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中編5
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気にしない事と、気に留めない事は違う。

意味を成さない事に対して気に留めない、即ち心に留めない事を殆どの人間が出来る。そして多くの人はその事に対しそもそも気に留めていないため、気にする必要がないのだ。

でもボクはみんなと同じじゃない。

意味を成さない事、ボクはその事さえも具に取り零しなく気に留めてしまうため、気にしないようにせざるを得ないのだ。

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「悪いな、遅くなっちゃって 」

バツが悪い様子でトモダチが待ち合わせ場所に現れた。

「あ、大丈夫。大丈夫だよ。久々だね、まだ時間はあるからゆっくりいこうか」

ボクは彼に答え、予定通り二人で目的地に向かう。

学生時代からのトモダチは今では就職していて上手くいっているみたいだが、ボクは大学を卒業しても就職先が見つからず、アルバイトで食いつなぐ毎日。

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「彼女さんとは順調なの? 」

「あー順調だよ。そっちは? 彼女出来た? 」

「えーと、まだだね。えへへ。あ、着いたよ」

ボクはそう答えながらも、目的地の映画館に到着したことに意識が切り替わる。

平日の映画館は人もまばらなため、良い席を取りやすいという期待を持ち、ボクは月に一度の楽しみである映画鑑賞に心躍らせていた。

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「折角平日休みが取れたから、山に行きたかったけどなー まあこんなに暑くなるとかえって行かなくて良かったかも」

「そうだよ。それに貴重な平日休みに相応しい作品だと思うよ。あ、ボクにとっては平日の休みは貴重じゃないけどね」

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山好きのトモダチの誘いを強引に映画に誘導したが、正当性が得られたことに胸を撫で下ろし、はやる気持ちを抑えつつ受付を済ませる。

ボクらは早速館内に入り、ボクは通路側を右にみた端の座席、トモダチはボクの左隣の座席に二人腰を下ろす。

いつもの座席を確保できたことに安堵しているボクを、訝しげに見つめるトモダチ。

場内は観客が座席の三分の一もいなかったがボクは気にすることなく、これが一番の贅沢なんだとトモダチに自慢気に話していると、映画の上映が開始される。

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映画の内容は、シュチュエーションスリラーというジャンルだ。

登山を楽しむ人たちが、突然の濃霧に襲われたまたま見つけた山荘に逃げ込む。山荘に逃げ込んだのは男女数名で、ここから彼ら達の命懸けのサバイバルが繰り広げられる。

夢中で映画に見入っていると不意に誰かの視線を感じ周りを見回すが、暗闇の中疎らに座席に着席する人影しか見えない。

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首を傾げながら再び映画に集中すると、また視線を感じたが、今度は気にしないようにした。

視界の端に小さな白い光を捉え、そこに目線を移すと同時に、場内のスクリーンが一際輝きを増し無意識のうちにスクリーンに視点が戻ってしまう。映画は霧の景色をひたすら映していて、場内を幾らか明るく照らす。

映画が次のシーンを映し出すと同時に、ボクの右側に誰かの気配と物凄く強い視線を感じる。

ゆっくりと、恐る恐る右側を向く。

その瞬間、目の前が真っ暗になりボクの意識も暗闇に漂う。

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ふと気がつくと、自分の身体が横になっている。ベットの上、自宅アパートの部屋の匂い、ボクは帰宅してベットで寝ていた様だった。

ただ視界は一面の闇。

部屋の中には光を発する物が何もなく、枕元を探りスマートフォンを手に取ると、ディスプレイは深夜2時を映し出す。

映画を観ていて、途中から意識がなくなった?

夢でも見ていた気分で暫くボンヤリと画面を眺めていたが、ハッと我に帰り上体を起こし慌ててトモダチに電話をする。

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数コールの後、通話が繋がった。

「….もしもし? どうした、こんな時間に? 」

「あ、えーとごめん! あのさ、今日映画行ったよね? 」

「行ったよ。あー! そういやその後呑みに行ったの覚えてないな? 酷く酔っていたからな」

「え? そうなの? うう…. 全然覚えてない」

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その事実を知って急に頭痛と不快感がボクを襲うが、映画の途中からの記憶はすっぽりと抜けたままだ。

ボクはこれ以上は記憶の糸口を掴めないと判断し、トモダチとの電話を切った。

暗闇の中、呆然としながらも記憶を探ると、妙なイメージが頭に浮かぶ。

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(私の場所はここ! 覚えておいてね)

昔付き合っていた彼女の言葉。ボクの唯一の恋愛経験でもある。

彼女はボクの右側にいることを好み、歩く時も並んで座る時も常に右側にいて、いつの間にかボクもそれに慣れ当たり前になっていた。

彼女が交通事故で亡くなった後も、ボクは常に右側に人が並ぶのを拒んでいた。それがトモダチでも歩く時はボクが左側、映画館で座る時もわざとボクは右側に通路がある端の席を選ぶ。

そんな拘りを通すうちに、いつしか右側から人もいないのに気配や視線を感じる様になった。

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彼女の亡霊か….いや、違う。

他人から見ても異常であることは充分承知しているが、それでも違うんだ。

彼女の優しい眼差しのそれとは明らかに異なる、恨みに満ちたもの。そして禍々しくも確かに現実に存在するかのような気配。

誰だ?

だれだ?

ダレダ?

頭の中でぐるぐると同じ質問を繰り返し、その意味すら崩壊するほど永遠と繰り返す。

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「許さない」

右側から、至近距離から声がして心臓が跳ね上がる程の驚きと、一瞬でフラッシュバックする記憶。

彼女の葬儀に参列した際、彼女の親友の女性と挨拶を交わした。交わしたと言うよりボクが一方的に挨拶を渡し、その女性は鋭い眼つきでボクを刺す様に見つめるだけ。その日からことごとくその女性と鉢合わせるようになるが、彼女はいつも同じ表情でボクを見つめる。

やがてボクはその女性の存在を“気にしない”ようにしていた。

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あの独特な表情。

無表情だが、目を見開きボクを戒める様な貌。

映画館での暗闇に見た小さな白い光は、前の座席から振り返る、ショートボブの目を見開く女性の瞳がスクリーンの光に反射して怪しく輝くものだった。

通路に立ち、間近でボクの顔を除き込みながら通り過ぎる女性の姿と眼光を思い出す。

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ボクが何をしたと言うんだ。ボクだって被害者なのに。少し酒を呑んで車を運転し彼女とドライブしていただけで、事故を起こし彼女は死んだ。

それをしつこく嗅ぎまわり、事あるごとにあの眼でボクを見つめる。

あの時だってそうだ。

本当のことを話すと言い、あの女性を連れ出しありったけの力を込めて首を締め上げてやったあの時。

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「許さない」

あいつが最期に放った言葉。

許して欲しいだなんて思わない。

だから気にしない。

ああ、喉が渇いた。

いつもの様に酒を煽り夜中に起きて、思い出すことと言えばあの女の憎まれ口だ。

ボクはベットから降りて横たわる女を跨いで台所へ行き、電気を付け水道水を一気に飲み干すと、ビニールとガムテープを巻きつけ細長い物体と化した女をもう一度跨いでベットへ戻る。そして室温18度の部屋で冬布団に包まり、硬く目を閉じいつもの言葉を唱え眠りについた。

気にしない、気にしない、気にしない….

Concrete
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漢字がむずかしくてよめません。

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