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短編2
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近づいてきたもの

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梅雨の終わり頃のある日、昼前にベビーカーを押して自宅マンションからすぐ近くの薬局から帰ってきたときのことです。空気がどんより重く湿っていて、雨も降っていて視界も良くはなかったのですが、道の向こう側から一人の女性が歩いてくるのが見えました。

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『少し太った中年女性、足が不自由』と、瞬時に判断したのを覚えています。細い歩道なので、こちらが急いでマンションに入らなくてはと考えていたのですが、ふと女性の姿に違和感を覚えてまじまじと見つめてしまいました。

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黒いマスクをしている、と最初思ったのですが、そうではなくて、穴が空いたように、顔がなかったんです。帽子からパーマのかかった毛も見えていて、上はグレーのウィンドブレーカー、下は花柄のズボンといたって普通の中年女性の服装。でも顔だけが「ない」もしくは「見えない」んです。

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あとは歩き方です。どう見ても腰から下が、ぶらぶらというかくねくねというか、横に揺れているんです。「歩いているように見える」だけで、歩いているわけではない。

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「人間ではないかもしれない」とぼんやり思いました。なぜか「人間の真似をしているだけだ」と思いました。ふしぎと怖いとは思いませんでした。

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そのとき、ベビーカーの中から赤ちゃんが声をあげたので「ごめんね、もうすぐおうちだよ」と声をかけました。

shake

ベビーカーから顔を上げると、10mくらい離れていたはずの「それ」が瞬時に5mほど先に移動していました。

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「あ、まずい」と思いました。ベビーカーを全速力で押して左折し、マンションの敷地内に入りました。エントランスまでのアプローチは小さな公園のようになっており、敷地はぐるりと塀で囲まれ歩道側には大きな門が立っています。

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その門をくぐり終えたとき、わたしのすぐ背中に「それ」が立っているような気がして振り返ることができませんでした。門をくぐってからは何事もなく、無事に家に帰れたのですが、あれは一体なんだったのでしょうか?

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