儚い雰囲気の同級生がいた。彼女は幼稚園から中学校まで同じ所に通っていて、家族以上に何でも話せる私の一番の親友だった。
大きくて綺麗な手をしていて、勉強と運動はイマイチだけど字と絵が上手い自慢の親友。
ずっと彼女とは親友のままで、互いの結婚式に出席して、家族ぐるみで仲良くなって、年をとってもずっとこのままで。そんな未来を夢見ていた。
そんな未来は、来なかった。
高校受験を間近に控えたある日、こんな事を言ってきた。
「もし私が死んだら、ユウ(私の仮称)ん家の洗面所の水を流して知らせるね」
私は、意味が分からなかった。けれど元から冗談やおふざけが好きなタイプの子だったのであまり気にも留めず、
「気付かなかったら意味がないから私が家に居るときにしてくれ」
冗談めかしてそう答えた。
彼女は「ユウらしい」と笑っていた。
程無くして下校時刻となり、彼女と「また明日」と言葉を交わし別れた。
夜、私は今まで出した事の無いほどの高熱に魘された。
頭が割れんばかりにズキズキと痛み、どうにもならない程だ。
仕方なく頭痛薬を飲み横になる。暫くすると眠気に襲われ、そのまま身を任すように意識を手放した。
翌朝、昨夜よりは幾分かマシではあるが熱が引かないので学校を休んだ。
彼女に学校を休む旨のメールを入れたが、珍しく返信がなかった。
(今日も話したい事たくさんあったのに)
そう思いながら再度眠りについた。
どれくらいの時間が経過したのか、空が赤い。
私はというと、依然として発熱しておりおまけに吐き気もしてきた。
少し顔でも洗ってみようかと洗面所に行く。
sound:3
水が、出ている。
その時思い出せなかったのだ。
彼女の言葉を。
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そのまま顔を洗い布団に戻ると、また意識が沈んだ。
妙な夢を見た。
彼女が私の両手を強く握り、ひたすらにお礼と謝罪を繰り返しているのだ。
夢の中の彼女はいつもの笑顔より少し切ない顔をしていて、私は泣いている。
夢なのに、どうしようもなく悲しくて切なくて、咄嗟に彼女の名前を呼んだ。
「起きた?大丈夫?」
聞こえてきたのは母の声だ。
目を開けると外は完全に夜になっていて真っ暗だった。
水が欲しいと母に告げると、
「…ごめんね、体辛いだろうけど下に来れる?」
そう言いなんとも言えない表情で私を優しく起こした。
一体何だと言うのか、私は不思議に思いながらもだるい体を無理やり起こし一階に向かう。
リビングには父が神妙な面持ちで胡坐をかいて待っていた。
「ユウ、そこに座りなさい」
いつもと雰囲気が違う父に戸惑いながら素直に従う。
母が私の手を握る。
「…あのな、気をしっかり持てよ」
私の手を握る母の手に、力がこもった。
「…○○ちゃんが、亡くなった」
理解が追い付かなかった。
「原因は不明で」「自●の可能性を視野に入れ」「事件性は無い」「発見者は弟の」
「外傷も特に無く」
父の言葉が全く耳に入ってこない。
涙も、出てこない。
母が私を抱きしめ啜り泣いている。
頭が痛い。
私はゆっくり立ち上がり、
「しってる…」
そう言い部屋に戻った。
翌朝、両親の反対を押し切り無理やり学校に行くと全校集会が開かれた。
親友の死についての内容だった。
それでも私は泣けなかった。
どうしてかは分からないし、分かりたいと思わない。
何故か、親友がそばに居る気がするから。
いつもの笑顔で居てくれている気がするから。
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それからと言うものの、近しい人が亡くなるときは水の音が聞こえるようになった。
それは気のせいなのか、或いは後悔しないように親友が知らせてくれているのか。
どちらなのか知る由もないが、今のところ私は後悔せずにすんでいる。
作者柳
ありがとう、大好きだよ、あなたと会えて幸せです。
生きているということは、何があるか分からないということ。
大事な思いは今伝えよう。
後悔は決して、先に立たないのですから。