俺の名前は景山太郎。
自分で言うのもなんだが、俺にはこれといった取り柄が無く、影も薄く、友達もいない。
だが、そんな俺には、普通の人間にはない特徴がある。
俺は所謂超能力者というものらしい。
俺には、生まれつき目の前の人間の顔の上に数字が見える。
数字はそれぞれみんな違い、大体少なくて一桁、多くて九桁と言ったところだ。
例えば、うちのクラスでは、不良の関口は45、ガリ勉の鈴木は18、バスケ部でイケメンの太田は31、ミステリアスな雰囲気の葛城は4、そして留学生のマイケルは64だ。
大体みんな一桁から三桁くらいだが、その中でも圧倒的な数字を誇る人物がいた。
それは、学校一の美少女でこのクラスのマドンナ、秋宮寺麗奈だ。
秋宮寺さんは、成績もスポーツも学年トップで、しかも大金持ちのお嬢様で、クラスの人気者だ。
SNS上でも友達の数は圧倒的に多く、噂ではアイドルの龍埼ハルトと友達らしい。
そんな彼女の数字は、なんと42961だ。
テレビによく出る芸能人や政治家は大体みんな4〜9桁だが、彼女もその域に達している。
俺は16年間数字について考えてみて、ある仮説を立てた。
もしかして、その人の友達の数なんじゃないか?
そう考えると、芸能人や政治家の数字がやけに多いのも説明がつく。
…関口の45はさすがに多すぎだけど、まあアイツ不良仲間とつるんでたもんな。そんくらいいるって事だろ。
ちなみに、その仮説が正しいと確信したのは、俺の数字が生まれてからずっと0だったからだ。
俺は、生まれてこの方一度も友達ができた事がなく、いつも他人の影に隠れて生きてきた。
…どうせ俺は、このまま一生表舞台に立つ事無く、孤独に生きていくんだ。
「あれ、景山君。どうしたの?暗い顔して。」
「…あ、えっと…秋宮寺さん。別に…なんでもないよ…」
「なんでもなくないでしょ。なんか嫌な事でもあった?私で良ければ話聞くよ?」
秋宮寺さんは、こんな俺にも優しく接してくれる。
俺は、正直に悩みを打ち明けた。
「ふうん、なんだ。そんな事か。景山君、ずっと友達が欲しかったんだね。」
「…ま、まあ…」
「あのさ、もし良かったら、私と友達になってよ!」
「え、でも…いいの?」
「うん、クラスメイトだもん!当たり前でしょ!これからもよろしくね、景山君!」
その瞬間、窓に映った俺の数字が1になった。
…やった、ついに、俺にも友達ができたんだ!
しかも、俺なんかじゃ絶対手が届かないと思ってた秋宮寺さんと…!
俺は、スキップをしながら家に帰り、上機嫌のまま1日を過ごした。
次の日、鏡を見てみると数字がまた0になっていた。
え!?どういう事だ!?俺は、昨日秋宮寺さんと友達になって、数字が1になったはず…
もしかして、秋宮寺さんは俺の事をもう友達だと思ってないって事か…?
俺は、急いで学校に駆けつけ、教室に入った。
すると、信じられないものが目に飛び込んできた。
「…え。」
秋宮寺さんの机の上には、遺影と花が置かれていた。
遺影の秋宮寺さんの顔の数字は、1000以上減っていた。
「おい、なんだよこれ…一体どういう事だよ!?」
隣の席の佐藤が答えた。
「…お前、知らないのかよ。…秋宮寺さん、昨日死んだんだよ。車に撥ねられて。」
「…え。」
ショックのあまり、俺の頭は真っ白になった。
嘘だ、秋宮寺さんが、どうして…
「…あれ?みんなどしたの?」
葛城が教室に入ってきた。
葛城が秋宮寺さんの遺影の前に立った時、秋宮寺さんの数字が1減った。
その時の葛城の顔は、笑っているように見えた。
その瞬間、俺は数字の意味に気づいた。
…ああ、なんだ。そういう事だったのか。
窓に映った俺の顔は、ほくそ笑んでいた。
作者こちらバナナ撲滅委員会
数字が表しているのは、その人の友達の数ではなくその人に対して死ねと思っている人の人数。
有名人や人気者は、恨みを買う事も多いため数字が多かった。
逆に、語り手は影が薄く空気のような存在だったため、誰からも恨まれず数字も0だった。
最後に数字が減ったのは、今まで秋宮寺に対して死ねと思っていた葛城が、秋宮寺が死んだ事を知って、死ねとは思わなくなったから。
人気者だという事は、その反面敵も多いって事ですね。