私の妻はよく出来た女性だと思う、態度は穏やかで容姿も端麗
更に夫である私の事を常に考え私の事を立ててくれる
やまとなでしこという言葉があるのを知っているだろうか
妻は正しくそうだと思う
人からそう言われて褒められた際にも謙遜せず素直に妻に代わって礼を言っている。
そんな妻を愛している愛妻家の私が自分の妻へのやまとなでしこか?という問いかけに
否定しなければならない状況に陥った事がある
もちろん普段ならその様に問われたらそうだと肯定するのだがその時は普段とは少し違った。
ある日の帰り道
いつもの時間より数時間帰るのが遅くなり妻に早く会いたい一心で家路を急いでいた
駅から歩いて数分、普段は薄暗い程度の路地だがその日は退社が遅れたため見慣れたはずの路地が全く別の道を歩いているように錯覚するほど暗かった
そんな道を不気味に思いながら早足で歩いていると
ふと後ろから「すみませんそこの人」と呼び止められた
流暢な男性の声だった、応対する直前に考えた
こんな時間にこのような暗い夜道で何をしているのだろう
だが周りは民家という事もありその住人だろうと思い家路を急ぐ余りに何か落としものをしてまったのだろうかと振り返りつつこう応えた「はい、なんでしょう」
振り返った瞬間私は心の底から後悔した、私を呼び止めた人、いやソレは全身白灰色で大きさは約2mほどある巨体
その頭頂には頭の様な丸みを帯びていて顔はあたりが暗い故に口から上は見えなかったが
口はまるで壁に出来た亀裂の様に縦に割れておりその中は暗い闇に覆われていた
闇に映えるような色合いでゆらゆらとソレは振り返った私を見やり
先程の流暢な男性の声とは似ても似つかぬ
人間では無い生物の喉から無理矢理人間の声を出しているかのような声色で私にこう尋ねた「お前の連れ合いはやまとなでしこと呼ばれた事はあるか」
私は迷わずにこう応えた
「い、いえ、1度もありません」
すると「ならば、よい」そう言葉を発し私の目の前から気づいたら消えていた
その後の事は良く覚えていない
ただ気付いたら玄関でへたり込んでおり
そんな私の顔を心配そうに妻が覗いていた。
それ以来やまとなでしこという妻への賛辞を聞いた際返答に一瞬迷ってしまうようになった。私はあの時本当に否定して良かったのだろうか
もし肯定していたらどうなっていたのか想像するのも恐ろしい。
あれからなんの変哲もない日常を過ごしている
あの化け物の事は妻にはまだ言えていない。
作者pie berry
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