行方不明になっていた幼なじみがおととし見つかった。
大雪が降った日、実家の玄関にノースリーブワンピースを着て立っていたそうだ。
本人いわく記憶がなく、保険証の住所を頼りに来てみた、と。
彼女の所持品は保険証と壊れた携帯だけだった。
私を忘れてしまった彼女との会話は難しく、時折断片的に口走る言葉が恐ろしくもあり、次第に会わなくなってしまった。
今年の正月のこと。
東京住まいの私は実家に戻り、家族と過ごしていた。
東京に帰る前の夜。
部屋で兄夫婦と飲んでいた。
深夜1時をまわり、そろそろ片付けて寝ようと話していたとき、雪を踏む音がする。
部屋は玄関の近く。窓から誰がきたかわかる。
カーテンを細くあけ見ると、その幼なじみだった。
夜のうちに積もった雪を踏み、玄関に立っていた。
『静かに』
声に出さず兄夫婦に言った。
幼なじみはポケットから何かを取り出し、冬の間は使っていない郵便受けに突っ込むと帰って行った。
眠れずに朝を迎えた。
外が明るくなるのを確認すると郵便受けを見に行った。
溶けた雪で湿った手紙が入っていた。
宛名は『美由紀へ』
『全部思い出したよ。
今まで迷惑かけてごめんね。もう大丈夫だから。』
短い手紙と一緒に写真が入っていた。
病院の待合室のような殺風景な部屋の写真。
『こいつが犯人』
矢印の先にはとある新興宗教の教祖の顔があった。
何が本当か
何が嘘かわからない。
何かが怖くて仕方ない。
ただ一つ言えるのは、
私の名前が美由紀ではないということだけ。
怖い話投稿:ホラーテラー 合法さん
作者怖話