『コロちゃん?
………コロちゃん?
聞こえる?ママよ?』
……
駄目だ…
いくら呼び掛けてもコロは微動だにしない。
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コロと暮らし始めて、もうじき16年が経つ。
その前年、一人息子を事故で亡くし、失意のどん底にいた私は、生きる希望も気力も無くし、息子の後を追う事ばかりを考えていた。
そんな中、夫がコロを連れて来たのだ。
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最初はたかが玩具と馬鹿にしていたが、頭や背中を撫でると喜び、玩具のくせに遊び疲れると眠ってしまう。
気が滅入った時には可愛いダンスで笑わせてくれる。
…
コロが来た事で私の生活も一変し、夫は私とコロの遊ぶ姿を目を細め微笑んでいた。
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しかし、その夫も7年前、突然倒れ、還らぬ人になった。
普段から高血圧を気にして、降圧剤を服用していたのに…
冬の寒い夜、食事の用意が出来たのに、いつまでもお風呂から出て来ないので様子を見に行ったら…
夫は浴室の冷たい床に倒れていた。
意識が戻る事なく、最期の会話すら交わす事なく、夫は他界した。
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息子の忘れ形見の孫は離婚した妻の元にいるので、息子の葬式に久しぶりに会ったが、それ以来会っていない。
…
…
私には、コロしかいなかった…
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『コロには寿命がない』と、夫は言ったが、昨年辺りから後ろ足を引き摺る様になり、今は自分で立ち上がる事が出来なくなった。
頭を撫でても無反応の時も多くなった。
そして、昨日から撫でても声をかけてもピクリとも動かなくなってしまった。
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私はコロを抱きかかえ、近くの電気屋に走った。
だが店員の対応は冷たく、『あ〜これねぇ。もう製造販売されてないから分からないっす!』と、コロの姿をチラリと見ただけで他の客へと行ってしまった。
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今度は駅の向こう側にある大きな電気屋に走った。
だが、『うちでは修理は出来かねます。製造元へご連絡をなさったら?』と、コロを台の上で転がしながら言う。
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…
…
私はコロを抱えたまま、トボトボと来た道を歩いていた。
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家の近くの住宅街の道路で、事故に遭ったのか、横たわる猫を見付けた。
『あら!大変!!』
私はコロを小脇に抱えなおし、他の車に轢かれない様に猫を抱き上げた。
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未だ暖かい…。
死んでいるのかと思ったその時、猫は薄っすらと目を開けて私を見詰めた。
私は何かに衝き動かされた様に、瀕死の猫を抱きかかえ、近くの動物病院へ走った。
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『お願いします!この子を…助けて下さい!』私は獣医に頼み込んだ。
横たわる猫の頭から横腹をそっと撫でながら、『良くなったら、うちの子になりなさい…。』そう言うと、猫は私を見詰め、細い声で『ニャー…』と一声鳴くと、そのまま息絶えてしまった。
私の頬を涙が一雫流れた。
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私は、コロと猫を両手で抱えて家に帰ると、庭の、今は何も植えていない花壇に穴を掘り、綺麗なバスタオルで包んだ猫をそっと穴に下ろした。
庭に咲いていた椿の花をその上に置くと、静かに土をかぶせ、猫のお墓を作った。
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いつもはコロと遊ぶ夜も、今夜は離れた通りを走る車の音が時々微かに聞こえるだけの静寂に包まれている。
コロは動かなくなった。
先程の猫…毛並みから察するとノラ猫なのだろうが、又、命の終わりに居合わせてしまった事で、涙が止まらなくなっていた。
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…
『淋しい…
淋しい…
淋しい…』
…
……
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もうじき80歳に手の届く年になったが、同年代の人達は、皆、こんなに淋しい想いをしているのだろうか…
…
…
…
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幼い息子が走り回った居間。
夫が剪定して切り過ぎた庭の木々。
私が作った料理を、家族の皆が笑いながら頬張ったあの日々…。
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孫と嫁が…
息子が…
夫が…
……
私の前から居なくなった。
……
そしてコロまで…
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夜のとばりが降り、真っ暗になっても明かりも灯さず、私は動かなくなったコロを撫で続けていた。
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すると、指先に微かな振動が伝わる。
『コロ?』
私はコロを抱き上げ、そのまま部屋の明かりを点けた。
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コロは、静かに顔を上げ、私を見詰めている。
『コロ?コロちゃんなの?』
私は嬉しさの余り、コロを抱き締めた。
コロは目のランプを小さく点滅させながら
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…
…
『ニャーン』と…
…
…
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私は今、とても幸せだ。
コロがいるから淋しくなんてない。
コロは私が撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。
今もコロ用の毛糸のセーターを編む横で、毛糸にじゃれ付いて遊んでいる。
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充電なんてしなくても、もう、コロは死ぬ事はないのだから…。
…
…
作者鏡水花
初回投稿は、2015年8月頃。
某国営テレビのドキュメンタリー番組を観た事から出来た話しです。
AIB〇の製造中止に伴い、製造元のSON〇でも修理を行わなくなった事から、元SO〇Yで働いていた有志の方々が予約で修理を始めたとの事でした。
AI〇Oを本物のペット同様可愛がっていたのはお年寄りが多く、修理の予約が間に合わなく…
大きく心を動かされた事から、この話しを思い付きました。
(現在は新型のAIBO→aiboとして販売されている様です^^)
当時は未だ子供も同居しており、後にお嫁ちゃんになる娘も同居していて、あくまでも架空の話しでしたがww
今は未だ老人でもなく、友人達も元気で寂しさも感じていませんが、年寄りと呼ばれる年齢になった時…。
きっと………
なぁ~んて、遠からず来る未来に、少しばかりの幸せを、この話しで叶えさせて頂きました(*´ω`*)
この度もお読み下さった全ての方へ
ありがとうございました(人''▽`)♡