中編3
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山の研修所

music:1

友人に聞いた話。

2年ほど前の秋頃に彼の会社で研修が行われた。

この研修は3年に1回のペースで、N県の古い研修施設で行われる。

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この研修所は山の中腹にあり、周りは森に囲まれていて、コンビニまでは車で数十分という大変不便なところであった。

そのため、研修中は時間外であっても施設内で過ごすことがほとんどだった。

また、施設は大変老朽化しており、建物のあちこちにヒビや剥がれ、色褪せがあり、設備もひと時代前のものであった。

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music:1

その研修は1週間に渡って行われ、内容は主に営業研修である。

彼は大変営業の得意な人物であるため、この研修は普段の業務よりかえって有難いものだった。

午前と午後に課されるロープレの演習課題さえこなせば、後は自由時間でもあったからだ。

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music:2

研修の中頃、その日も彼は早めに課題を終わらせて、16時頃にはもう時間外に入っていた。

いつもは部屋に戻り、読書やスマホに勤しんでいるのだが、その日は何となく散歩してみたい気分になった。

その研修所はとても広く、散歩のしがいがあるものだった。

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music:2

散歩を始めてしばらくすると、ある建物が目に留まった。

それは研修所の外れにポツンとあって、ひときわ老朽化している建物であった。

小学校のような3階建の横に長い建物であり、外壁はすっかり黄ばんで所々にヒビが入っていた。

彼自身その研修所には何度も来ているが、そういえば一度も使ったことがないし、もしかすると目にもしたことない建物である。

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music:2

彼は気晴らしにそこに入ってみることにした。

そこなら一人で時間を過ごせそうだったからだ。

建物隅のドアから入ると、鍵もかかっておらずあっさりと入れた。

中は廊下の両端に階段があり、教室の様な部屋が片側に2つあり、もう片側は壁と窓で、校舎の様な作りであった。

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music:2

彼は3階まで上がり、廊下の中程で窓を開けて枠に肘をつき一服し始めた。眺めは良く、緑のとても心地の良い風景だった。

ぼーっと景色を眺めていると、ふと右側に何か気配を感じた。

shake

そのまま視線を廊下の右端に移すと、心臓がばくんと跳ね上がった。

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music:3

sound:40

廊下の角の下側、地面すれすれの位置に横向きの女の顔が飛び出していた。

長い髪は床にだらりと垂れ、無表情な顔でこちらを覗き込んでいる。

おかしい。

頭が真っ白になり、暫く見つめあっていたが、ふと我にかえった。

慌てて窓のサンでタバコの火を消して、もう一度そちらを向くと、もう女はいなかった。

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music:6

心臓が波打っていたが、床に置いた資料を取り上げて、窓を閉める。

早々に退散する準備をして、女のいた方とは逆の階段に向かおうとした。

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music:6

shake

その瞬間、再び心臓が跳ね上がった。

sound:40

自分の真後ろの、教室のドア窓から女の顔上半分がこちらを覗き込んでいた。

先程は分からなかったが、今度ははっきりと見えた。

髪は油ぎってボサボサで異様に毛量があり、目は無表情で、肌が驚くほど白い。

日本人形のようであった。

ついさっきまで廊下の角にいたのに。

一瞬固まったが、声をあげて飛び跳ねる様に一気に階段まで駆け出した。

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music:6

転げ落ちるように1階まで一気に下り、半ば体当たりしてドアを開け外に飛び出した。

そのまま走りながら、振り返ると今自分が出てきた入り口のドア窓から階段が見えた。

踊り場の角からあの女が覗いていた。

全力で走った。

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music:4

その夜、寝ていると窓の方からコツコツと小石がぶつかるような音がしていたが、それ以外は特に何もなかった。

sound:20

朝起きると窓のサッシのところに異様に長いちぢれ毛が挟まっていた。

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music:4

その日以降研修中は何もなく、他の参加者を怖がらせないために周りには何も話さなかった。

研修から戻って古参の社員にそれを話してみると、「女だろ。あそこは出るよ。もう随分昔から。」とニヤニヤしながら語っていた。

友人は「あれは人間でも幽霊でも怖すぎるし、研修に行くならもう会社を辞めたい。」と溜息をついていた。

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