有名な噂話…
人間の子供達で語り継がれる有名な話…
色々なバリエーションがあるが、あたしゃの餌係をしてくれていた学生が語ったの噂話…
わたしゃの記憶にも薄く残る思い出…
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この時代の人間達は飢えていた…
昔から日本人は色々な場所で飢えていたが、この時代は日本全体が飢えていて日本全体が危険であった…
あたしゃの生涯でもトップクラスに死を間近に感じ続けた時代であり餌係も捜しにくい時代であった…
………
……
…
人間歴1945年2月…
あたしゃはフラフラしていた…
「お腹すいたにゃ~…お腹がペコペコだにゃ~…」
人間以外の動物は食べる為に生きるし、食べる為に殺す…
皆…お腹ペコペコなのに勝った負けたや『鬼畜米英』とか『欲しがりません勝つまでは』とかお腹空かせてまでしなきゃいけない事なのか?
あたしゃには本当に理解できない…
「あ~ここ10年位…人間に頼りすぎたにゃ…まさか餌係がいない処か食べる物がここまで無くなるとは…人間恐ろしいですにゃ!!」
にゃ~
にゃ~
にゃ~
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「猫ちゃんどうしたの?」
わたしゃに突然話かけてくる少女…
「お腹すいてるの?」
にゃ~…『私は当たり前だよ』の意味をこめて鳴き声をかえす。
「そうだよね…お腹すいてるよね………
私もお腹すいたなー」
少女は痩せていた…
あたしゃの毛並み以上に血色も悪い…
「猫ちゃんね…この前…華子ちゃんのお父さんが死んじゃったの…」
少女の話に興味は無かったが…要約するとこのような話であった。
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約5ヶ月程前に『赤紙』と呼ばれる手紙がきて華子のお父さんは戦場に旅立った…
周りの人々が『万歳』とか『おめでとうございます』とか持て囃されていた…
華子も何だか嬉しくなって騒いだ…なのに…
お父さんとお母さんは…
泣いていた…
最近では見た事もない豪華な夕飯を食べながら…
泣いていた…
華子も悲しくなって泣いた…
そして…昨日…お父さんが戦死した…
お母さんが華子にお父さん死んじゃったって…
虚ろな目で…
華子…これから…どうしようか?
…
…
…
そして…今日の朝…
お母さんも動かなくなった…
台所の屋根からロープでぶら下がって…
華子…ごめんね…って…
手紙が…
「猫ちゃん…華子どうしたらいいかな?…どうしたら良いのかな?」
…
…
…
一時間位…あたしゃは華子と一緒にいた…
華子の話を聞いていた…
あたしゃの身体を撫でながら…
華子は…
「学校…行かなきゃ…」
バイバイ…
…
…
…
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2日後…華子の学校は無くなっていた…
2日前の昼…華子と別れてから2時間後に『飛行機』と呼ばれる鉄の鳥が燃やしていった…
鉄の卵を落として…燃やしていった…
らしい…
街は全て焼け野はらとなっていて、ヨダレを垂らしたお婆さんが『オノレベイエイユルサンゾ…』と念仏を唱えるようにキチガイのように走り去るのを見た…
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お父さんもお母さんもいなくなった…
華子は猫ちゃんとお別れした後、学校に行った…
悲しそうな顔をした先生はこれを持って今日は帰りなさい…と
『餡のたっぷりついた…ぼた餅』をくれた…
家の前では人だかりできていて、ご近所のおばさんがお母さんの身体をお布団に寝かしていた…
小さな声で『なんで?とか…華子ちゃんは?とか』聞こえてきたけど良くは聞こえない…
一人の夜は怖い…
ぼた餅を食べて…幸せだけど…一人は寂しい…
お父さんの声…お母さんの声が聞こえる。
華子のお誕生日に買ってくれた『赤いワンピース』
お母さんとお揃いのワンピース…
「華子…『赤いワンピース』を着て貴女もいらっしゃい…おしゃれをして華子もいらっしゃい…」
お父さんとお母さんの声が聞こえる…
華子は一人が寂しい…
お父さんとお母さんの声に従って…
『赤いワンピース』精一杯のおしゃれをして…
お父さんとお母さんの声がする方へ…
学校があった場所へ…
大きな木の下で…
家族3人で楽しくイキテイキタイ…
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華子と別れてから20年…
あたしゃはあの時…華子が異界へ踏み込むのを黙って見送った…
後悔が無いわけではない…
ただ、華子が家族と再び暮らす事のできる世界…
嬉しそうな華子の笑顔…
あたしゃには止める事はできなかった…
…
…
…
人はしぶとい…
焼かれた街を復興し学校も建てなおした。
あたしゃも生き残った…
そして、華子を見送った小学校で新しい餌係を見つけてすごしている…
………
……
…
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そんな小学校の餌係から聞いた噂…
夜の学校…誰もいない学校で…
『華子ちゃん…遊びましょ?』
と、三階・二階・一階と呟く…
そして、最後に学校のシンボルである大木の前で…
『華子ちゃん…遊びましょう!』
と、心の底から願うと…
赤い夕闇のような世界で華子ちゃんと華子ちゃんの両親と遊ぶ事ができる。
らしい…
この噂は馬鹿にされながらも70年たっても根強く残る噂…七不思議の1つとして語り継がれる事になる。
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あたしゃは餌係達の噂を聞きながら…
人間を拒む異界で…大木の下…家族3人で幸せそうに散歩をしてる華子の姿を眺めていた…
私が現世で見送った華子の姿を思いだす…
しかし、餌係が持ってきたご飯を食べていたら…
華子の事は頭の隅に追いやられ忘れていってしまった。
作者まー-3
猫シリーズ第2話です。
小学校での猫の名前は『ぶち』です。
異界に行った華子とも何度か再会していますが、
華子からは最後まで『猫ちゃん』としか呼ばれませんでした。
という裏設定です。