中編4
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かたる

△△△

悪いことは連鎖する。

くじに負けて幹事をやらされたユージが、さらに自分の言い出した買い出しじゃんけんに負けて、近くのコンビニまでパシられてる間、俺たちは無慈悲にも次の話を始めることにした。

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「怪談だけで人が死ぬなんて、バカみたいだろ? でもあるんだよ」

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大学の友達を呼び集めて、暗い部屋に閉じこもっての百物語。

簡単にするためか、そんなに話せる物語がないのか、用意されたローソクは数字よりかなり少なめだった。

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「今から話すのはもちろん怖い話だけど、絶対にビビったらダメだからな」

「なんで?」

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怖い話を聞いてビビるな、というのは無茶な要求だが、ここまでのショボい勘違い話やラジオで聞いたような作り話に比べれば、確実に悪くない前フリだ。

俺はこれから始まる話のために、足を崩して身を乗り出した。

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「この話を聞いて怖がったやつは、

連れて行かれるんだ」

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※※※

とある時代、とある場所。

人々が集まって噂話を楽しんでいると、一人の男が口を開いた。

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聞けば、恐ろしい奇譚を知っているという。

だが、それを聞いたものが恐怖してしまうと、それは現実となって人々を襲うらしい。

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決して恐れない者だけが聞くことのできる話、それを聞くために数人の男たちだけが別室に移動した。

位の高い官吏、野心に満ちた武術家、学術を信奉する若者。

いずれも怪異の存在など歯牙にもかけない、強い主義思想を持つ者たちだった。

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別室で話が始まり、人々は部屋を遠巻きに眺めながら待った。

灯が揺らめき、ぶつぶつと低く判別のつかない囁き声だけが響く。

その様子だけでも十分に不気味なものであったが、小心の者は耳をふさぎ、あるいはわざと大きな音を立てて歩き回るなどして、それぞれに囁き声の内容を理解するまいと努めた。

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どれくらい経ったろうか。

長くもあり短くも感じる奇妙な時間の後、おもむろに戸が開かれ、男たちが姿を現した。

ややぎこちない表情の者もあったが、おおむね健全な面持ちであり、おびえきった者はいなかった。

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恐れ知らずの男たちに称賛の声が浴びせられる中、集団のうちの一人が聞いてはならないものを耳にした。

子供の泣く声。

部屋の外で聞き耳を立てていた少年が、話の恐ろしさに怯えて泣き出してしまったのだ。

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ごう、と風が一吹きし、燭台の灯がいっせいに掻き消えた。

月影もない塗りつぶしたような闇、人々が困惑する中、さらに黒いなにかが別室の戸から滲み出してくる。

およそ人ではない、醜くゆがんだ音が、声の形をとった。

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恐怖したね

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誰のものとも知れない、切り裂くような悲鳴が響き渡り、そして静かになった。

屋敷から出てくる者はいなかった。

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※※※

「どう? 怖かった?」

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「その男が喋った話って?」

「それがわからないんじゃなー」

「ちょっと怖かった」

「短けえよ、もっとなんかねえの」

「いや俺はこういうの好きだよ」

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思い思いの感想が交わされる。

今のところ、皆に心底恐怖している様子は見えなかった。

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「酒買ってきたぞー」

ユージが帰ってきた。

わあと歓声があがり、飲み物をもらおうとあちこちから手が伸ばされる。

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「いやー、あいつしゃべんの上手いな」

缶チューハイを配りながら、ユージが言った。

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「ユージ聞いてたのかよ」

「途中からな、なんか入りづらくてさ、そこの外で聞いてたんだよ」

「え?」

ユージに絡んだテツが、少し表情を曇らせる。

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「マジどうやって出してたんだよ、ずっと地獄みてーな声だったぞ」

徐々に周囲のざわめきのトーンが下がっていく。

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「……お、おいユージ」

「ん?」

「どのへんから聞いてたんだよ」

「え? えーと……男たちが部屋に入ってくとか、そのへんだな」

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テツが明らかにうろたえ始めているのが、はたからでもわかった。

「おい、ユージ、お前ビビッてないよな」

「え?」

「だから! 話聞いてビビったりとかしてないよな!」

「おい、おいテツ落ち着けよ」

「てかなんだよ地獄みてーな声って、あいつ普通にしゃべってたぞ! どういうことだよ!」

何か真剣な気配を感じ取ったらしく、ユージの顔から笑みが消える。

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「いや、待てよ、確かにすげー雰囲気あったけどさ、別にビビっちゃいねえよ、このぐらい」

「……ホントか?」

「ホントだよ、所詮作り話じゃんか」

「……お、おう……うん……そうだよな……」

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少し落ち着いたテツの様子とは裏腹に、しかしユージの顔は真剣なままだ。

「てか……今の誰?」

周囲をぐるりと見回す。

「今の話、しゃべってたやつ」

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そして、

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俺と目が合った。

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「……お前?」

徐々に。

徐々に。

その眉がゆがむ。

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「……お前、だれ?」

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△△△

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どう?

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怖かった?

Concrete
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