過去のことは記憶が曖昧
過去形が多いのはご愛嬌
ということで、
長いです。
物心ついた頃には、私には『彼ら』の姿が見えていた。
人の形をとるもの、獣の姿をしているもの、かろうじて生き物と分かるもの、この世の者ではない、おぞましくて恐ろしいもの。
病弱で伏せりがちだった母の代わりに育ててくれたのは祖父母だった。(父は私が生まれる前に死んでしまっている。名前すら知らない)
祖父母はたまに私のことをイミコと呼んだ。そう呼ぶときは、大抵、まるで関心が無さそうに吐き捨てる。思い返せば、一度たりとも笑顔で接してくれたことはない。
まるで、煩わしいものを見るかのように。邪険に扱われていた。
ある日、母が夜中に私を起こした。ひどく狼狽した様子で、少し遠くに行くけれど、黙ってついてきてねと言う。
あぁ、ここから逃げ出せるのだと思って、頷いた。
祖父母に黙って出ていくことを、悪いとは思わなかった。
何故か、母の通院している病院の古株だという、Mさんが車を出してくれて、2時間半ほど走った先にある町まで送ってくれた。こんな時間じゃホテルもとれないだろうから、実家で少し休んでいくといいとも言ってくれた。
子供心になにかあったのだと感じて「どうしたの?」と訊ねた。
母はただやんわりと笑った。
「おじいちゃんやおばあちゃんにいやなことされたの?」と追及すると、今度は少し困った顔で笑った。
それから母と私は、故郷とは遠い辺鄙な町でひっそりと暮らしはじめた。
それから幾年か経ち、私は中学生になった。その頃、母はもうやつれ果てて、外に出る事をほとんどしくなった。私を学校に通わせるため、不憫な思いをさせないためと働いたからだ。
母がまた伏せりだして、家の中には黒い人たちであふれていた。
私はただ、まだお母さんを連れていかないでと泣くしかなかった。死期が近いのは、分かっていたから。
堪えかねて、Mさんに連絡を取った。あれから、逃げるように飛び出してから音沙汰もなかった私たちを覚えていてくれて、翌日に訪ねてきてくれた。
母を入院させる手続きもしてくれて、ようやく落ち着いた頃、重く口を開いた。
…イミコについて。そして、故郷を離れた理由。
イミコとは、忌まわしい子と書く。忌み子。
疑問に思ったのは、××家(私の苗字であり、祖父母を本家とし、分家である周囲の親戚たちを差す)の家に、障害を持つ者が多かったからだという。あるものは外傷性後遺症により介護が必要であること。不慮の事故により五体が満足でないこと。
そういえば、親類の集まりで思い当たる人物が複数いたことを思い出した。
憶測であるため、核心には触れずにMさんが疑問に思うことを口に出した。
私の結論は、「故意に障害者を作っている」だった。
何故。
故郷から逃げた理由については、なんとなく理解できた。母は、私を守るために、逃げたのだ。
何故。
その先は母に聞きなさい、と言われた。Mさんと私はあくまで他人。憶測で聞かせるにはあまりに不躾で、残酷な話だからと…。
次の日に、学校を休んでお見舞いに行った。母は浅く、速く呼吸していた。病室には、あの黒い人たちがたくさん、集まっていた。
私に気付くと母は座るよう促した。全てを悟っているようで、ただ穏やかに話してくれた。
私が育った村は、殆どが××家の血筋だった。密集して暮らすのは××家が呪われているからだという。
××家の子供には昔話のように語り継がれることだが、年配者は事実としていた。否、おそらく事実なのである。
元々霊的能力の高い××家に稀に見る能力を持った子供が生まれた。未来を読み、死者と対話し、神と見舞える子供。最初は喜んだが、やがてはおそれに変わった。
死を予言し、死者を認め、時に天候を操る。
死を宣告された家族はそれを恨み、チカラの無いものはそれをバケモノと呼んだ。
やがてそれに対する感情は憎悪に変わり、罵倒し迫害する。
堪え切れず逃げるようにくらい場所へ逃げ生き長らえたが、やがては見つかりむごい殺され方をした。
死に間際に、それは呪咀の言葉を並べた。7日野晒しにされたそれは、消えてしまった。食い千切ったであろう小指の先だけ残して。
…今でこそ隔世遺伝による奇形だと言えるが、××家は呪いを怖れて小指の短い者を障害者にしたのだ。
…そして、私もよく見なければ分からないが奇形である。
あのまま村に住んでいたら間違いなく何かされていただろう。
でも。母は言う。
私は確信している・言い伝えのそれ、彼女の生まれ変わりはあなたである、と。
黒い人たちが母を連れていって、私はひとりになった。
それから毎晩夢に視る。
罵声、痛み、あか。憎しみ、悲しみ。苦痛、絶望、怒り、憎しみ、闇、憎、憎、憎、憎
最後にわたしは自分の指を食い千切る。
怖い話投稿:ホラーテラー ロリータ℃さん
作者怖話