「こういう話をしてると、お化けが集まってくるんだよね。」
この手の話はヨシオは得意らしく、主導権を完全に握っていた。
『ええぇ!』
女子の声は震えている。
その夜、部室に忍び込んだ僕たちは怪談話に盛り上がっていた。
学校は夏休みでお盆に入ったこともあり、僕達以外は誰もいない。
そこにいたのは僕と、同じ水泳部のヨシオ、同じくマネージャーのアヤとミユキ。
ヨシオは幼稚園からの同級生で、将来の夢はドラゴンボールを集めること、と真剣に語る変わったヤツ。
僕はアヤが、ヨシオはミユキの事が好きだった。
肝試しや怪談話を男子が女子にしたがる理由は、相手を怖がらせて自分を頼りがいのある男に見せるためのアピールにすぎない。
女子のリアクションを見て得意気にヨシオは話を続ける。
「僕の家系はみんな霊能力を持っててね。除霊もできるんだ。」
『ほんとっ?除霊もできるの?』
「うん。今日はお札を用意してあるよ。」
『おふだ?』
「そう。昨日ね、体が重いって言ったら、じいちゃんがくれたんだ。
…ちなみにさっきから、プールに何か感じるんだけど、みんなは気付いてた?」
ヨシオは窓の外を指差した。
部室の窓からは、月明かりに照らされ、不気味に浮かび上がるプールが見える。
『あのプール、よく事故があるんだよね。ずっと昔、溺れて死んじゃった生徒がいて、それから何回も。』
「そう。幽霊のせいだと思う。だから除霊しようと思うんだ。」
ヨシオは半袖シャツを脱ぎ始めた。
『やめようよ。あぶないって。』
3人で必死に止めようとしたが、ヨシオは聞こうとしない。
「じいちゃんのお札の結界で守られてるから、大丈夫だって。」
と、親指を立てて見せるヨシオ。
眼鏡が、月明かりにキラリと光る。
中二のくせに、ビキニパンツを履いた彼は、ちょっぴり大人に見えた。
「じゃ、行ってくる!」
その直後だった。
振り返って、部室のドアを開けたヨシオの背中を見た僕達3人は驚愕した…。
ヨシオの背中にはりついていたモノ、それは……
『お札』という名の
『湿布』二枚
おぉ、友よ…
本気なのか?
その装備でプールに潜む魔物たちに立ち向かうのか?
そんな僕達を無視して、消毒漕に腰まで浸かるヨシオ。
戦闘準備に入っているようだ。
どうみても、風呂に浸かる老人にか見えない。
僕達は、いろんな意味で不安げにヨシオを見守っていた。
「でてこーい!悪霊共!姿を見せないなら、こっちから行くぞ!」
飛び込み台の側に立ったヨシオは大きく深呼吸を始めた。
そうだ!
お札はなくても、切り札がある!
彼は悪霊を除霊できる技を習得しているのだ。
ヨシオはなにかブツブツ言いながら、足を肩幅に開き、両手を高く上げた。
緊張した尻には、パンツが完全に食い込んでいる。
回りの田んぼで鳴いている蛙の声が、一段と大きくなった気がした。
「ハァーーーッ!!!」
ヨシオの叫び声と同時に、辺りが閃光に包まれた…。
『コラー!こんな時間に何やっとるかぁ! 』
プールのライトが全面を照らしたと同時に、先生の怒鳴り声。
「イテーよ、先生。」
腕を掴まれ、先生に引きずられていくヨシオ。
ふと振り向き、ヨシオは僕を見て笑顔で親指を立てた。
…そっか、本当は僕の事、見えていたんだね。
いつまでも、ここにいちゃダメだよね。
いい加減、成仏しなきゃね…。
ヨシオ
ありがとな!
こうして、僕の夏とヨシオの初恋は終わった。
怖い話投稿:ホラーテラー ソウさん
作者怖話