助けて欲しい・・・・これを見ている人・・・誰か・・・助けて下さい・・・。救ってください・・・。
先月、友人が一人自殺しました。ヤツに名前を呼ばれたからだと思うんです。
もう一人の友人が逃げ出そうとしたそいつの名前を叫んでしまったから・・・。
ヤツに気づかれるから喋るなって言われたのに・・・次は叫んだ彼かも知れません。
俺は言われた通り喋りませんでした。しかし俺達三人は贄(にえ)だったんです。
彼がもし死んだら・・・次は俺・・・誰か・・・助けて・・・頼む・・・助けて・・・
暗闇が怖い・・・・青い光が見えそうで・・・・眠れない・・・・
俺達三人は中学からの悪友で、未だにプラプラしてるダメな人間だった。
ところが英二の奴に仕事が決まり、三人で遊ぶ事ももう無くなるかもなって、俺の車で当てもなく小旅行へと出かけたのだ。
「今まで行った事の無い所へ行こう。」 言い出したのは信秋。
「じゃ~運転はお前に任せる。」って俺が運転席から降りたのがそもそもの間違いだった。
信秋ときたら「お!イイ女発見!!追跡開始!」だの「あの野郎の運転なんだ!!煽ちゃる!」など訳の解らない理由で迷走し
挙句の果て見知らぬ山道で事故り、車はオシャカ・・・おまけに携帯も圏外ときた・・・・・
三人ともかすり傷で済んだのがせめてもの幸運だった。
「正明(俺の名)どぉするよ?歩きで移動か?」 と秋信を睨みながら英二が言う。
「だな・・・ここで今まで待っても車なんて通らねぇし、道の状態見てもいつ車通ったか解らない位荒れてるし・・・なんでこんな所に入って来たんだかなぁ~信秋よ?」
「つ~か二時間ぐれぇ車で来ただろ?町まで楽に100キロ以上あんじゃねぇの?半分もいかねぇうちに夜だぞ!!明かりも無しに移動できねぇって!!」
うんざり顔の英二に今まで萎れていた信秋が
「明かり!!俺もってるってぇ!!ホラ!」 とジッポライターを取り出した瞬間、英二に殴られた。
「何やってんだお前ら!!おい見ろ!電柱が建ってるじゃん。電線もちゃんとあるし、この先に村なり集落なり在るんじゃないか?そこで電話借りよう。」
しかし、行き着いた先はどう見ても廃村だった・・・。
仕方なくここで夜を明かす事となってしまった。
ボロい家の中に入るのは危険を感じたので、村の広場らしき所に廃材を集め焚き木した。バチッバチッと大きな音をたてて火が燃えている。
とにかく夜が明けるまで動けない。三人かたまって一夜を過ごした。事故ったのは痛かったし、空腹には参ったケド楽しい夜だった。
そう・・・俺が夜を楽しめた最後のひととき・・・。
二日目に雨が降り出した。土砂降りだ。これでは移動も出来ず仕方なしに廃屋の中で雨宿りをした。
誰も喋らない・・・。と言うより『死』を薄っすらと予感した・・・。まだ二日しか経っていないのに・・・。
この平成のご時勢に大の大人が三人も飢え死にするのか?ゾッとした・・・。
極限状態になったら俺達の中の誰かが喰われるじゃないか?マイナス思考の塊だ・・・。
寒いが燃やす物がない・・・雨漏りが酷く濡れない様にするのがやっとだった。
雨は次の日の夕方までやまなかった。動けない・・・というより動く気持ちにならない・・・。 今考えると異常だった。
それはその日の夜、突然やって来た・・・。
一人の坊さんだ。着ている物は綺麗だったが足元だけが泥で汚れていた。多分ここまで歩いて来たのだ・・・。
呼びかけられるまで人が来た事すらわからない。
「お前達はここで何している?この先の事故車はお前達か?とにかくこっちへ来い。」
太いが優しい声で、俺達は助かったとノロノロと廃屋から這い出して行った。外へ出てみると月が出ていて明るく辺りを照らしていた。満月だ・・・。
「助かりました。よく俺達がわかりましたね?もうダメになるんじゃないかと思いました。済みませんが何か食べる物ありませんか?俺達2~3日前から何も食べてないんですよ・・。」
と言う俺に坊さんは、
「ここは死村だ。生きた人間はどこにいても目立つ。お前達は本当に危ない状態で、それは今も変わっておらん。恐ろしい事だが・・・贄としてここに呼ばれたんじゃろうな・・・。食い物はあるがお前達にはやれん。他に喰わせてやらねばならんヤツラが居るからの。自分が喰われるよりマシじゃろ?わしの用事が済むまで後ろで大人しくしておれよ。」
と言って例の広場まで移動した。そこには既に火が焚かれていて何かの祭壇みたいな物が造られていた。
「食いモンだ!」 祭壇のお供え物を見つけた秋信が走り寄ると「喝ッ!!」と坊さんが気合を入れる。ビクッとして秋信が立ち止まる。
「馬鹿者が、それ以上前に行くな!!ゆっくり後ろへさがって静かに見ておれ。他の二人もこっちへ来い。わしと一緒にこの中に入れ。」
と四本の杭をしめ縄みたいなヒモで囲った場所に呼び入れられた。これって結界ってやつか?寒気がした。中に入ると坊さんが喋りだした。
「この村は昔、不幸な出来事があって村人の多数が餓死したんじゃよ。今でもへんぴな場所じゃが当時は丸一日以上かけて下の町まで行かんと交流が無いような村じゃった。勿論電気も電話も無い孤立した村じゃ。異変があっても誰も気付かんかった。」
「え?俺達、電柱見つけてここまで来たんだけど・・・」
「そんなもんどこにある?よく周りを見てみい。じゃから呼ばれたと言ったんじゃよ・・・。」
改めて月明かりの中の村の様子を見てみた。
家々は潰れ草や木が屋根の部分から生えている。小さな山みたいになっていた。電柱など一本も建っていない・・・眼を疑ってしまう。
俺達が来たときには確かに古かったが、まだちゃんとした形の家が残っていたはずだ。昭和の頃に廃村になった村くらいに思っていたのだ。
呆然としていると、英二が俺の腕を掴んだ。
「正明・・・あれ・・・あれ、何だよ?」 と祭壇の方を指差す。
「???」 青い光が二つ・・・三つ・・・。
ビー玉ほどの光の玉が祭壇の食い物の所に群がっていた。
「オーブか?何だよ・・滅茶苦茶いるぞ!!」
「オーブ?何じゃそれは?あれは『餓鬼魂』(がきだま)じゃ。ここで飢え死した者達のなれの果て、地獄の亡者どもよ。わしは毎年ここへ来て『施餓鬼供養』をしとるんじゃ。もう少し来るのが遅れたら、お前等がヤツラの生贄になるところじゃったわい。おっと・・・この外へは出るなよ。喰われるぞ。」
坊さんが言っている間、オーブ(餓鬼魂)は地面に降りて行っては黒い虫みたいになって這いまわりだした。よく見ると人の形をしていた。
ボサボサの髪にギョロついた眼。痩せこけた体とそこだけ大きな腹・・・。
男も女もいた。そのうちカリカリカリと音がしだした。
お供え物が忽然と姿を消して黒い塊、牡丹餅?みたいな物が一つ 残っているだけ・・・。
みんなこいつ等が喰ってしまったんだと理解したが、幽霊が食べ物を食べるのか? 坊さんに聞くと、
「こやつらに在るのは食欲、自らの腹を満たす事だけ・・・。昔は人だったが今は妖怪みたいなもんだ。余りに強い念の為に実際に物が消える・・・。本当に喰われているんじゃよ。さて、まだ足りんじゃろう?お前たち・・・これで最後じゃ・・・。」
と言って首から下げた袋から何かを撒き始めた。
お経を唱えながら四方にまく・・・。よく見ると米みたいだった。
ザ・ザ・ザ パラ・パラ・パラ カリ・カリ・カリ ザ・ザ・ザ パラ・パラ・パラ カリ・カリ・カリ・・・・・
ヤツ等みんなが米粒を喰っている・・・が・・・無くならない。いつまでも一粒の米を喰い続けている・・・。そのうち一匹・・・一匹とまたビー玉くらいの青い光の玉になって地面へと沈んでいき、そしてあれ程あった青い光は一つも見えなくなった。
「終わったの・・・。お前等も腹は満ちんが滅多に見れぬモノを見たんじゃ・・・それで我慢せい。人は二~三日喰わんでも死にはせんわい。
ここの住人はもっと苦しんで死んだのじゃ・・・少しはアヤツ等の苦しみが解ったかの?夜が明けたら寺の者が迎えに来る。
あとほんの少しじゃ、それまでの辛抱じゃな・・・わはは・・・」
豪快に笑う坊さんに、信秋が、
「終わったんならアノ残ってる牡丹餅・・・食べてもいいんじゃねえの?」
一瞬で場が凍りついたかと思った・・・・・。
「なんじゃとっ!!どこじゃ??」 叫ぶ坊さんの顔色は蒼白だった。
「え・・・ほら・・・あれ・・・」 と指差す信秋・・・。
「なんと・・・まだ餓鬼が残っとるのか?まさか・・・・・『はぐれ』か・・・・?」 声に脅えがあった。
不安になった俺は「なんなんですか?」と聞いた。
「さっきも言ったがヤツ等は食欲だけじゃ・・・食い物を残す事はせん・・・残っていると言うことは餓鬼も残っている。餓鬼共は見た通り供養すればどんどん小さくなり、いつしか消えて無くなる。ここのヤツ等もあと五年も供養すればいなくなるはずじゃった・・・。しかし『はぐれ』とは、
毎年の供養もなく餓鬼同士が共食いをして最後に残った一匹じゃ・・・。こうなると場所にも縛られずにさ迷いだす・・・手が付けられん。
ほとんど祟り神になっているんじゃよ。」
するとまた英二が俺の腕を掴んだ。今度は震えていた・・・。無言で指差す英二・・・・。
指差す先には例の牡丹餅・・・いや、その先の暗がり・・・二つの青い光が横に二つ並んで光っていた。
動かない・・・いや微妙に左右に動いている・・・。
二匹の餓鬼魂・・・いや・・・あれは・・・眼だ・・・。青く光る二つの目玉・・・・。
バチッと焚き火の薪がはぜ崩れる・・・光の加減が狂いおぼろにソイツの姿が見えた・・・。餓鬼だ・・・さっき見た姿のまんま・・・
だが・・・大きい・・・。俺達くらいある。
そいつがしゃがんだまま、両手を地面に付けて少しずつ近づいて来る。
ヒョイと手をあげて牡丹餅を取り喰い始めた。眼はこちらを見つめたまま・・・。
あいつには俺達が見えているんだと気付いた時・・・恐怖で震えだした・・・。
すると坊さんが喋る。
「いかんな・・・あいつにお前等は呼ばれたんじゃ・・・。自分の贄だからハッキリお前達が見えておる。これはわしも年貢の納め時じゃな・・・。おい!!お前達、こっちへ来て頭を下げろ!!」
そう言うと俺達の髪の毛を一人ずつ抜いて何かモゴモゴ言いながら喰っちまった・・・。そして・・
「わしはこれから外へ出てヤツに喰われる・・・。お前達は何があっても月が隠れ、太陽が昇るまでここから出るな。そして絶対に喋るな。ここに人が居る事がバレるからの・・・。」
そう言うとさっき米を撒いた時と同じお経を唱えながら結界の外に出た・・・。
俺達三人共、坊さんを止めなかった・・・動けなかったんだ・・・恐怖で・・・
坊さん・・・ごめん・・・
『はぐれ』が、のそ・・のそ・・と坊さんに近づいて行く・・・
「グズ・・ グズ・・」と音が鳴っている。『はぐれ』が臭いを嗅いでいる音だった・・・。
坊さんが『はぐれ』と間合いをとりながら結界を離れる。鼻を鳴らしながら近づく『はぐれ』・・・
そして坊さんの腹に顔を押し付けてまた「グズ・・ グズ・・」と臭いを嗅いだ・・・・。
小便の臭いがした・・・多分、坊さんが失禁したのだ・・・。俺も漏らした・・・おそらく他の二人も・・・。
ゾブッ・・と音がして坊さんが悲鳴をあげた。
『はぐれ』が坊さんの腹を喰い破ったのだ・・・。『はぐれ』が首を左右に振った。ゾゾゾッと腸が飛び出る。口から血が溢れ出て声にならない・・・・。
2~3m先で人が喰われている・・・。ブチッ ビチャ ゴリッ 眼を閉じてじっと耐える。
なかなか収まらない音・・・。そうだヤツは三人分の肉を喰っているんだ・・・。坊さん一人、俺達三人の身代わりに・・・・。
突然、信秋が奇声をあげて結界の外へ出ようとした。限界だったのだ・・・。
「信秋ぃぃッ!!」 英二が思わず叫び取り押さえる。
『はぐれ』はチラッとこちらを見たものの、また坊さんを喰い始めた。
俺も信秋を押さえ付け後ろ向きに坊さんの喰われる音だけを聞いていた。
信秋は「ヴウゥ・・・」と唸り声を上げ続けたが暴れることはなかった。
時が流れていく・・・ゆっくり・・・ゆっくり・・・
辺りが少し明るくなり始めた頃・・・ようやくヤツの「食事」も終わった様だ・・・。
恐る恐る振り返ると、ヤツはしゃがんだまま地面をジッと見つめていた・・・坊さんの骨の欠片も服さえも残っていなかった。しかも小さな餓鬼みたいにヤツは消えない・・・。
やはり英二の声が聞こえており、俺達がここを出るのを待っているのかも知れない・・・。坊さんは言った「何があっても陽が昇るまでここから出るな・・・」
そのままの状態が続き辺りに陽が射して来た。
『はぐれ』はそのままの姿勢で薄く透明になっていく・・・。早く消えろ!!心の中で絶叫した。
青い光の玉・・・目玉だけが最後まで残った・・・ハッキリと二つ見える・・・こっちを見ているのだ・・・誰を見ているのだろうか・・・
それが完全に消える寸前・・聞こえてしまった・・・ヤツのつぶやく声・・・ハッキリと・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
すっかり明るくなった頃、若い坊さんが迎えに来た。眼が怖かったが何も言わず俺達を車まで誘導して、事故現場まで連れて行ってくれた。
しばらくすると事故処理の警察がきて現場検証が終わるとさっさと帰ってしまった。
死んだ坊さんの事は誰も聞かないし話さない・・・。
ただ町まで送ってくれた若い坊さんが、
「忘れなさい・・・そしてここにはこない事です。」と言っただけ・・・。
町に着くまであれだけ車が通らなかったのに3台の車にすれ違った。全ての車に坊主が乗っていた。
あの『はぐれ』の事は何故か話さなくても、分かっているみたいだった。
その後俺達三人は余り会う事もなくなり月日が過ぎた。
英二は就職したもののトラブルを起し、会社をクビになりまたこの町に戻ってきたという。あの時のトラウマが原因かもしれない・・・。
俺も未だに夢に見る・・・。
信秋はあれからおかしくなっって施設に入ったが、先月自殺したとの事だった。
自殺したと聞いて「ヤッパリな・・・」って思った。
食事してもすぐに吐いて痩せこけて苦しんでいたそうだ・・・・。
食べても食べても満たされない・・・ヤツみたいに・・・
ヤツは確かにこう言って消えたのだ・・・・
「のぶあき」 と・・・・・・
怖い話投稿:ホラーテラー 最後の悪魔さん
作者怖話