塾の先生から聞いた話です。
先生(以下A君とします)は子供の頃アパートに住んでいて、
隣の部屋に住んでいたB君という子ととても仲が良く毎日一緒に遊んでいたそうです。お隣同士ということで親の付き合いも深く、一緒にプールに行ったり、映画館に連れて行ってもらったりと、いつも楽しく遊んでいました。
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ある日のこと、A君はいつものようにB君と遊んでいました。公園で鬼ごっこをしたり、ゲームをしたりしていましたが、ある時ふとB君が
「今から○○マーケット行かん?」
と言いだしました。
○○マーケットは最近できたスーパーで、A君たちのアパートからは少し遠いですが、色んな種類のお菓子が置いてあり、二人にとってはとても魅力的な場所でした。
A君が
「でも、ちょっと遠くない?」
と聞きましたが、B君は
「大丈夫大丈夫、自転車に乗っていけばすぐ着くから」
と言いました。
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A君はこの前誕生日プレゼントに自転車を買ってもらったばかりだったのですが、中々乗る機会がなく、B君の提案は自転車に乗れて、お菓子も買える素晴らしいものに思えました。A君は賛成し、二人で自転車をこいで○○マーケットへ向かい始めました。
……それが、良くなかったのでしょう。
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二人は事故に遭いました。信号無視のトラックが突っ込んできて、避ける間も無く撥ねられたのです。
A君は軽傷ですみましたが、前を走っていたB君は頭を強く打ち、即死でした。
一番の友達を喪ったA君は酷く落ち込み、食事も喉を通らず、一日中ぼんやりと過ごしていました。
ですが、両親の支えもあり、少しずつ元気を取り戻していきました。
そんな時、A君を次の不幸が襲いました。
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B君の両親が自殺したのです。アパートの部屋で、二人で首を吊っていたそうです。B君の母親(以下Cさんとします)は一人だけ助かったA君を恨むどころか、A君だけでも助かって良かった、と励ましてくれて、A君が元気になれたのもCさんのおかげでもありました。
Cさんは元気そうでしたが、やはり一人息子を喪った悲しみは深かったのでしょう……
A君はB君の両親が自殺したのは自分のせいだ、自分だけが助かったからだと自分を責め、取り戻しつつあった元気も失い、より一層ひどく落ち込むようになりました。
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ある日のこと、A君はご飯を食べる気にもならず、リビングでぼんやりしていました。その時、
ピンポーン
とチャイムが鳴りました。母が
「こんな時間に誰かしら……?」
と言いながら玄関に向かいました。
その時でした。
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「Aくぅん……Cです……」
と声が聞こえたのです。その場の空気が凍りつきました。
母親は呆然とし、A君は恐怖のあまり何も考えられませんでした。
「Aくぅん……Cです……聞こえてますか……?」
という声がもう一度聞こえた時、不意に部屋の明かりが
消え、A君は喉の奥で声にならない悲鳴をあげました。
明かりを消したのは父親でした。A君がほっとしていると
父親は母親とA君を連れ、足音をたてないようにしながら
奥の台所まで行きました。
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台所まで着くと、父親は声を潜めて、
「アレはな……生きた人間じゃない。ああいうのには、無視するのが一番なんだ。こっちがあっちの存在に気づいていると思われないようにしなきゃいけないんだ」
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shake
「やっぱり聞こえてるじゃない」
恨みのこもった低い声が部屋中に響きました。それと同時に、
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
ドアがものすごい音で揺れ始め、それとともに部屋中が
何かに揺さぶられているかのように左右に揺れ始めました。
A君一家は恐怖に慄き、家族で抱き合いながら一晩を過ごしたそうです。
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その後、Cさんが現れることはなかったそうです。
アレがCさんだったのか、彼女の姿をした何かだったのかは分かりませんが、内心では先生を恨んでいたのかもしれないのかと思うと、怖いような悲しいような、そんな気がする話です。
作者退会会員
タイトル通り、塾の先生から聞いた話を自分なりに少しアレンジしてみました。
この話を聞いたのは塾が終わった時で、10月ごろでしたから、あたりはもう真っ暗で、自分は親に送迎してもらっていたので良かったものの、自転車で通っていた人もいたので、少し気の毒でした……(−_−;)