中編3
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入ってはいけない道

これは私が子どもの頃に体験した話です。

私の母の実家は岐阜県の某所で、市街地の端にあり、山林のすぐ近くにありました。

夏休みになると、毎年の様に祖母の家に数週間滞在しておりました。

その間は、弟と一緒に川に行ったり林で虫をとる毎日でした。

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私たちは幼い頃から、祖母から一つ釘を刺されていることがありました。

それは、家から10分ほど歩いた所にある小道に枝分かれしたところがあるのですが、右の山林側の道には行ってはいけないというものでした。

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誰でも少し「怖いな。」と感じる、舗装が途切れて砂利道になっていくところです。

祖母は、戦前、その道の奥には精神病院があり、当時は化学物質の人体実験などが行われていた場所だから、恐ろしい場所で、近寄ってはいけないと聞いていました。

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中学生1年生になった夏、私はその道へ入ってしまいました。

その日も弟と外で遊んで、夕焼けが綺麗な時間でした。

弟はトイレに行きたいと、走って先に帰っていきました。

私は少し、夕焼けを見たくて、ゆっくりと歩いていました。

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ちょうどその時、いつも避けている道の目の前にいました。

なんだか、いつもの怖い道も美しく見えました。

そして少し寂しそうにも見えました。

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私は怖いと感じませんでした。

一歩ずつ、なんとなく入っていきました。

たしかに、うっそうとしていて、空気が湿っているように感じられました。

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人の気配は無く、手入れもされていない道を進んでいきました。

また、枝分かれした道に着きました。

ほとんど120度の角度の分かれ道でした。

私はまた右に進んでみました。

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程なくして、開けた場所に辿り着きました。

「あぁ。おばあちゃんの言っていた病院って、ここにあったんだな。」

私はそう思いました。

コンクリートでできた、建物の土台の跡のようなものが、奥に見えました。

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暗くなってきたので、もう帰ろうと思って踵を返そうとしたその時です。

「行かないで・・・。」

私にそう呼びかける、少女の声が聞えたように思いました。

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私の心拍数は一気に上がりました。

「やだやだやだ...!!」

恐怖心が原因でそのような気配がしたと思いつつも、もう早くこの場を去らなければと思いました。

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振り返って数歩進んだとき、さっき歩いてきたときにはそこに無かった、古いボロボロの靴の様なものが1足落ちていました。

私は完全に混乱状態にありました。

「急いで逃げないと!!」

それだけが頭にありました。

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あっという間にあたりはかなり暗くなっていて、冷や汗が本当にたくさん出てきました。

分かれ道に差し掛かり、

「こっちが来た道、だよね..!」

と、急いで曲がって走りました。

しかし、1分ほど走って、ハッと気付きました。

「私、道、間違えてる...!」

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その時、堪えていた涙が溢れてきました。

戻ろうとしたとき、奥の方で何かが動いたのが見えた気がしました。

私は身動きすらとれませんでした。

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奥から、白い、長くて黒いボサボサの髪をした少女らしき人影が向かってくるように見えました。

「だめ・・・。私と遊ぼう・・・。ふふふ・・・。」

離れているのにはっきりと頭に響く少女の声。

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私は元の道に引き返そうと進みましたが、前からも恐ろしいこの世の者ではない人影たちが迫ってきていました。

「行かないで・・・。」

たくさんの人の声とうめき声が頭の中で響いて、もう私は動けなくなり、しゃがみ込みました。

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泣きながら言葉にならない声で助けを求めていたその時、

人間に抱擁されました。

母でした。

私は必死で母に抱きつき、泣きました。

その時にはもう、鳴り響く声は消えていました。

私は母と一緒に、そのまま家に帰りました。

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その後聞いた話ですが、弟だけが帰ってきて、私がいないことに気付いた祖母は、急いで私を探すように母に言ったそうです。

弟と別れてから、あの道に入ってしまったのではないか、と祖母は勘付いたそうです。

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母は、分かれ道に入り、120度の分岐で、新しい足跡が、向こうから引き返し、間違った道へ進んでいくことを見て、私を見つけられたそうです。

心から恐怖を感じている私を見た母親も、ただ事ではないと思ったそうです。

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これは私にとって一生忘れられない体験です。

あれから私は、「あの道」には一歩も立ち入ってはいません。

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