【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編4
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〆切-⚪日前

☆「...ねえ、私のことおぼえてる?」なにもかもフツーな平均男子西森タクミは、幼馴染のミハルに世話を焼かれながら平穏な日々を過ごしていた。しかしある少女が転校してきたその日から、日常は一変するーー!新進気鋭の⚪⚪先生が描く、トライアングル、ラブコメディー!

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「タクミが二人...!?」

「うそ...私が切りつけたらタクミ君が分裂するなんて...っ」

「実は俺は、プラナリアとのハーフなんだ...」

『黙っていてすまない...こんな俺たちでも好きでいてくれるか?』

「決まってるでしょ!アタシの一途さを見くびらないでよ」

「もちろんだよ❤心中しようとして切りつけてごめんね。でもタクミ君が二人になってくれたから三角関係も解決だね❤私は左のタクミ君で...」

「アタシは右のタクミ❤」

『親父がプラナリアで良かったなあ』

~HAPPY END~

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「ボツです」

「ですよね」

「よく見せましたね。怖くないんですか」

「いやもう無理っすよ。思い付かないです。開き直っちゃったというか」

持ち込みをしてから連載まで数年来の付き合いになる編集者の前だと、大分口調は砕けてしまう。

本当は緊張感を持っていないといけない場面なのだが。まあ、仕方がない。

「画力がメキメキと上がっている分ストーリーの駄目さが際立つと言いますか...これならバースや輪郭がおかしかった新人時代の方がましですよ」

編集は銀フレームの眼鏡を指で直した。

彼の苛ついた時にする仕草だ。

「うわ、云わないで下さいよ...ネットで大分ネタにされたんですから」

「エゴサしてたんですか、先生」

連載が始まった頃、評価が気になってエゴサをかけては羞恥に悶えていたものだ。

普通なら友達に聞けばいいんだろうが、交遊関係が極端にせまい俺にはそれはできなかった。

今はもう過去のこと。最近では話題にも上がらなくなった。売れなくなった漫画家は、あっという間に忘れられていく。

「危機感がないんですよ。あなたは。早くこの生活を抜け出したいとは思わないんですか?」

「...いやー、そうですね...。あなたに原稿見てもらって、差し入れ食べて、ボツくらって、また漫画描いて...全然変わってないんですよね、生活スタイルが。...監禁されてるんですけどねえ...」

「...本当にそうですね」

元担当と元漫画家。

もとい、監禁犯と監禁されている男の間に微妙な空気が流れた。

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数か月前のことである。

昔は新進気鋭のラブコメディーなどと謳われそれなりに人気のあった連載だったが、ヒロイン二人との三角関係を上手く決着できずにグダグダかつ無駄な引き延ばしを行った結果、人気は地に堕ちた。

雑誌の巻末を飾るドベ漫画となり、結局は俺たちの恋愛はこれからだENDで打ちきりになった。

中古の本屋には全巻売りに出されるようになり、割りと短い期間で値引きされていた。

俺は手をつけていなかった印税を元手にダラダラと過ごした。今の担当にも期待はされていないし、漫画家を辞めようかとも考えていた。

そんな折に、初代の担当編集からサシ飲みの誘いが入ったのだ。

数年ぶりの連絡だった。

有能だった彼は、出世をしてそれなりに偉いポストに収まっていた。

そんな彼がなぜ?とも思ったが見向きもされず終わった連載を労ってもらったことが単純に嬉しかった。

元担当との思い出話を肴に、普段では考えられないほど羽目を外して飲んでしまった。

気づけば飲み潰れて、目覚めると今の監禁場所のベットで寝ていたのである。

『おはようございます。これから先生には、この部屋で終了した連載を描き直していただきます』

ベットの向かいに座っていた元担当は見慣れた冷静な表情でそう言った。

彼は仕事にたいして完璧主義なのだ。かなーり、行き過ぎな程に。

「許せないんですよ...あなたの作品は僕が立ち上げたんですよ。素晴らしい終わり方ができたはずなんです。

それをあの無能が滅茶苦茶にしてひどい終わり方をさせた」

彼が無能と言っているのは二代目の担当のことだ。

確かに、アニメ映えを意識しようだとか、色々なテコ入れを強要された節はある。

確かに計画していた話の流れから大分ずれてあの頃から迷走が始まったな、とは思っている。

「分かりました。終盤直前から書き直すのでは不可能ですね。先生、私が担当を替わった直後から書き直しましょう」

「ええっ、そうなったら何年かかるかわかりませんよ」

「大丈夫ですよ。金銭面では心配要りません」

そういえば彼はお偉いさんになっているのだった。

俺を養うくらいわけないのだ。

「何十年後でも、必ず描ききっていただきます」

「...編集者の鏡すぎて怖いですよ」

俺は監禁されていて、言うことを聞くしかない。

それに、ここまで期待されては漫画家冥利に尽きるというものだろう。

もし彼の満足する終わりが描けたら、そのあと俺はどうなるのだろう。

殺されるのかなあ、と寝不足の頭で考えるが不思議と怖くはない。

今のところ怖いのは監禁犯、もとい担当の出す〆切である。

Concrete
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