ると、仁木くんは小声で「ストップ」と言った。遠くの木に何か刺さっているのが見えた。
僕の悪い予想は当たっていた。
そこで仁木くんは、リュックからカメラを取り出し起動した、1時間ほど経った。パーカー姿の男が歩いてきた。
男はキョロキョロと辺りを見回した後鞄から、よく見るアレを取り出し、アレを刺した。
しかし、僕は彼に恐怖心は抱かなかった。だって、そんな状況を目にしている仁木くんがずっと笑いを堪えているのを僕は見てしまったからだ。
この状況を見て、笑いを堪えている仁木くんの方が怖かった。30分ほど経ち、パーカーの男は逃げる様に山道を降っていった。
彼が去ってから1時間ほど経つと、小さい声で「行くぞ」と仁木くんが呟いた。
僕らは辺りを警戒しながら原くんの車に乗り、仁木くんの家に戻った。
仁木くんの家に着き、布団を引き僕らは深い眠りについた。
起きた頃には夕方で僕は軽いパニックになっていた。授業をサボるつもりが無かったためである。
21時頃になり、ダラダラと家を出て、目的地へと向かった。そして席に着き先輩を待った。少し遅れて小塚先輩がやって来た。
小塚先輩の顔はとても腫れており、僕は「大丈夫ですか!?」と思わず大声を上げてしまった。
どうやらのここに来るまでの道中で知らない人間に絡まれ、殴られてしまったらしい。
仁木くんは小塚先輩に「スマホ返しますねぇ〜」と言いジュースを何食わぬ顔で飲んでいた。
小塚先輩は「で!何が分かった?」と焦り気味に言った。
仁木くんは「先輩、これを知ると先輩は不運から抜け出せます。でもその代わり大切な人と別れる事になります。それでもいいなら、全てを見せます」と言った。
小塚先輩は暫く黙りながらお酒を飲んでいた。そして意を決し「覚悟はする。頼む!どんな結果になってでも良いから教えてくれ」と頭を下げながら言った。
仁木くんはカメラを取り出し、小塚先輩に映像を見せた。
先輩は「嘘だろ」と小声で呟き泣き始めた。僕らは終電ギリギリまで先輩を慰め、僕と仁木くんは歩いて原くんの家に帰った。
まぁやはりと言うか、妥当と言うか。犯人は小塚先輩の友達だった。
そこで僕は仁木くんに答えを求めた。「今回の疑問何個かあるんだけどさ、まぁ先ずは待ち人ってのはあの犯人だろ?」と言うと、仁木くんは笑いながら「正解!」と言った。
次に僕は疑問をぶつけた。「あの電話の主って青森のあの人?あと、何であそこで笑ってたの?」と。
原くんは「電話の主は正解!で、笑ってた理由はあの人が言った事がそのまんま当てはまってたから、予想通り過ぎて笑っちゃったんだよ!」と笑いながら言った。
続けて「先ずね、ああいう儀式ってのはちゃんとした方法じゃないと効果を発揮しないんだよ。でさ、滅茶苦茶な方法だから中途半端な効果しか生まないんだよ。昨日顔を集中的にやってたよね?で本来なら、死んでるか最低でも顔の原型留めてないんだよ。でも顔が腫れた程度で終わっちゃったしね。まぁ流石にアレだけやればあのくらい腫れてもしょうがないよね。」
僕は「彼女と別れたってのは何で?」と仁木くんに尋ねた。
仁木くんは「それはホントに偶然。でも偶然がそれを気づかせてくれた。彼女さんに感謝だね。あっ元か。」と笑いながら言った。
しかし神妙な顔をして「でも、いくら中途半端で滅茶苦茶な方法でもやり続けられるとホントに取り返しもつかない結果になったかもしれない」と仁木くんは言った。
そして仁木くんは「でね、まぁ良く聞くけど、その儀式の最中を人に見られると〜ってあるじゃん?」と言った。
その後は何んとなく僕でも想像はできた。
犯人特定の方法はとても簡単で、先輩の連絡した2日間の履歴から人を絞り、SNSを調べたらしい。そこで犯人は「星が綺麗!」なんて頭の悪い内容と写真を仁木くんにはバレバレの時間に投稿しており、すぐにピンと来たらしい。
仁木くんは「朱に交われば赤くなる。まぁ承認欲求の塊だからあの景色は誰でも載せたくなるよね」と笑っていった。
二つの点から場所の特定は容易だった。
一つは同じ先輩と同じ中学卒業という情報。もう一つはSNSの情報から移動手段を持っていない事が分かったため。また、細かい儀式場は人が侵入し形跡を探したら、全く隠すことも無く形跡を残していたため、山道を歩いている途中ですぐ分かったらしい。
僕が声を出そうとすると仁木くんは「あの手の輩はしつこいからね。毎日飽きもせずやってたんだろうよ」と先に言った。
仁木くんは犯人の連絡先を全て先輩のスマホから消し、その後どうなったから分からないようにした。
先輩もわざわざ彼を探さないであろうし、探さないで欲しい。「人を呪わば穴二つ。中途半端なものでも返ってくる時は、大きくリターンされる」そう呟いた仁木くんの顔はさっきまでと違い苦い顔をしていた。
作者滝沢 椿