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長編9
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伝えてください…

人の想いとは…

生きているうちだけ?

それとも、死して尚消える事はないのだろうか?

そんな事をふと考えてしまう切っ掛けになった。

そんな話し…。

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一昨年の暮れから昨年初めまで、私は【Nくんの怪異~樹海編~】を書く為に、頻繁にNくんに電話をしていました。(約3年近く前)

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Nくんの話す言葉を忠実にノートに書き留め、時系列がおかしくないか?

その場面を想像しながらも、どうしても理解出来ない事はその時の状況等も詳しく聞きつつ、雑談を合間に挟んでの、そんな電話でした。

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そして、それを纏めて怖話に投稿をし、Nくんに投稿が終わったと連絡をして、他にも面白い話しはないかと聞いたりと、それからも電話のやり取りは続いていました。

そんなあの日もいつもの様に電話で話しをしていた私は、話しの流れで亡くなった彼の話しをしました。

「去年の誕生日(今で言うと、一昨年の夏)に、初めて夢に出て来てくれたんだ!」と。

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……

それまでは…

どんなに願っても夢にも出て来てくれなかったのに…。

私の誕生日に日付が変わった深夜。

仰向けで寝ていると、誰かが私の左隣にいる気配。

(誰っ!?)と、思っていると、その気配は、優しく私に両手を伸ばしてギュッと抱き締めた。

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以前の天井から見下ろしていた女の件から、夜も明かりを消せず、テレビもつけっ放しで眠っていた私は、両眼だけをパッチリ開けて、仰向けの姿勢のまま視線をゆっくりと左隣にいる、私を抱き締めるモノに向けた。

そこには亡くなった彼がニッコリ笑っていたのです。

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ビックリして、すぐ様顔をそちらに向けた途端に一瞬で消えてしまったけれど、その腕の感触はいつまでも私の横腹に有って、何とも形容出来ない想いになり、1人で声を殺して泣きました。

そんな話しをすると、うーむ…と、唸りながら、Nくんは何度も同じ言葉を繰り返すのです。

「君は護られているんだよ。」と。

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だから

「誰に?ご先祖様?ww」と、笑いながら返していた私。

「君を大切に想ってくれている存在があるんだ。」と。

なぁ~んとなく、Nくんの言葉の端々から、(彼かな?父親かな?)と思ったので、単刀直入に聞いてみました。

(父が亡くなって1年少し経っていましたから)

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「何か有った?護ってくれてる人がって、彼?それとも父親?」と。

だけど、何だかモゴモゴと言葉を濁す濁す!

なので「コラッ!!何をモゴモゴ言ってる!何か有ったから、そんな意味深な言い方をして言葉を濁すんでしょ!ハッキリ言えっ!!」と、ツッコミました。

すると、重い口を開き、少しずつ話し出したNくん。

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「何回か現れてる奴なんだけどな?

オレに“〇〇(私の名前)の知り合いの方ですよね?”と聞いて来るんだ。

見た事もない男なんだけどな。

(例えば゛花子“なのに、多くの人には゛花ちゃん”と呼ばれる事が多いとか。そんな感じです。)

ただ、顔はぼやけてるからどんな顔だとかは言えないんだが…。

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写真でも見たら、“そうそう!こいつ!”って言えるくらいのそんな程度でしか無いから、上手くどんな顔だったかは答えられない。

そいつがオレに言うんだわ。

“伝えて下さい”とか、“心配だから”とか、“守って下さい”とか。

でも、何を伝えて欲しいのか聞いても、ボソボソ呟いてるだけで、言葉が明瞭じゃねーからわかんねーんだわ。

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ただ、ハッキリと君の名前を言ってるし、同じ名前の女友達はいねぇーから、君の事を心配してることだけは確かなんだよ。

何回か来ては、同じ事を言ってるからなぁ」と。

私をそう呼ぶのは、父親か彼しかいないので、どちらかなんだろうと思い、Nくんに聞きました。

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「身長とか体型は?写真見れば判別付くなら送ろうか?」

と聞くと

「写真は送るな!親父さんでも元彼さんでも、直接写真で確認はしたくない。

身長はオレよりは高いな。体型も痩せてもいなけりゃ太ってもいない。

マッチョまではいかないけど、ガッシリした感じかな。」

そう答えました。

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正しく…亡くなった彼。

(父はマッチョでしたが背が低かった。)

しかも、彼の話しが出た切っ掛けも、Nくんからこの話しを聞く数日前に彼の夢を見たから…。

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彼が亡くなって夢に現れたのは未だ2回。

1回目は先程書きましたが私の誕生日の夜。

2回目に見た彼は…

夢の中でしたけど、何だか凄く怒っていました。

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ピンポーンと家のインターフォンが鳴り、出るとそこには彼がいました。

ただ、その表情はいつもの和かな表情ではなく、眉間に皺を寄せて見た事もない不機嫌な顔。

私と視線を合わせず、斜め下を見る様に立っていました。

急な訪問だったので、慌てて

「今散らかってるから、ちょっとだけ待って!」と、部屋に戻った所で夢から覚めました。

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10年程の付き合いの中で、喧嘩と言う喧嘩は一度もした事もなく、あんな不機嫌な顔も見た事もなかった私は、不思議と言うか、“怒らせる事してたのかな?”なんて、何とも言えない気持ちになっていました。

そこへNくんの元へ彼らしき男が現れているなんて聞き、しかも…私に伝えて欲しい事があるなんて…。

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なので

「もし又現れたら、その時は何を伝えて下さいなのかを、しっかり聞き取って!

それでも分からなければ、聞き直して!

お願い!!」と、頼みました。

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その夜…。

又しても彼らしき人が現れたそうです。

白い靄の様なモノに包まれ、今回も同じ言葉を繰り返すだけだったそうで…。

矢張り、言葉が明瞭ではなく、何を私に伝えて欲しいのか、何が心配なのか、何を守って欲しいのかは、結局、分からなかったそう。

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Nくんからそんな話しを聞いているうちに、私の中で色々な感情が溢れてしまいました。

「なんで私に直接じゃなく、Nくんとこに行くのよ?

心配してくれるなら、私の元に現れたら良いのに…!」と…

しゃくり上げて泣いてしまいました。

Nくん、きっと困りましたよねw

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暫く、私は泣いていて、Nくんは無言でしたが、私が落ち着いて来た頃Nくん、気遣う様に

「もう大丈夫か?」と。

私は「うん。ごめん。感情的になっちゃった…。」と謝ると

「多分なぁ…きっと君や君の近くの人の元へ行ったんじゃないか?

でも、君は気付かないし、周りの誰も気付かないから、オレの所に来たんじゃないかと思うんだ。それだけ伝えたい事が有ったって事だろ?」

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「確かに…

誰かの所為で、耳だけ霊感強くなっちゃったけど、たいしたモノは視えないから…。

それでNくんとこに行ったのかな…。」

「そうなんじゃないか?」

そして、気になっていた事をNくんに話しました。

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「そう言えば、ずーっと続いてた音が、子供達が家を出て行ってからは聞こえなくなったんだよね。

誰かが玄関を開けて入って来る音。

私が1人の時だけじゃなく、子供達がいる時でもその音が聞こえてたから、お兄ちゃんがいない時はお兄ちゃんが帰って来たと思って、“お帰りー”って言うのに、いつもなら“ただいまー”って返事をするのに無視してるし、下の子と顔を見合わせて、“今、◯◯帰って来たよね?”“うん…。”って話して、玄関に行って見ても誰も居ないし、靴も無い。

玄関の鍵は閉まったまま。

長男の部屋からトイレ、お風呂場。

全部見ても誰も居ない。

最初の1年くらいはそれでも音がする度に、三男は竹刀。私は孫の手を持って見に行ってたんだけど、もう何年も経つと、その音を聞いても“又か…。”って、当たり前の音になってたの。

それが三男達が家を出た途端、ピタッとその音が止んだ。

それから1度も聞いてないんだよね?

それでね…考えてみたら、彼が亡くなってからあの音が聞こえる様になったんだ。

私は怖い話や怖い映画は好きだけど、怖い思いは苦手でヘタレだって知ってたから…。

自分でお化け屋敷に入りたいって言いながら、怖くて目を開けて歩けない私と、未だ小さかった子供とそれぞれの手を繋いで両目を瞑ったまま出口まで連れて行ってくれてたのは彼で…。

何でそんなに怖いのに好きなんだかwwって大笑いしてたんだ。

だから、私が怖い思いが嫌いなのを知ってる…。

もしかしたら、一人暮らしになって、怖がりの私を怖がらせない様に、玄関開けて帰って来るのを止めたのかな…?

あれは彼が帰って来てたのかな?」

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そう言うと、Nくん。

「オレはその彼氏さんじゃねーから“そうだ”とは言えねぇーけど、そうなのかもしれねぇな。

君の事が心配で堪らないんじゃないかとは思うよ。」と。

そこで又しても、私はブワッと涙が溢れてしまい、彼が私に伝えたい事。

心配かけさせてしまっている事。

Nくんとの電話を切ってからも、泣きながら考えていました。

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そして、その夜。

いつもの様に電気を煌々と点け、テレビも音を小さく絞ってつけたまま眠っていると、いきなり左半身に激しい痛みと痺れを感じました。

ビックリして目を覚ました私。

実は以前、両親の介護をしていた頃に脳の病気をしました。所謂、脳の血管に血栓が詰まってしまう病気。

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後遺症と呼べる様な重いものはないものの、気圧や疲れなどの影響で、日常のごく簡単な当たり前の所作もそんな時は出来なかったり、時間がかかったり。

そして、一度その病気になると繰り返す事が多く、半身麻痺や、寝た切りになってしまう事も有るのです。

尤も重い場合は、命を落とす事も…。

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そんな体験から、真っ先に頭に浮かんだのは再発。

“今度は右脳が?”

でした。

しかも、前回には感じなかった、痛みを伴う痺れ…。

未だ高齢者でもないのに、これからは半身麻痺で生きて行かなくてはいけないのか?

絶望…を感じていました。

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身体の中心から真っ二つになる様に、左側だけが痺れている。

もう、1人で起き上がる事も出来ないの?

子供達の足枷にはなりたくない。

どうしよう…。

そんな事を頭の中でぐるぐる考えていましたが、幾ら考えたって、なってしまったなら仕方ないし、ウダウダ考えたって、対処の仕様がない。

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そこで私は痺れた左手の指を動かしました。

すると、ピリピリとした感覚は有るものの指は普通に動くし、腕も上がる。

真っ直ぐ天井に向けて上げた左手で、1から10まで指を折って数え、それを何度か繰り返した後、今度は痺れた左足の膝を曲げてみました。

すると、足も痺れは有るものの、いつもと同じ様に普通に膝は曲がるし、左足を天井に向けて上げ、足の指を折ったり曲げたりしてみても、普通に出来るのです。

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“なんだったの?”と、不思議に思っていると、左側に何かの気配。

誰かが耳元で囁く様に何かを言っているんです。

顔は天井を見上げたまま、その声を拾うのですが、誰なのか、何を言ってるのかも分かりませんでした。

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「△△…くん…?」

私は彼の名前を口にしました。

そして、ゆっくりと顔を左側に向けた。

視線の端で、一瞬だけ、笑った彼の顔が見えたのに、左側に私の顔が向いた時には、そこには誰も居ず、声も聞こえなくなっていました。

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そこでやっと、彼の言いたい事が分かりました。

私は……。

本当は飲まなくてはいけない薬、飲んでいませんでした。

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一度あることは二度あるとは言いますが、病気になった切っ掛けは、他の持病の為に飲んでいた薬が血栓を作りやすいと言う副作用が有った事と、両親の介護のストレスからだったので、どちらからも解放された今は、飲まなくても大丈夫?

なんて、驕った気持ちで居たから。

もしかしたら、私の体内はヤバい事になっていたのかも…。

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早速、その日の昼間、病院に行って検査をしたところ、かなり状態が悪くなっていまして、薬を処方して頂き、又、飲み始めました。

それから、パタッとNくんの元へも私の元へも、彼は現れる事はなくなりました。

こんな自慢の1つもない私を、今でも大切に想ってくれる事には、心からの感謝。

バカな私を救ってくれて、ありがとう…と、私には視えない彼にお礼を言いました。

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我家のインコちゃん達には彼の姿が視えている様で、天井の一角をジッと見詰めている事が多くあります。

「何かいるの?」と、声を掛けると、パッと私の方を向くのですが

「もしかしたら、△△くん居るの?」と聞くと素早く顔を同じ天井の一角に向ける。

とても臆病な子ですが、特に怖がったりもせず、時々首を傾げる様にしながら何も無い空間をただ見詰めている。

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未だに彼を覚えているのかは分かりませんが、他の名前を言っても反応しないのに、彼の名前

を口にする度にそちらに顔を向けるって事は、やはり…彼がそこにいるからなのでしょうか…ねぇ…?

だとしたら、早く逝くべき場所へ行ってもらいたい気持ちと…

そんな気持ちの倍くらい、嬉しかったりもしている私です。

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