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中編4
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脇道

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いつもと同じ帰り道。

同じ風景の中、普段は気にならない脇道がフッと気になる事ってありませんか?

そんな時って多分何かが誘ってるんじゃないかな?って思うんです。

でも、その誘いに乗って進んでしまうと…

ある日サラリーマンのAさんは残業の為帰宅する頃には日付が変わっていたそうです。

一人暮らしのアパートへは最寄駅から15分程。

その日もいつもと同じ道を帰って行ったそうです。

その帰り道の途中には取り壊し予定の古い木造アパートがありました。

実はその木造アパートとフェンスで囲まれた空き地の間にある細い道を通ると数分ですが早く自宅に着く事が出来ます。

ですが、そこの道は日が暮れると非常に薄暗く、おそらく空き地の長さとほぼ変わらない150m程の短い距離のはずなのですが、通るのは少し怖かったそうです。

しかしその日はいつも以上に疲れており無意識にその脇道へ一歩足を踏み入れたそうです。

ハッと我に返り目の前を見るとまぁ何とも言えない怖い雰囲気。

これやっぱ無理だな…

と最初は思ったそうなんですが、その考えとは裏腹に何故か体はその脇道へ一歩…二歩…と進んで行ったそうです。

あれっ?と思いながらも、もういいや…と始めてその脇道から帰る事にしました。

左を向けばボロボロのアパート、右を向けば空き地。少し先がアパート側に緩くカーブしている為、抜けた先の道路の明かりも見えませんでした。

するとほんと数秒歩いた時でした。

進行方向からサァーっと生暖かい風が吹いてきて、恐怖心を煽って来たそうです。

嫌な気持ちになりながらも歩いて行くと次は地面が濡れても居ないのに

ピチャ…ピチャ…ピチャ…

まるで、水溜りの上を歩いてる様な音がし始めたそうです。

何で…?地面濡れていよな…

その場で立ち止まる彼。

経験した事ない不思議な出来事に恐怖心がピークに達し、戻ろうと後ろを振り返ったそうです。

すると、何故か振り返った先は真っ暗で、1m先も見えなかったそうです。

そんなバカな…

まだ、普段の道から入って数mしか歩いていない…

先が見えない訳がない…

彼は恐怖でその場から1歩も動く事が出来ませんでした。

すると、暗闇の奥から

ピチャ…ピチャ…ピチャ…

足音が聞こえてきたそうです。

ピチャ…ピチャ…ピチャ…

逃げなきゃダメだ…

咄嗟にそう感じた彼は溢れる恐怖心を抑え暗闇を背に走り出したそうです。

おそらく走れば数十秒で抜けられる。

必死に前だけを見て走ったそうです。

自分の足音と、何者かの足音が聞こえる中

必死に…必死に…

しかし、走っても…走っても…出口が見えてこない…

そんな…何で…助けて…

後ろの方からは

ピチャ…ピチャ…ピチャ…

と足音が一定のリズムで聞こえてきます…

恐怖と絶望の中彼はフェンスを乗り越え空き地から元の道へ戻ろうと考えました。

3m程のオレンジ色のフェンスに必死によじ登り、フェンスの頂点へ手を掛けた瞬間

ガッ…と何者かに足を掴まれました。

反射的にその方向を向いた彼が見た物は、何も無い真っ暗な地面の様なものと、そこから出てきた無数の痩せ細った手。

その手が彼の足を掴みその暗闇へ引きずり込もうとしたそうです。

やめろっ!!

彼は必死にフェンスにしがみつきました。

やめろ!!やめろー!!!!

掴んできた細い手を何とか振り払い彼はフェンスを越えたそうです。

ドクン…ドクン…ドクン…

自分の鼓動がハッキリ分かる程彼の心臓は高鳴っていました。

ハァ…ハァ…ハァ…

フェンスに跨った状態で少し自分自身を落ち着かせ、空き地の方へ降りようと下を覗いたそうです。

すると、フェンスを越えた先の地面も真っ暗でそこからは無数の手が

おいで…おいで…

と手を振っていたそうです…

そこで彼は気を失いました。

次に目覚めると彼はどこかの用水路に仰向けで倒れていたそうです。

スーツはビチョビチョに濡れ、凄く臭くなんとも言えない状態で目覚めたそうです。

ここはどこなんだ…?

彼はゆっくり立ち上がり少し歩くと目の前には見慣れた道路が出てきたそうです。

えっ…ここって…

そう、彼が普段から見ていた脇道など元々存在しなかったのです。

古びたアパートと空き地の間は深さ1m程の用水路…

彼はずっとその用水路を脇道だと思い込んでいました。

その現実を受け入れるのにかなり時間が掛かったそうですが、あの体験が何を意味していたのが、何に騙されていたのか…

未だにわからないそうです…

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