多分皆の小学校にもあったと思う。
その七つの内容を知らなくても名前くらいは聞いたことがあると思うくらい知名度は高く、同時僕が小学生の時にも沢山の話が出回った。
「体育館のピエロ」だったり「白い石像の踊る意味」とか。
誰が流したのかあるようなないような話はそこかしこに散らばっていた。
その散らばったものを必死になって集めてはポッケに詰め込んでいたのが他でもない僕だ。
怖いことが苦手なくせに怖いもの見たさで度々誰かから聞いた怖い話を実際に試してみたりしていた。
(実際にその奇妙な事が起きるのは夜で、自分で試したのは日が登っている時間だったのでなにも起こるはずはない)
そんな中、誰かが「夜の学校に忍びこもう」といい始めたのだ。
何人かは否定的だったが、ほとんどが好奇心を捨てきらない小学生男子だったので即決でその日の夜に学校に集まることになった。
学校は夜になると校内には入れないようにしっかり施錠してあった。
だけど、その日は朝のうちから仕込んであった「鍵が閉められているかよくみないと分からない作戦」で予定通り夜にも空いていた。
そこから男子五人くらいで乗り込んだのだ。
この「七不思議」っていうものは先生たちが「夜の校内に入り込まないように脅しで作った物」だ。
そう決めていたから夜の不気味な暗さも「全部作り物として」あったからこそ乗り込めたのだ。
それから皆それぞれ「暗いから全部明かりつけたいな」「でもそれだとばれるぞ?」「やっぱり暗いって新鮮だな」とか各々の素直な意見を並べていた。
そうしてるうちに一人が「じゃあ、俺が持ってきたビデオカメラで変な現象とるぞ!だから二手に別れて七不思議をとるんだ」と。
その子は世にいう「大金持ち」で祖父がオオジヌシとかいうので昔からお金を持っているらしい。
なのでビデオカメラは三台ぐらい持ってきたし、お腹が減ったときように「カントリーマアム」も大量に持っていた(僕は貧乏だったのでカントリーマアムはお金持ちの食べるものと認識していたけど食べたことはある)。
それからじゃんけんでよよいのよいとやって三人と二人に別れた。
僕がいたのはお金持ちの子との二人組のほうだ。
そして、その二人で攻めるは北校舎の「練ってはいけない粘土」からだ。
その話は僕が兄から仕入れた怖い話だった。
それは図工室の準備室に飾ってある四角いセラミックの箱に包まれた熊の粘土細工のことで、昔にイタズラでその熊の置物を手にとって「可愛くないから」という理由で足を練って胴体に融合してしまった子供がいたらしい。
そして、そのイタズラ子供は学校を卒業する間際に病気で入院してしまったらしい。
そしてその入院した理由は足の病気にかかわるものらしく、話では退院したその子はその後車椅子で暮らしたそうだ。
お金持ちの子、タルーは(お金持ちの子は目がタレ目でそこからついたものとされるあだ名)七不思議の内容を全部聞かされてなかったのか「なにそれ超怖えぇじゃん!」
飲もうとしていた水を吐いてしまうほどの声だった。
「今回の話全部そんな感じだよ」というと「いやいや、それ絶対死ぬだろ!俺が聞いた話と全然違うぞ!?」と何に使うのかずっと気になっていたノートをパラパラめくり最後の方のページを見せてきた。
それは怖い話のまとめのようなもので、そのページには七不思議の話が書いてあり、五つくらいまとめて書いてあった。
その中に「粘土の話」という書き始めで、内容は僕が聞いた話よりもやんわりと怖い話を否定している内容だった。
「なんだよこれ。この話だと結局粘土が動いたけど人間の仕業だったって書いてあるじゃん」と指摘すると「そうだよ!だからお前から聞いた話怖すぎるだろって。」
その話をし始めてからなんか奇妙に怖くなり鳥肌が立った。その日は真夏日だったから余計に怖かった。
それでも怖い現象は撮らなければという使命感は薄れておらず、とりあえず図工室に向かった。
やはりというかなんというか、向こうの班と別れてから足音は少なくなり余計に静かな廊下が心に圧を加えてくる。
裸足でペタペタと歩くのは準備足らずで校内用の靴を持って来なかったからだ。
「それにしても静かだな」とさっきよりも何故かのんびりしている風なタルーは手を頭の後ろで組んでいる。
それをみてこちらも安心感と一人ではないという心強さが出てくる。
しばらくして立ち止まると横には既に図工準備室があった。
暗いからか距離感がつかめていなかった。
それはタルーも同じようで「こんなに近かったっけ?」という感じであった。
「ここからどうする?」
「どっかからよじ登って上から中を覗く」
「ドアとか開けとかなかったの?」とよくよく考えたら侵入口以外の「確認するための窓」を開けていなかったことが思い出された。
そこでも準備不足が露呈して「何でこんな計画がブカブカなんだよ」と言われたが僕は、何故ブカブカという比喩をしたのか気になり「ブカブカ?パンツとか?」と茶化した。
このままじゃなにも出来ないので、近くにあった脚立やら机やらを使い暫く中を撮ろうと言うことになり、近くの窓枠にカメラを置いて二人ともでカントリーマアムを食べた。
久しぶりに食べたカントリーマアム。
それは仄かに香るチョコの香りと、しっとりとけれどもしっかりある歯ごたえに満足度があるクッキーを食べたことにより、テンションを振り切ってしまったのだろう「うーまっ!」
とか回りを忘れて声を出してしまっていた。
タルーは「流石にうるさい」と僕にいうと、ノートをめくり始めた。
なんか緊張感なんかどっかにいっちゃったなぁと思い始めた頃、寄りかかっていた図工準備室の壁は微かに振動し始めた。
その後に中で誰かが歩くような音が聞こえ始めた。
「ねぇ。なんか中に誰かいない?」
ノートになにかを必死に書いていたタルーに、言ったのに彼は気づかない。
だから頭を軽くチョップした。でも頭を少し掻いたあとまたペンを走らせた。
何でそんなに集中出来るんだろって思ったけどなんかいいやと思い一人で机に登り中を覗いた。
「ねぇ、明日は晴れかな?」
突然隣から聞こえた声にびっくりして「うわぁっ!」とか上ずった声をあげた。
声は廊下に反響してまるでトンネル内にいるようだった。
声の主はタルーで、いつの間にか脚立に登っていた。
「脅かすなよ!」と言うと
「なぁ、靴って人間じゃなくても履くんだな」といい指を指した。
その指の先を目で追うと、その先では熊の粘土が革靴らしき黒い長めの靴を履いて、机の回りを歩いていた。
そして、何歩か歩く度に靴を飛ばしている。
それは決まって上を向く形でストンと床に落ちる。
靴飛ばしの「明日天気になあれ」のなかのルールでは、上を向きながら落ちた靴が意味するのは晴れである。
多分そこから考えてタルーは明日の天気が気になったのだろう。
そこまでいって一人で納得していると
「そろそろ違う不思議見るか」とタルーは言い始めた。
そろそろ30分くらいはたつであろうから、いい頃合いだろうと僕もうなずく。
それで降りる前にもう一回準備室の中を覗くと、熊の粘土細工はこちらに気づいているらしく、こちらをじっと見ていた。
気づかれたという焦りがその熊に伝わったのだろう、その熊は首を横に二、三回降ったあとに手をヒラヒラと降り始めた。
丁度「バイバイまたね」みたいな感じで。
机から降りて一息つく。
幻でも見ているのではないかという錯覚に落ち始めているのだろうか、段々この状況下が「これが普通。なにも不思議なことはない」と言われているような気になった。
タルーはもう行く準備をして「早くいこう」と歩き始めてしまった。
とりあえずカントリーマアムでも食べようとポッケにしまっていた「バニラ味」のマァムを一口で食べた。
続く
作者カユノヌユ
七不思議を題材にしたものを書こうと思ったのですが、よくよく考えたらこれは一話でまとめるのはもったいないというか、本音は収まりきらないという気持ちで中途半端に一話を止めてしまった。
「七不思議とか懐かしいな」と思いながら読んでもらえると嬉しいです。第二話に続く