長編14
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儀式(虚構の世界⑤)

「なあ、もし人生やり直せるとしたら、お前どうする?」

島崎の言葉に、僕は何か…いつもと違う感覚を覚えた。

人生をやり直せるとしたら…誰だって1度くらいは考えた事はあろうこの問いに、僕はいつにも増して真剣に考え込んでしまった。

「ちょっと、村本~そんな変に考えなくたっていいってば(笑)例えばさ、もっと女の子と遊びたかったな~とか、ゲームしたかったな~とかさぁ!」

「あー、うん…ごめん!いやぁ僕色々さ、こう見えてしくじって来たからついね…まあ、しいて言うなら…ここよりもっと良い大学入って、もっとインテリな奴らと付き合いたかったな…なんて」

「うぉい!何だよそれー!(笑)俺じゃ不満かよぉ~酷ぇ奴だなほんと(笑)」

ゲラゲラと笑いながら煙草をふかす島崎に、僕もつられて笑ってしまった。

僕と島崎…大学に入って間も無く、何をきっかけだったかは忘れてしまったが…いつの間にか常に一緒にいるようになった。

バイトや専攻の授業以外の、全ての時間を2人で過ごしていたせいか、お前ら何か夫婦みたいだな、と周りから揶揄される程だった。

「やめろよぉ!夫婦って…(笑)」

そう言いながら笑う島崎の横で、僕はまんざらでもないと思いながら、どこか複雑な気持ちでいた。

そしてそれは、ただの「友情」だとか「親友」という感情を越えてしまっている事に…自分でも不思議なくらい、そんな想いが日に日に強くなっていた。

この、同級生の中で誰よりもオカルトに傾倒し夢中になっている変わり者と、常に一緒に居られる…いや、一緒にいる事を許されているのは、この僕だけなんだ、と。

「冗談だよ!ごめんって(笑)…でも何で突然そんな事聞いたの?」

「実はさ…異世界に行く方法ってのを知ってる奴が、俺の地元に居るって言ってたろ?今度さ、そいつがこっちに用事で来るって言っててさ…俺、色々教えて欲しくて頼み込んだんだ。そしたらOK貰っちゃってさぁ!凄ぇだろ!?」

…そう興奮気味に島崎が言う姿に、僕は若干身をのけぞらせた。異世界…それは島崎にとって永遠の探求テーマだそうで、色々本を漁ったりネットで調べたり…それは熱心にやっていた。

とは言っても、「参考文献」と呼べる様なものは1つも無く、UFOやUMAなんぞの話題を掲載しているオカルト雑誌や、某ちゃんねるのオカルト板などと言う…どちらかと言えば極めて信憑性の疑わしいものばかりが彼の情報源だったから、僕は単に笑い話のネタとして受け取るまでだった。

だが…その時の、島崎の瞳の爛々とした輝きは、今まで見たことの無いものだった。

異世界なんて、本当にそんな世界存在するのか?そんなもの有る訳無いじゃん…と高を括っていた僕の態度が表情に出ていたのか、島崎はフッ…と真顔になり、少し不機嫌になった。

「俺、結構真面目に言ったんだけどなー?たとえ村本が信じてなくても、バカにしてたとしても、俺にとっては凄ぇ事なの!ふん…」

「いや、ごめん!ごめんって…だって余りにも唐突でさ…異世界って、どうも僕分かんなくて…でも、君の趣味を悪く思ってる訳じゃ無いよ!?いつも君の話聞いてて興味深いし、面白いし…なあ、その人に僕も会わせて貰えないかな?」

「お!?おぉ!勿論だっつの!その人な、来週末に来る予定なんだ。来週ってともう夏休みじゃん?1週間ぐらいは滞在するって言ってるから、バイト終わったら一緒に過ごそうぜ!」

その屈託の無い無邪気な笑顔…僕は安堵と同時に、「やっぱり僕だけ、僕が特別なんだ」と優越感を覚えた。

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予定よりも30分程遅れて、彼は待ち合わせに指定した駅の改札に来た。

彼の事を島崎からあまり聞いていなかった事もあって、きっと僕等よりも年上で、なんなら初老の、いかにも「儀式を司る人」って感じだと僕は思っていたのだが…目の前に現れた彼の出で立ちは、僕が想像していたものとはまるでかけ離れていた。

茶髪に所々金のブリーチを入れた肩まで伸ばした長髪に、着古したジーンズに白黒のラグランシャツ…両手首にはジャラジャラとアクセサリーを付け、そしてどこか気怠い雰囲気を醸した…僕等と同い年位の男だった。

「久しぶり、島崎君」

「久しぶりっす!!!いや~わざわざここまで…お疲れ様です!」

「フフッ(笑)何それ何で敬語?僕等タメなんだからそういうの良いってば(笑)」

見た目とは裏腹に、穏やかな話し方に何だか拍子抜けしてしまった。ていうか、2人は…友達?一体どんな関係なんだ…?

「あ!こいつは俺の友達で、村本っていうんです!今回こいつも一緒に…見ても良いですか?」

「だから敬語じゃなくていいってば(笑)う~ん…うん、まあ良いよ、初めまして…村上です」

「あ…どうも…村本玲汰です、初めまして…」

「村本と村上って、なんかややこしいな!(笑)」

「そ、そうだね…じゃあ、僕の事は下の名前で、玲汰って読んで下さい」

「そう…じゃ玲汰君、よろしくね」

村上は、そう言って僕に微笑んだ。物腰の柔らかそうなその笑顔の後ろで、島崎もニカッと笑顔を浮かべていた。

「友達」か…何だろうこの、変なモヤモヤした感じ。

「ま、とりあえずは飯でも食べに行かない?玲汰!ホラ、行こうよ!」

そう言って島崎は、我先にと僕と村上の前を歩いていく。そしてファミレスに入るとあれよあれよと注文をして、得意の早食いをすると「ちょっと一服してくるわー!」と言って、僕を残して喫煙所に向かってしまった。向かいには今さっき初めて会ったばかりの、謎の男…

「玲汰君は、彼と付き合い長いの?」

「はい…あ、いや、大学に入ってからなので、まだ2年ぐらいですけど…いつも一緒につるんでます」

「そうなんだ(笑)じゃあ…あいつのオカルト趣味も周知の上って感じか(笑)」

「ええ、まあ…島崎、地元でもそうなんですか?」

「どうかな…?末っ子の弟にはよく話してるみたい。まあ兄貴には反抗出来ないだろうって事で、聞かせてるんじゃない?」

どうかな…って、地元の友人なのにそんな事も知らないのかよ…

「ふうん…で、今回はどんな用事で…?」

「そうね…まあ島崎から聞いてたと思うけど、依頼を受けてね…それでこっちに」

「具体的にはどんな事を?」

「それはここでは言えない」

何だか不安になってきた。こいつ本当は、裏社会と繋がってるとか…危ない奴なんじゃないか?こんな穏やかな顔してるけどさ…島崎は、大丈夫なのか?

「待たせてごめん!お…どうした?もう打ち解けた感じ?」

「まあそうだね…島崎、今日は取り敢えず、宿に泊まって休むよ。準備もあるし…」

「そうか、じゃあ宿まで送るよ!玲汰、良いよな?」

会計を済ませると、僕らはそこから徒歩20分程の場所にあるビジネスホテルまで村上を送った。彼が手を振りながらエレベーターに乗って姿が見えなくなると、僕はやっと安堵した。

そうだよな…島崎の家に泊まるなんて事…有る訳が無い。オカルト雑誌やゾンビや宇宙人のフィギュアで埋め尽くされた、狭いワンルームになんて…僕だって無理なんだから。

「島崎…村上君って、大丈夫なの?」

「へ?何が?」

「いや、何でもない…今日はもう帰るよ」

不安ばかりが募っていたが、親友に必要以上の疑いを掛けているような気がして、それ以上は聞けなかった。僕にとって島崎は親友で…いや…僕は彼の事を…

混乱しそうな頭をどうにか冷まそうと、僕は1人暮らしのアパートに帰るなり、いつもより早く床に就いた。

それから3日後の事だ。村上から島崎に連絡があり、僕はメールに添付されていた地図を頼りに「ある場所」へ向かった───────

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アパートの反対方向にある住宅街を抜けると、未舗装の田舎道が真っ直ぐ続いている。

そこを更に歩く事およそ30分…人気の全く無いその場所に、古びたトンネルがあった。

さほど長いトンネルでは無いのに、向こうの出口は驚くほど真っ暗で…いかにも「何か出そう」な恐ろしい雰囲気を纏っている。それに周囲は雑木林に囲まれ、さっきまで歩いてきた明るい住宅街とは一線を画していた。

その不気味な空気に思わず足をすくむと同時に、「こんな所に連れ出すなんて、村上はやっぱり危ない奴なんじゃないか?」という不安で心臓がドクドクと鳴った。と、その時…

「お!いたいた~玲汰!こっちだよ!」

真横から声が聞こえて振り向くと、陽気に手を振る島崎が居た。

「迷うかと思ったらちゃんと来れたな(笑)村上、もう着いてるから行こうぜ、こっちこっち…あ、このトンネルな、幽霊めちゃくちゃ出るので有名だぜ~(笑)」

余計な事言うなよ…!と背筋に寒気を感じながら、僕は島崎の後を付いていった。トンネルを真横に通り過ぎ、雑草の生い茂る道を暫く進んで行くと、急に道が開けて…目の前に広い空間が姿を現した。

気が付くと地面も砂利道に変わり、雑草1つ生えていないその広場の中心には、丁度神社の本殿に飾ってあるような紙の装飾を施した、背の高い木枠が置かれていた。

そして、広場の端には小屋があり、島崎曰く「あそこに依頼者と村上が今準備をしていて、今回はその様子を見せて貰える」…という事だった。

「儀式そのものは、僕らは見せて貰えないの?」

「うん、依頼者と村上しか参加できない。それでも、準備段階を見せて貰えるだけでもかなり貴重なんだぜ~!ああテンション上がって来た(笑)さ、こっち…」

島崎に手を引かれ、歩き慣れない砂利道を小屋に向かって進むと、小屋の戸が開いて村上が顔を出した。この間とは違い、髪を束ね服は白装束を纏っている。いかにも儀式の格好だ。

「玲汰君よく来たね、ちょうど今から始める所だよ。…とは言っても、想像してるよりも結構地味だし、退屈に感じるかも知れないけど…」

「いえ、こんな経験無いので…お邪魔させていただきます」

ありきたりな挨拶を交わした後、僕と島崎は小屋に上がり、村上の後について座敷に入った。

そこには、女性が1人座布団に正座していた。

「宗田さん、この方たちは僕の友人で、今回の事を是非見学したいとの事で、僕が連れてきました。勿論儀式本番には参加させませんので…どうかお気になさらないでください」

「そうですか…宗田と言います…この度は私事で…」

女性はそうか細い声で言って頭を下げた。見た感じどこにでもいる、普通の中年女性だ。このおばちゃん、一体何を依頼したんだろう…逆に気になって仕方が無かった。

村上は、自分と女性のいる場所から少し離れた所に座布団を敷いて、僕達に座るよう促すと、

女性と向かい合って話始めた。途端に空気が張りつめ、声以外は全くの静寂に包まれる。

「宗田さん…では本日、『鞍替え』を行います。事前にお願いしていた通り、娘さんの一部は持ってきましたね?」

「はい…娘の、歯と髪の毛と、あと…とにかくこれを…」

女性はカバンから、箱を取り出して村上に渡した。村上は箱を開けると頷き、また話を続ける。

「娘さんの意識が感じられました。大丈夫です…ただ、改めて1つ申し上げておきたいのは、鞍替えに成功しても、それがすぐにとは限りません。1年、いや10年かかる場合もあります。

それは…実際生まれ変わる本人が、『向こうの世界』にどれ位の期間留まるかによります…ずっと向こうに留まる事は出来無いので、いつかは『生まれ変わる』のですが…それは遠い未来になるかも知れない、という事です。それを分かっていただけますか?」

「え、ええ…勿論です…翔子も分かってくれました…、脳の損傷が酷くて…それでも瞬きで、私との会話はしてくれたんです…でも、もう…あの子がずーっとあの状態でなんて…婚約していた方も、来週別の女性と結婚するそうです…」

「ビルの天井から転落した…と言っていましたね、その場にいたご友人が救急車を呼んだと…」

「はい…聡子ちゃん…友達なんですけど…実は、その婚約者と結婚するのがその子なんです…」

「そうですか…」

大怪我した娘の元婚約者と結婚する女友達…聞いている限り、かなり闇の深い修羅場だ。隣で聞いていた島崎も、気が付くと何だか鬱々とした顔になっている。

「お願いします!どうか…たった1人の娘なんです!これからの人生…ずっとあのままなんて耐えられないんです…まだ、まだ若くて未来があるのに…」

女性は突っ伏して、泣きながら村上に向かって土下座をした。嗚咽交じりに「お願いします」と繰り返す姿に、悲痛しか感じられない…村上は冷静に、止めることなく女性の背中をジッと見つめると…女性が顔を上げたタイミングで、身を寄せて言った。

「…分かりました。では娘さんを『鞍替え』します。捧げモノは、あなたのもので…いいんですね?儀式の途中で、辞める事はなりませんよ…」

女性は尚も泣きながら、今度は「宜しくお願いします」と何度も村上に頭を下げた。

「私のものが役に立つなら…娘の為に、娘が助かるのならば、何だってやります…!」

去り際、女性が僕達に向かって「ありがとうございました…」と挨拶をしてくれたのだが、その顔は最初に見た時よりも、何だか清々しい様な…「思い残すことは何も無い」という感じに見えたのは、僕の思い違いでは決して無かった。

何時間か経った後…村上だけが座敷に戻って来て、「彼女は成就したよ」と、その一言だけを僕らに告げた。片手に、女性の物と思しき骨を持って――――

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村上を再びビジネスホテルまで見送った後、僕は島崎を自宅に誘った。とても1人で寝れる心境にはなれず、島崎に泊まってくれるよう頼んだのだ。

当然だ…さっきまで自分らの前で、確実に「生きていた人間」が、ただの骨1本となって帰ってくるなんて、誰が想像出来ただろう?島崎は興奮で、目を爛々と光らせてただ言葉を失っていたが、僕は別の意味で声が出なかった。その光景が頭にこびりついて離れず、背筋が寒い。

村上は別の意味で危ない奴だった…怖い…!なんであんな奴の事、島崎は心酔してるんだ?

「なあ、玲汰…凄かったろ?ああやって村上は、人助けしてるんだ」

島崎は缶ビールを片手に、恍惚な表情で僕に言った。

「鞍替え」とは、肉体から魂を引き離して、別の肉体に移し替える事を言うのだそうだ。あの女性の娘は事故で寝たきりだったが…儀式が成功して苦痛から解放され…そう遠くない未来に「生まれ変わる」事が出来るのだと。島崎は村上からそう教えて貰ったそうだ。

「でも…さ…あの母親はさ…あれ、どうなったんだ…?」

「ああ…娘の為にな、神様に自分を捧げたんだ」

「…え…捧げた…?って…まさかあれ本当に…」

「まあ儀式そのものを見てないから、どうやったかは分からないけど…人身御供だよ。神様にお願いする為の…母の愛は強いよなあ~…俺もさ、俺もやらなきゃな」

「…え…?」

島崎、何言ってんだ?やらなきゃ…って…

「馬鹿な事言うなよ!そんなの…俺が許さないからな…!」

「…玲汰…アレを怖いと思ってしまうお前の気持ちも分かる…俄かに信じられないって事も…だけどな、村上は…村上の家族や先祖は代々、アレを生業として来たんだ。

無論、全ての不遇にある人達を救えるわけじゃない…けど、あの母親は自分の人生、自分の存在そのものを「無」に帰しても良いって、その覚悟で村上に頼んだんだ。だから村上もその命を無駄にせずに、儀式をやったんだ…」

「だとしても…何でお前が…何か?どこか…もしかして、お前も体の具合が良くないのか!?」

「違うよ…、…村上な、今回の儀式が終わったら、もう廃業するって言ってんだ…あいつ、肺に持病抱えてて……もう…長くないんだって…」

島崎の肩が震えて、パタパタ…と、床に涙が零れる音がした。

「教えて貰えるってのはさ…俺がさ…俺が今度は村上を…『鞍替え』させてやりたいって思って…、勿論、何度も断られたよ…俺は家系じゃないからな…ただのオカルト好きに出来る事じゃないって…そんなの承知でさ、何度も何度も頼んで…ようやく認めて貰えたんだ。村上の…村上の助けになりたいんだ…」

「やめろよ…何で…僕、お前の事…お前が…」

「知ってるよ」

「…え…?」

「お前が俺の事、『好き』だって…俺、随分前から気付いてた。だから一緒にいたんだ」

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島崎は村上の事情を、こっちに来る前日に聞かされていたそうだ。

もう自分の命が長くない事を。そして今回の儀式を以って、この生業を自分の代で終わらせるという事を…

彼の家系では、親より先に「生まれ変わる」事は本来禁忌だそうなのだが…彼の先代が「神様」にお伺いを立てたら、「赦し」を貰えたのだと。

そしてあの女性と同じく…彼の両親も、彼を鞍替えさせる為に、「自らを神様に捧げる」事に決めたと…

島崎はそれを聞かされるまでは、「異世界」や「儀式」を見れるという事を単純に楽しみにしていたのだが、村上からその話を聞いて、とてもそんな気にはなれなくなったそうだ。

あの座敷で見せた鬱々とした顔は、女性の経緯を聞いてしまったからでは無く…「今度は自分が村上に対して、あんな風に儀式を行うんだ」という心境からだった。

「来週な…地元に帰る、向こうで、ちゃんと…ちゃんと村上を「送り届けて」、帰ってくるからさ…」

背中越しに、島崎が僕に囁く様に言った。

「なあ…村上君がさ…すぐには「生まれ変われない」って言ってたけど…あれはどういう意味?」

「あれはな…魂を切り離すと、意識だけになって…『異世界』には、そうやって村上の家族によって儀式を受けた魂が、『意識だけの状態』で存在してるんだって…個人の意識だから、今迄の記憶だけじゃなくて、妄想とか…想像を具現化してる世界だから、凄く、ぐちゃぐちゃした世界になってるかもって…」

「そうか…何か…不気味だな…」

「そうだな…なあ玲汰?」

「うん?…」

「儀式に来てくれよ、手伝って欲しい…俺の側で、側にいて見届けて欲しいんだ…」

1週間後――――僕は島崎と村上と共に、2人の郷里へと向かった。

「村上君…明日だね…」

「玲汰君、短い間だったけど、仲良くしてくれてありがとう」

「あの…さ、変な事聞くけど…『向こうの世界』から、こっちに連絡するとか、出来るのか?」

「プっ…ははははっ(笑)面白いこと聞くね…ふふっ、そうだね…やってみるよ」

「待ってますから、どんな内容でも…何年経ってもいいので」

「ありがとう…ふふっ、いたずらで変な手紙出すよ(笑)向こうの世界も暫く過ごしてみようかなって思ってるんだ…」

「変な内容はやめて下さいよ~!(笑)」

「じゃあ、合言葉的な感じでさ、これが届いたら、僕はちゃんと向こうの世界にいますって、そういうのはどう?

例えば…『結婚しました』とか」

「えっ何で結婚?(笑)向こうで新婚生活するの!?そういうのって出来るの?」

「違うよ…でもね、こんな人に鞍替えしたいって人は居るんだ、結婚してる人!」

「…何か、村上君って変な冗談が通じない奴だと思ってた。けど、面白いね…何か僕、最初少し邪険にしてたよ、ごめんな…」

「いいんだ…玲汰君、島崎を頼んだよ、支えてやってくれよ…」

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全てが終わった後、僕達はこの「生業」についての一切を知られない様にすべきだった。

人の業は醜い。それを知っていた筈なのに…まさか、ネットにあの「方法」が書かれているなんて。あんな安っぽい、デタラメな方法で…

誰がやったのか?だとしても何故?もしかして、生まれ変わった人の誰か…?

僕も島崎も出来る限り調べたけど、結局は分からないまま時が過ぎて…1度は結ばれた筈の僕達も、すっかり疲れ切ってしまった。

それは、時が経つ毎にこの社会の、この世の汚いものを見せられてしまった所為もあるのかも知れない。ギスギスと、心だけではなく体の節々を…骨身を締め付けられる様な、そんな苦しみを。

それでも、僕らには微かに希望があった。

いつか行くんだと…あの時、村上と交わした約束を。

「手紙が届いたら、これを捧げ物として『あの場所』に行くと良い…だけど、安易な考えじゃ駄目だよ?罪を犯さず、慎ましく生きないと駄目だ。それでも、どうしようもなく疲れてしまったら…」

僕は、待ってるから―――――

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